Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

日本商標法の未来のための方策検討(その2)

商標法における「不使用の抗弁」について

2つ目は、「商標法における『不使用の抗弁』について」という外川英明弁理士の論文です。

商標権侵害訴訟と異議申立・無効審判に分けて、「不使用の抗弁」の解釈論、立法論に言及しています。

 

侵害訴訟においては、「不使用の抗弁」が認めらた判例を紹介していますが、それらは不使用取消審判も提起しており、裁判所は特許庁の不使用取消審判の結論の先取りとして不使用の抗弁を認めているとあります。

 

侵害訴訟で、「不使用の抗弁」が認められるのは、不使用商標に基づく権利行使は、権利濫用ということが根拠とあります。

 

そして、権利濫用論のような要件・効果が明確でない一般条項の適用は最小限にする必要があるとして、立法が必要として、そのときは、不使用取消と侵害訴訟の結論が分かれてしまわないように、侵害訴訟の不使用の抗弁として、商標法50条の規定の要件をそのまま明文化する、あるいは、特許法104条の3のような条文を設けるとします。

 

一方、異議申立や無効審判における「不使用の抗弁」は欧州の異議待ち審査であることが前提であり、日本のユーザーが異議待ち審査を求めていない(職権審査を求めている)とあり、異議申立や無効審判での不使用の抗弁は、解釈論としても、立法論としても無理があるとしています。

 

コメント

侵害事件における「不使用の抗弁」の主張が認められた判決を、数点、紹介されており、参考になります。

不使用商標権による権利行使は、権利濫用になり、認められないという考え方はそれで良いと思います。

ただ、紹介されている判例が、地裁判決ばかりなのは、気になりました。最高裁知財高裁まで行くほどの事案ではなかったということかもしれません。

 

侵害訴訟における不使用の抗弁の立法化ですが、ドイツと中国にありますが、ドイツでは一般的に不使用の抗弁がありますが、中国では損害賠償請求には不使用の抗弁がありますが、差止請求にはありません。

不使用=損害の不発生=損害賠償をみとめないという考えですが、登録主義であり、登録があるなら差止請求は認めても良い場合がある、という判断だろうと推察しています。

不使用商標での権利行使=権利濫用なら、差止請求も認められなくなるはずですので、中国も様子見なのかもしれません。

 

しかし、侵害訴訟における不使用の抗弁の立法論しては、過度に不使用取消審判とのリンクを考えないことが必要ではないかと思いました。おそらく入れる場合は、不使用取消審判を請求していることは要件にならないと思います。

 

一方、異議申立と無効審判における不使用の抗弁ですが、異議申立の話に終始しているように見え、無効審判にける不使用の抗弁への言及が少ないように思いました。

 

それは横に置くとして、異議申立自体があまり活用されていない状態が、商標制度として望ましいものなのかという気がします。

異議申立を活性化しないと強い商標=強いブランドはできないように思います。

 

楽な制度はそれなりの商標しか生まず、対応が大変な制度は強い商標権を生むということから、原点に立ち返って、強い商標を造るための商標制度の再設計が必要だろうと思います。