Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

公正取引委員会のスタートアップ調査

大企業の知財搾取

2020年11月26日の日経に公正取引委員会の調査報告書が紹介されていました。内容は、大企業が進行のスタートアップに対して、知財の無償提供などの不当な供給をしているというものです。

「大手企業、新興の知財搾取」公取委が警鐘  :日本経済新聞 (nikkei.com)

  • 2019年11月の調査
  • 1400社超のスタートアップにアンケート
  • 出資者や有識者に聞き取り
  • 国内のVCによる出資は、5年で3倍の5260億円
  • 大企業やVCが、株式の買い取り請求権を乱用して、不当な要求
  • 調査では、知財の無償提供をしないと請求権を行使するという例
  • 他に、営業秘密の開示の強要、類似のサービスの勝手な立ち上げなどの例
  • コロナ禍で、スタートアップへの資金供給は減少
  • 公正取引委員会は対策を強化

とあります。

コメント

調査の内容は、2020年11月27日付で、公正取引委員会のWebサイトに掲載されていました。

(令和2年11月27日)スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(最終報告):公正取引委員会 (jftc.go.jp)

 

新聞には昨年11月の調査のようにありましたが、報告書によると、調査のアンケートの時期は、2020年2月~6月ですので、コロナの緊急事態宣言の時期であり、ヒアリングは更にそのあとです。

 公正取引委員会では,令和元年11月に調査を開始し,令和2年2月から同年6月にかけてアンケート調査を実施し,同年6月30日にアンケート結果の一部を取りまとめた「スタートアップの取引慣行に関する実態調査中間報告」を公表した。その後,更なる調査を行い,スタートアップ126者,
出資者5者,有識者10者,事業者団体3者の合計144者に対してヒアリングを実施し,本調査結果を取りまとめた。

 

内容が分かりやすいのは、報告書の概要でしょうか。

201127pressrelease_3.pdf (jftc.go.jp)

 

日経に表で出ていた、新興企業が大手から受けた不利益の例ですが、日経の表は分かり難いのですが、知財ノウハウの提供は、5番目ぐらいのようです。

  1. 利益低下
  2. 想定外のコストの発生
  3. 資金繰り悪化
  4. 業務の停滞
  5. 知財ノウハウの提供
  6. 顧客喪失
  7. 類似サービスの開発
  8. その他

とあります。

この8つのうち、利益低下が、50%と最大で、知財ノウハウの提供は6.5%と少数です。

 

詳しく見ると、

  • 連携事業者又は出資者から納得できない行為を受けたことがあるスタートアップは、全体の17%
  • そのうち、少なくとも一部は納得できない行為を受け入れたスタートアップは、79%
  • 更に、そのうち、納得できない行為を受け入れたことにより不利益が生じたスタートアップは、56%
  • この内訳が、上記の1~8です。

 

知財ノウハウの提供は、新聞ネタにしやすいのだと思いますが、実際は利益低下という被害が多いようです。

 

一例ですが、外国商標の業界では、コロナ禍になって、ペーパーレスが一挙に進んでいます。そのため、入力の業務が激増しそうなのですが、これに対する費用は従来のままということであればまさに、この調査に該当して、利益が低下します。

 

合理化の努力で吸収できるなら良いですので、合理化で吸収できるものではありません。国内商標は、特許庁のデータとの連携ができるようですが、外国商標は手入力の部分が多いので、大変です。データ連携できない場合、事務所のDBの他、企業のDBにまた入力する必要があります。

 

下請法の適用があればまだ良いのですが、特許事務所や法律事務所は、下請法の適用外です。

公正取引委員会のWebサイトで、「一般に、企業と弁護士、公認会計士産業医との契約も、下請け法の対象となるか?」という問いについて、

これらは,一般に企業(委託者)が自ら用いる役務であり,他者に業として提供する役務でないので,役務提供委託に該当せず,本法の対象とはならない。

とあります。 

よくある質問コーナー(下請法):公正取引委員会 (jftc.go.jp)

役務業務委託ではなく、委任契約によるものということだと思います。

 

コロナ禍で、顧客企業から、従来になかった要求が増えているように思います。

個々の事務所の努力では無理があるなと思うので、弁理士会としても、ガイドラインを出すなど、毅然とした対応が必要ではないかと思います。