普通名称化と防止措置(その2)
昨日に続き、中山真理子弁理士の「普通名称化と防止措置」を読んでいます。後半は、辞書等に普通名称と扱われた場合の普通名称化の防止措置、後発的に普通名称となった場合の取消審判の創設についてです。
まず、昭和34年法の審議や、審議会での議論に、何回もこの話題が登っていることが期されています。
特に、昭和34年法の審議では、後発的に普通名称となった場合の取消審判の創設が必要とされていたのに、最終は、登録商標が普通名称になったか否かの判断は裁判所で行うべきということで、立法が見送られたとあります。
その後、特許庁の審議会では、普通名称化の防止措置(辞書等への請求権)の方が審議され、アンケート調査が行われ、また知財協会でもアンケート調査が行われて、双方のアンケートでは、導入希望が半数以上で反対は少数派なのですが、導入には至っていません。
海外の調査はAIPPIが行っており、CTM(EUTM)、ドイツ、スペイン、スイスで、普通名称化の防止措置が導入されていることが説明されています。
普通名称化の防止措置がないのは、米国、英国、フランス、その他ですが、裁判所が普通名称化を命じる国(フランス、ブラジル)や辞書等への記載が商標権侵害になる国があります(メキシコ)
一方、登録後に普通名称化した場合に、取消制度の在る国は非常に多く、スイス、ブラジル以外の、米国、CTM(EUTM)、英国、ドイツ、フランス、スペイン、オーストラリア、中国、韓国、シンガポール、メキシコに取消制度があります。
論文では、主に、普通名称化の防止措置を扱っており、CTM(EUTM)やドイツのような法的な根拠がない中で、企業が普通名称化の防止策を取るには限界があり、導入に積極的であり、周知著名商標の保護、農産物の事例や、インターの普及で、より必要性が生じているとしています。
そして、導入がされい理由である、表現の自由の話、出版社等に負担について言及しています。
取消審判については、あまり紙面が使われていないのですが、普通名称化防止策とセットでなくとも良いとします。
コメント
本論文では、普通名称化の防止措置の必要性が、丁寧に説明されていました。
さて、この普通名称化で、一番の話題は、だいぶ前ですが、ソニーのWalkmanがオーストリアで普通名称化してしまっていたという件です。裁判で争われていたと記憶しています。
ソニー「ウォークマン」敗訴で浮き彫りになった商標確保の問題点 | WIRED.jp
普通名称化で、通常よく議論されるのは、普通名称化しているような商標は取消されるべきであり、一方、その取消に対抗するために商標権者には普通名称化への対抗手段として、辞書等への普通名称化の防止措置の権利を付与するという構成が多いと思います。
ポイントは、昭和34年法制定時に、取消審判を見送ってしまったことにあるのではないでしょうか。
諸外国を見ても、取消がないのは、スイスとブラジルだけです。このスイス、ブラジルでさえ、裁判所での取消の可能性があります。まずは、こちらをすべきではないかと思いました。
論文の前半部分で、裁判で普通名称化したと認定された事例が多数ありますし、審判の不服は裁判ができるのであり、なぜ取消審判がないのか不明です。
ホームシアターや、デジカメなど、業界で問題になるものは、業界の各社で取消請求すれば良いと思います。普通名称化した権利で、折角の新規事業が制約されることは、社会経済的に損失です。
反対に、普通名称化の防止措置については、米国、英国といった、一番権利の保護が厚い国が、これを導入していない点が気になります。
結局、米国や英国では、弁護士や弁理士が、警告書を送って、あるいは契約書で、登録商標の普通名称化的な使用を止めさせていると思います。こちらが筋なのだろうと思います。
しかし、昨今、日本の商標管理部門の実務力が落ちているような気がしており(予算がなくなっている)、普通名称化の防止策のようなことまで手が回らなくなっているような気がします。
本論文を読んで思った感想は、まずは、取消審判の創設が一番先決で、これができると企業の商標部門には普通名称化の防止を社内に訴える理由ができ、普通名称化の防止につながるように思いました。
米国のNaked Licenseが、ライセンスにおける品質管理の必要性にになり、米国で商標と品質がセットで語られるようになって、強い商標管理が出来ているのと似た理屈です。
筆者はスイス的に、取消審判がないが、普通名称化の防止策がある状態を構想されているのではないかと思いますが、日本においても強いブランドを生むためには、取消審判の創設が先決であるように感じました。