Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

日本商標法の未来のための方策検討(その6)

 権利の失効

パテント別冊の日本商標法の未来のための方策検討から、学習院大学の横山久芳教授の「権利の失効」を読みました。

 

「権利の失効」とは、長期間にわたる不誠実な権利の不行使をもって権利行使を否定するという法理であり、もはや権利の行使をないものと信頼して行動した相手方に対して突然権利を行使することは、信義則に反し、許されないと解するというものです。

消滅時効に類似したものですが、消滅時効の適用のない権利について権利行使を否定できるものです。

 

商標権も私権であり、権利の失効の法理の適用はありますが、商標権は公益的な面もあり、慎重にという意見があります。しかし、反対に周知性を獲得した後のように権利行使されると取引秩序が混乱するため、商標では権利の失効の法理を活用すべき場合が多いとあります(我妻先生が、特許を含めて、すでにそのようなことを述べているようです)。

 

しかし、日本の商標の裁判では権利の失効法理が認められたものはないそうです。

 

一方、

  • EUには「黙認よる権利失効(商標指令9条1項、商標規則61条1項・2項)があり、
  • ドイツには、信義則上の原則として「権利失効の法理」があり、
  • アメリカには、ラッチェス(laches)の抗弁(権利者が一定期間権利行使を懈怠した場合に権利行使を否定する抗弁)があります。

ドイツやアメリカでは、権利失効の法理が認められるのに、日本で認めらないのは、日本では商標権の公示性を重くみて、商標権者が長期間侵害行為を放置していただけでは、侵害者に正当な信頼が生じるとはいえないと解されているためとあります。

 

しかし、横山先生は、権利者に早期に権利行使を促すためにも、日本でも権利の失効を積極的に認めるべきとします。

 

ただ、解釈論では限界があり、立法論として、消滅時効のない差止請求について、権利の失効の法理を立法していはどうかとあります。

 

コメント

商標権における、権利失効の法理、ラッチェスという言葉を調べたいときは、有効な論文だなと思いました。

 

この論文、はじめは読みやすいなと思いました。非常に分かりやすく文章を書く先生だなと思いました。

しかし、流石に、外国法の紹介になると読むのが苦しくなってきます。外国法の条文であるとか、制度とかについての、ある程度深い知識がないと、理解することが難しいなという感じでした。

 

一点、面白いなと思ったのは、4条1項10号の周知商標の後願排除効の話で、この条項の状態を、広く知られたという意味で、「広知商標」という言葉を使っておられる点です。そんな言い方があるのかと思いました。

 

他人の出願前に、自己の「業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の缶に広く認識される」程度の信用を形成した商標(以下、「広知商標」という。)とあります。

 

4条1項10号の方が、32条の先使用権よりも、周知のレベルは高いと言います。そうなると、日本では、64条などの著名商標、4条1項10号の広知商標、32条の周知商標と3種類の周知商標が出てきます。この差を言いたいのだろうとなと思いました。

 

「広く認識された」という文言が、条文によって、意味内容、適用される場面がわかれるのは仕方ないと思いますが、英語のように、すべて「well-known trademark」とする方が素直なので、あまり細かくするのはどうなのかと思いました。