Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

建築物、内装の意匠

パテント10月号の記事(その2)

2020年10月号のパテントは意匠特集です。その中に、令和元年度の意匠委員会のメンバーによる「実務ですぐに使える建築物・内装の意匠の3つのポイント」というと論考がありました。

今後、建築物や内装の意匠の出願を依頼されたときの留意点のようなものがまとまっています。

 

内容は、

  1. 改定審査基準と出願実務の注意点
  2. デザイナー等とコミュニケーションを取る際の注意点
  3. 契約その他のの注意点

です。

 

重要だなと思ったのは、建築物に権利侵害がどこまで認められるのかというところです。

  1. 差止請求権がどこまで認めらるのか?損害賠償中心になるのでは?
  2. 意匠調査の視点
  3. 個人の住宅は「業として」ではないとして差止されない?
  4. 一方、行政や事業者の建築物は差止がある?

1.の点は、今後裁判所の判断を待つとあり、2.のところは意匠調査の責任の重さと意匠公報発行時期、秘密意匠との関係などがあります。

3.のところは、個人に引き渡しがあった後は、「業として」ではなく個人的な使用であるため侵害行為ではないとあります。

しかし、4.のように実施主体が変わると、「業として」の使用であり、意匠権侵害の対象であるとします。

 

その他、色々と書いてありますので、一度、ご覧ください。

 

コメント

最近、内装や建築物の意匠登録がされたというニュースを聞きました。

(建築物)

●意匠登録第1671773号「商業用建築物」、株式会社ファーストリテイリング、創作者 佐藤可士和、藤本 壮介

(内装)

●意匠登録第1671894号「書店の内装」、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社、創作者 福田 正純

●意匠登録第1671153号「回転寿司店の内装」、くら寿司株式会社、創作者 佐藤 可士和

●意匠登録第1671152号「書店の内装」、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社、創作者 高須賀 大

 

双方に、佐藤可士和さんが出ています。今回の法改正に興味をもって準備していたということでしょうか。

意匠公報を見ていておもったのは、当然ですが、見たことがないものだなという点です。意匠は商標と違って、新規性が重要なので、見たことがあるような店舗内装や建築物は保護されません。

 

内装の方が、統一的な美観や、一意匠の考え方などで、出願するのは苦労します。

 

しかし、何と言っても、建築物に差止請求があり、「建築物の廃棄」が認められ、取り壊すというのは、現実にはお金がかかりますので、現実的にありうるのか?という感じがします。

そこは、建築基準法の建築の許可が出て、建築したものですので、それらの法律とも関係するように思います。

建築発表時から着工前ならまだしも、出来上がったものを廃棄するのは、一企業の問題ではなく、国家や国民にとっての損失にもなるように思います。

そのあたりは、判例待ちということになるのは仕方ないという気がします。

 

この論考で気になったのは、施主の責任、建設会社の責任、設計事務所の責任を分けて説明しているところです。上記の差止の制限などと関係する論点です。

  • 個人の建築物は「業として」ではなく、意匠権侵害ではなく、行政や企業の建築物は「業として」であり、意匠権侵害のなる
  • 設計事務所については、設計図形は意匠権侵害を構成しない
  • 建設会社は、意匠権侵害の責任を免れ得ない

としている点です。

 

行為主体単位で見るとそうなるのかもしれませんが、仮に設計事務所や建設会社の意匠調査のミスがあり、意匠権侵害の建築物ができたとして、その引き渡しも終わり、個人が住んでいるときは、差止請求による廃棄はないとしていますが、そう単純なものでもないような気がします。

 

個人と行政・企業で差をつけていますが、あまり合理的な差には思えません。制限するなら、建築物の意匠権侵害の場合の差止請求自体を制限する方が、素直であるように思いました。

現在の所有者が誰かで、単純に、結論が変わるようなものなのかと思います。個人の家でも所有者が企業になると、「業として」になるはずです。

どう考えるんでしょうか。

 

全体に建設会社に責任が分担されていますが、建設会社も規模は色々ありますので、一律に言えないなと思いました。