Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

パテントの意匠特集

峯先生の「改正意匠法と残された課題」を読みました

パテントの2020年10月号に掲載されていた、峯唯夫先生の「改正意匠法と残された課題」を読みました。

1998年(平成10年)法改正からの流れが概説してあり、今回の法改正と、今後の課題まで説明されています。

大きな改正である、1998年(平成10年)改正、2006年(平成18年)改正、2019年(令和元年)改正について、説明してあります。

 

峯先生のまとめを読んで思った点をメモします。

 

●1998年当時からあった、アイコンの保護の要請が、今回の「画像デザインの保護」で達成されています。

 

●この20年、通奏低音で流れているのは、無審査主義の検討であるように思います。これは、商標とも共通する課題です。しかし、今回の意匠法改正では、ここに触れていません。

 

峯先生は、無審査主義とのダブルトラックを、将来の課題として挙げており、無審査による簡易な保護を希望する「ファッションロー」のようなデザイン分野があるとしています。

ファッション関係というと、衣服、装飾品などとなります。このあたりは、出願するのが大変で費用がかかる、重たい意匠制度を回避する傾向にあるのはわかります。

また、うろ覚えなのですが、食器なども、あまり意匠制度を使っていなかったのだと記憶しています。最近はどうなのか詳しくないのですが、業界団体で自主登録制度などがあったりするのではなかったでしょうか。

 

本当は建築物のデザインのような一品制作的なものを、意匠制度に持ってくる前に、本来意匠が取り込むべき、工業的な大量生産品についての、取りこぼしを如何に意匠制度に取り入れるのかを検討する方が、先決問題だったような気はします。

そうなると、無審査主義とのダブルトラックになるはずです。

 

●一方、画面デザインの保護は、おそらくはアップル対サムスンアメリカの判決などに触発されたのだと思います。

 

この点は、峯先生のまとめに記載されている、2003年(平成15年)の知的財産研究所の調査研「デザインの戦略的活用に即した意匠制度の在り方に関する調査研究委員会」の報告書にある議論が、重要であるように思います。

https://iip.or.jp/summary/pdf/detail03j/15_02.pdf

 

ここでは、意匠の開発プロセスの時系列に沿って、生む出される知的成果物をどのように分類するか議論がされており、

  1. 意匠法の保護対象より上流のプロセスにおける知的成果物=コンセプトや機能や用途、創作
  2. 製品、商標の完成時における知的成果物=美観
  3. 意匠法の保護対象より下流のプロセスの知的成果物=自他商品識別記号

と整理しています。1.は特許や実用新案との重複や過度な保護、2.は意匠権の効力範囲が曖昧、3.は商標法や不正競争防止法との重複などが議論されたとあります。

 

●もう一つ重要な論点として、意匠から「類似」概念を無くして、「同一性」概念にという論点もあるようです。

1.の創作説的にみると、3.の混同説的な「類似」概念よりは、「同一性」ということがスッキリします。

 

もともと、2.の美観のあたりが意匠法の本来の立ち位置だと思います。

最近は、コンセプトや創作の保護である1.に向かっています。関連意匠や、部分意匠やを認めた段階で、意匠法はシフトしたと思います。

しかし、1.の立場でも、2.の立場でも、実際の侵害裁判の判断は3.のように行うしかありません。このあたりが意匠の難しさなんだろうなと思います。

 

●今回、アイコンの保護は、産業界は意見が割れていたと聞きます。この点は、効力の話だろうと思います。

意匠権の効力範囲≒同一性の範囲に判断を、機能や用途の共通性や、美観の共通性、混同なども加味して、裁判所が判断していくしかないと思います。しかしそのためには、もっと侵害事件が必要かもしれません。

 

●建築については、過去からの議論の蓄積がないようです。これで良く法改正が通ったなという感じです。

意匠権の萎縮効果も関係ない業界かもしれませんが、下手をすると、ファッションや食器のように意匠制度をスルーする可能性があります。

意匠制度を活用してもらうなら、ファッションや食器と同様に、簡易図面での無審査が必要になるように思いました。

今回、建築を入れたのは、そこまで考えて入れたのかと思ったりしました。