記事の通りと思いました
2020年12月24日の日経に、氏名が含まれる商標について、特許庁や知財高裁の運用が厳しく、ブランドの海外展開の足かせになっており、法解釈の余地や条文変更も必要であるという話がでています。
登録できない氏名商標 ブランドの海外展開足かせ: 日本経済新聞 (nikkei.com)
- 登録できなかったものとして、「マツモトキヨシ」の音商標(CMソング)、「KEN KIKUCHI」(鳥の図形付きで、ローマ字)
- 過去は、登録できていたものあり。「タケオキクチ」「ヨウジヤマモト」
- 商標法の条文は長年同じ。かつては異議申立がなければ柔軟に運用。ここ1~2年、解釈を厳しくする判決や審決が続いている
- ネットで氏名が簡単に検索できることが理由
- 条文通りに運用すると裁判所の判断が厳しくなる。特許庁もそれに呼応して厳格化
という内容です。
コメント
この記事は、商標業界でも話題になっています。
トヨタはホンダは「氏」であり、識別性(3条)の問題がありますが、こちらは使用による顕著性の立証で対応できます。
一方、氏名は「ピエールカルダン」「ポールスミス」など、ネーミングの王道ではありますが、同姓同名がいると4条1項8号で、商標登録できないことになっています。
商標法4条1項8号には、
「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む名称(その他人の承諾を得ているものを除く。)」は商標登録を受けることができないとあります。
逐条解説には、人格権保護規定であることと、外国人の氏名にも適用があるとあります。
商標審査基準には、自己の氏名であっても、当該他人の人格的利益を損なうものとして、本号に該当するとあります。
外国の法律はというと、
韓国は、商標法34条1項6号で、著名な他人の氏名と、「著名」の制限があります。
:: choipat.com - 崔達龍国際特許法律事務所 ::
台湾は、商標法30条13で、他人の著名な氏名と、これも「著名」の制限があります。
20180628_2139171811_20180628-新商標法(2016年12月15日施行)-j.pdf (chizai.tw)
中国は、商標法32条で、先行権利としての氏名権を害する場合という規定です。
【法律講座Q&A】氏名権・名称権と商標登録の対抗 第667回 - NNA ASIA・中国・マクロ・統計・その他経済
アメリカは、商標法2条Cで、生存中の特定の個人を示す名称とあります。
アメリカの運用状況、調べていると、中川弁護士の記事にたどり着きました。
「デザイナーが自らの名をブランド化する自由とその危機」の続き|Ryutaro Nakagawa|note
答えが書いてあります。アメリカは、審査基準で著名に限定しているようです。
デザイナーが自らの名をブランド化する自由とその危機ーー商標法4条1項8号のあるべき解釈をめぐって 中川隆太郎|コラム | 骨董通り法律事務所 For the Arts (kottolaw.com)
中川弁護士のこちらの記事には、工藤先生の話として、従来の特許庁の運用は、これは著名なものに限定して運用しており、異議申立を待ってい審査していたものが、ネットの普及でおかしくなっており、心配しているとあります。まさに工藤先生の心配が的中している感じです。
4条1項8号は、出所混同防止や誤認混合の防止を目的とする商標制度に、突然現れた人格権の保護の規定です。
もし、「きくち けん」という称呼の人が1万人いたとして、「KEN KIKUCHI」という商標登録が登録されると、他人の人格権が害されるのか、論理が不明確です。
冒認や、ただ乗りするのであれば、そこには有名性、著名性に基づく、経済的な利益の侵害がありますが、人格権とすると経済的な利益侵害の有無は関係ありません。
そもそも、氏名権を人格権とした点に問題があるような感じです。経済的な利益の侵害があるような有名なものだけが守られるのであり、著名商標の保護に近いものと再設定することが必要なように思います。
1万人の「きくち けん」の一人が、後で同じ商品で商売をするときに、同じ名前での商標登録は取得できませんが、自己の氏名ですから商標法26条で使用はできます。
商標が欲しければ、別の名前を採択すれば良いだけです。
最近、カナダの調査結果を見ていると、従来、カナダの審査官は識別性の審査権限がなかったのですが(これは驚きです)、法改正で識別性の審査ができるようになり、審査官が一生懸命ネットで検索して、識別性なしという理由をこじつけてくるというのが記載されています。
ちょっと、これを思い出しました。