Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

「ヒルドイド」と「ヒルマイルド」

商標権侵害と不正競争防止法違反で仮処分の申し立て

2021年1月23日のYahoo!Japan ニュース(東スポの記事)で、乾燥肌治療の医療用医薬品の「ヒルドイド」側が、乾燥肌治療の一般用医薬品の「ヒルマイルド」側に対して、商標権侵害と不正競争行為があったとして、販売差し止めの仮処分の申し立てが、大阪地裁にあったという記事がありました。

ジャニーズのKing &Priceの永瀬廉が「ヒルマイルド」のCMに出演しているとのことです。

  • 一般用医薬品の「ヒルマイルド」は、薬局で買えるが、医療用医薬品「ヒルドイド」は、医師の処方がなければ購入できないので競合しないという見解あり
  • 名前がよく似ている
  • 商品パッケージも酷似
  • 9月からは女性人気の高い永瀬を起用し、大々的にCM

とあります。

 

コメント

ヒルドイドは、こちらです。

ヒルドイドサイト / 医療関係者向け情報|マルホ株式会社 (maruho.co.jp)

ヒルマイルドは、こちらです。

ヒルマイルド製品情報 | 乾燥肌治療ヒルマイルド|健栄製薬 (kenei-pharm.com)

 

ヒルドイドは、アトピーの人などが、保湿のために病院で処方される薬です。この薬は昔から有名な薬のようです。

このヒルドイド、乾燥肌を防ぎ、美容によいということがネットで話題になり、美容目的なのに、医者に頼んで購入する人が相次ぎ、保険適用から除外するという騒動になっていました(現状は、美容目的でなく、医療目的なら、保険適用のようです)。

保湿剤「ヒルドイド」、厚労省が規制見送り 「でも美容目的の処方はNG」 | ハフポスト (huffingtonpost.jp)

 

アトピーの人などにすると、美容目的の人は買わないで欲しかったようです。

今回のヒルマイルドは、薬局が購入が可能な商品です。多少の薬効の違いはあるのでしょうが、美容目的の人には受け入れらているようであり、アトピーの人としても、美容目的の人はそちらを購入してくれると助かるというところがあるようです。

 

おそらく、今回、ヒルドイドの売上が影響を受けていないなら、ヒルドイドも何もしなかった可能性がありますが、仮処分を申立てないといけない程の影響があるのだろうと思います。

 

<不正競争行為?>

パッケージは、白いボディに、キャップの薄いピンク、中央の四角形のピンクのエレメントと、近いような気がします。

パッケージと商標の近さの相乗効果で、ヒルドイドとしては、クレームしたくなるのだと思います。

 

医療用医薬品と一般医薬品とでは、確かに流通ルートが違いますし、消費者は全て分かって、ヒルマイルドを購入しているような感じです。

 

<商標的には?>

確かに、商標は、双方とも語頭に「ヒル」がついており、語尾は「ド」です。途中に「イ」も共通しています。

ただ、日本の商標審査基準では、音の数が同数かどうかをまずに見るので、ヒルマイルドは音数が一音多く、非類似の商標となります。

 

J-Plat Patを見ると、ヒルドイドは登録第1647949号で商標登録され、ヒルマイルドは 商標登録第6264722号で登録されています。

ヒルマイルドの登録は2020年6月30日、公報発行日は同年7月21日ですが、異議申立を受けていないようです。

 

通常、商標は登録になれば、使って良いという国のお墨付きがあると理解しますが、実際は、異議申立もありますので、異議を受けて負けると登録は遡及的に消滅します。

また、異議申立がなかった場合も、無効審判はあるので、登録後5年の除斥期間が経過するまでは、完全に権利状態が安定しているとはいえません。

 

それはさておき、ヒルマイルド側としては登録になってのに、異議申立をせず(見逃したのかもしれません)、無効審判を請求することもなく、はじめから仮処分なのは納得いかないかもしれません。商標は非類似なので、余計そんな感じはあります。

 

有名な先行商標「ヒルドイド」の著名性にただ乗りしているという「悪意の出願」的な視点はありえますが、自らの商標として使用することを意図していますし、難しいですね。

 

パッケージと異なり、名称部分の商標からは、ただ乗りと主張するには、難しいような気がします。

 

もし、特許事務所に「ヒルマイルド」の調査依頼があったとして、通常なら使用可能と判断しますし、特許庁もそのように判断します。

 

現実にはパッケージと相まって出所混同が生じる場合はあります。その場合は、不正競争防止法旧6条の適用除外がないので、当該名称の使用自体が、不正競争行為となる可能性はあります。。

パッケージ案まで見て、GO、STOPを決められるのは、企業の知財部ですので、そちらの判断しだいですね。特許事務所で、商標と意匠をセットで相談にのっていない限り、無理です。

特許の担当者が、意匠を見るような事務所では無理があります。

 

これから大阪地裁がどう判断するのか、結果を待ちたいと思います。