Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

日本商標法の未来のための方策検討(その3)

ディスクレーム(権利不要求)制度

続いて、中村仁弁理士の「ディスクレーム(権利不要求)制度」です。

ディスクレーム制度とは、「商標の構成中に識別力のない文字や図形等の要素が含まれている場合、その要素については独占排他権を要求しない(ディスクレームする)ことを出願人が同意、宣言する制度」とあります。

 

  • 大正10年法で導入され利用されてきた制度で、昭和34年法改正で廃止された
  • ディスクレーム制度の趣旨は、識別力のない部分を含む登録商標についての紛争を未然に防止するもの
  • 学説、特許庁実務でも支持されてきたが、昭和34年法改正時に、①旧法の「要部と認めらるおそれのある部分」の文言の存在、②類似判断の場合における解釈の不明確性、が主な理由となり廃止。当時の審査官は残念がった
  • しかし、①については要部という限定を廃止すれば良い。②については、その後、最高裁や高裁判例がでているので、問題はなくなっている
  • 諸外国では、英法系諸国や中国は採用。不採用は、大陸法(ドイツ、フランス、イタリア、シンガポール(?)、韓国)
  • 不採用とすると、①識別力がない標章が実質的に独占されている、②不必要な出願が増加する
  • 2002年の知財研のアンケートや、知財協会の内部アンケートでは、賛否は拮抗
  • 非伝統的商標では、識別力のある構成要素について不明確な登録が増えている
  • 侵害の未然防止というディスクレームの趣旨は審査主義、登録主義になじむ

とあります。

 

コメント

中村先生は、ディスクレームを廃止した理由は、要部に限定していた条項を改正することで、解消可能ということをこの論文で明かにされています。

 

海外のディスクレーム制度採用国では、審査官から、識別性のない部分をディスクレームすることで登録を認めるという指令が良くありますので、ディスクレーム制度は非常に慣れ親しんだものです。直感的にはディスクレーム制度は合理的な制度だなと思います。

 

本人がディスクレームしているぐらいですから、ディスクレームした部分がその後に法的な問題となることもなく、中村先生の仰るように、侵害の未然防止などに役立っているように思います。

 

ディスクレームが認められると、識別性に疑念のある部分を含む商標でも、識別性(特別顕著性)のある部分はどの部分かが明確になります。

標準文字で、その部分について権利化をしたい場合は、ディスクレームされてしまうと無意味な権利になってしまいますが、そうでないなら、審査官の識別性なしの判断に対する、一つの対抗手段にもなるはずです。

 

ディスクレーマーという言葉自体は、インターネットや契約でも良く使うので、言葉自体にも、あまり違和感はないなという気がします。

 

ディスクレーム制度がなければ、識別性の判断のとっかかりもなく、識別性のない部分を含む権利による萎縮効果もあるので、再導入する方が良いと思いますが、中には、反対であるという人もいます。

 

心配があるとすると、ある言葉なりについての識別性の判断が、過去と現在で異なることがあることです。

しかし、一旦、識別性がなくなったものが、再度識別性を獲得することは通常はありません。それがあるなら、再出願したら良いだけです(※)。

問題は、過去は識別性があったが、現在では識別性がないというものがディスクレーム制度では放置されてしまうということです。

登録後のディスクレームの仕組み(訂正審判や無効審判のようなもの)があると良いということでしょうか。無効の方は、判定で可能かもしれませんが。

 

それともう一点、英法系のシンガポールで、なぜディスクレームがないのかなと思いました。

 

※ なお、経験としては、一部の国で、データベースがないためでしょうか、ケースバイケースでディスクレームの判断が違い、こちらの出願人が過去に出願したときは、識別性なしとしてディスクレームされたものが、他の出願人にはディスクレームなしで登録を認めるケースがあります。

その商標がハウスマークなら大きな問題になることもあります。

しかし、この問題は、日本では心配無用と思います。