Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

アサインバック

弁理士法との関係

パテントの2020年12月号の弁理士の山口朔生先生の「アサインバックと弁理士法」という論考を読みました。

 

アサインバックは、先願登録商標に類似する商標を権利化したい後願出願人が、先願商標登録者に依頼して、一旦、先願商標登録者に出願譲渡をして、後願出願商標の出願人になってもらい、後願商標が登録になったのちに、元の後願出願人に譲渡をして返却してもらう手法で、コンセント制度の代用として、1996年法改正以降に広がった実務手法です。

 

詳細は、パテントを見ていただくのが一番なのですが、山口先生のお考えは、先登録者には使用意図がないといえ、使用意図のない出願は3条1項違反であり、無効となる可能性があるし、審査官を騙すような仮想的な譲渡や再譲渡ともいえるので、それを弁理士が対策としてクライアントに勧めることは、弁理士法の法令違反者の便宜を図ることの禁止や、公正かつ誠実な業務の遂行、社会通念上での信用・品位の保持といった弁理士倫理にも反するという指摘です。

 

コメント

鋭い指摘だと思います。まさに仰る通りです。

不勉強なので正確なことは言えないのですが、アサインバックで得た商標権の無効性についての判例は聞いたことがありません。

あれば相当話題になっていると思います。アサインバックにより生じた権利で侵害追及を受けたときに、反論の根拠とすると面白そうです。

 

そもそも、1996年までは、連合商標制度、それとセットの考え方の類似商標の分離移転の禁止があったので、アサインバックの手法がありませんでした。

連合商標制度がなくなり、類似商標権の分離移転が可能になったとき(商標法24条の2、24条の4)、形式的にはアサインバックが認められるようになりました。

 

そもそも、商標制度は、本来は、使用により蓄積された業務上の信用を保護するものですが、使用を前提とする登録制度より、出願時の使用意思で足るという制度が簡易で便利であるということで、ドイツで先願登録主義が採用され、日本もその後、それにならいました。しかし、「使用の意思」は必要であり、これがないと、出願が拒絶、無効となります。

使用の意思は、内心の問題ですので、外部からは明確には分かりませんが、以前なら業務記載を求めらたり、現在でも商品役務の類似群の数に制約を設けたりしている点に、「使用の意思」を求める名残があります。

 

中国の「悪意の出願」の議論を見ていると、悪意の出願の要件は、他人の商標への横取りだけではなく、当該悪意の出願人の「使用の意思」を問うています。やはり、現代の商標法でも、「使用の意思」は重要です。

 

確かに、アサインバックをしていること自体で、権利発生時の権利者に使用意思がなかったと言えそうです。アサインバックの契約書自体が、使用の意思がなかったことの証拠になります。

 

1996年の法改正当時、知財協会の商標委員会にいたのですが、この山口先生の議論と同じ議論を強く主張される方がいたように記憶しています。その方は、良いポイントを突いていたということですね。

ただ、当時は、同意書制度をこれから考える段階なので、同意書制度が認めらるまでは、連合商標制度・分離移転の禁止がなくなった延長で形式的に認められたアサインバックで、なんとか一時しのぎしようとアサインバックに賛成となったと記憶があります。

今、考えると、当時は「使用」事実に替わるものとしての、「使用の意思」の重要性が十分理解できていませんでした。また、同意書制度の導入がこんなに遅れるとは思っていませんでした。アサインバックは違法である反対しておくべきでした。

 

アサインバックが認められる以前は、許諾被許諾の手法の方がメインでした。当時、企業内では、商標権の譲渡をしようとすると、その社内での合意形成は、使用許諾の数倍あったと記憶しいてます。

 

商標権の取得の目的が、商標のクリアランス=使えれば良いという程度なのか、商標権者として権利侵害追及までやろうという権利なのか、という問題があります。

単なるペットネームで、使えれば良い程度なら、侵害追及することもないので、後々、当事者対立構造になることもないですが、侵害追及するなら、当然、相手方は反論しますので、無効審判を請求させることもあります。

 

山口先生の説明を見て、アサインバックの手法は、ハウスマークや侵害追及する商標では、内在的に危険性があると良く分かりました。

ハウスマークは、アサインバックではなく、先行商標権を丸ごと譲渡を受ける手法が一般的だろうと思いますし、今も、それが望ましいようですね。アサインバックはあくまでペットネーム用の簡易の、避難的な手段ですね。