Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

日本商標法の未来のための方策検討(その11)

商標登録要件における公序良俗表現の自由ー非道徳的・卑わいな商標等の取り扱いを中心にー(その1)

 

こちらは、金子敏哉准教授の論文です。米国連邦商標法ラナム法2条(a)の、

1)不道徳な、欺瞞的若しくはスキャンダラスな事項からなる商標(不道徳、スキャンダラス条項)、

2)人々などを侮辱し、軽蔑させ若しくは悪評をもたらす事項から商標(侮辱条項)

は、商標登録されないという条項について、その違憲性が問題にあったという話です。

 

1)については2019年のIancu v. Brunetti事件(fuct事件)で、

2)については、2017年のMatal v. Tam事件(The Slants事件)で、

最高裁が当該法令をした登録拒絶に違憲の判断をしています。

現在、米国の審査基準上で、この条項は適用されないものとなっています。

 

日本商標法4条1項7号も、最近は悪意の商標出願に適用がされていますが、もともとは標章自体が公序良俗違反のケースに対応するものを対象にしたものであり、米国法を分析して、国内法の条項について、表現の自由との関係を論じるものとあります。

 

米国法と判例

1)不道徳、スキャンダラス条項が、従来、合憲とされていたのは、USPTOが登録を拒絶しても、当該商標の使用をすることは自由であるからという理由だったようです。

過去、拒絶された例は、ワインについて「MADDONNA」(マリア様)、タバコについて「SENUSSI」(喫煙を禁じるイスラムの宗派名)、その他、低俗なもの、静的な画像を含むもの、違法薬物の名称、暴力に係るものですが、低俗な用語や違法薬物に係る名称は登録例も多いそうです。

USPTOの判断が恣意的で、同じような商標について、登録になったり、ならなかったり矛盾があるそうです。

 

判例としては、「fuct」事件の説明があり、動詞fuckの過去形である「fucked」の当て字だであり、低俗な用語として、不道徳・スキャンダラス条項に該当するとして、拒絶され、その裁判です。

「不道徳な」標章であること理由とする拒絶は、「見解差別」に該当して修正1条に反するという点では最高裁の裁判官全員の意見が一致しており、「スキャンダラスな」標章であることを理由とする拒絶は意見が分かれている(限定解釈により合憲の余地がある)ようです。

 

2)侮辱条項については、「KOURAN」をワインについて使用、NFLのWashington Redskinsの「REDSKINS」のBlack Lives Matter運動を受けた名称変更などが有名です。

 

判例としては、The Slants事件の説明があり、最高裁が、侮辱条項は合衆国憲法修正1条の言論の自由条項に違反すると判断し、登録が認められました。

登録商標は政府言論ではないという判断も示されています。

 

■まとめとして、見解差別となる商標登録阻却事由は憲法違反、登録商標は政府言論ではなく私的言論、侮辱条項、不道徳・スキャンダラス条項は見解差別規制という判断だそうです。

金子准教授は、侮辱条項は名誉棄損だけにすれば合憲、宗教や民族に対する差別的な標章等の拒絶については、取引の秩序だった流れを保護するという規制目的で、適切な限定を行なった場合は合憲となる余地があるとしています。

 

コメント

憲法論のあたりはよく分からないところもありますが、標章(マーク)の公序良俗違反の条項の適用は、行政庁の恣意により、登録になったりならなかったりするので、公序良俗違反は拒絶するという条項が、米国ではストップしているようです。

 

「政府言論」という言葉がありますが、登録を付与することが、当該商標(表現)について、政府の言論の一つという考え方でしょうか?

政府言論という考え方を認めると、政府にも表現の自由があることになり、出願人(商標使用者)の表現の自由と政府の表現の自由がバッティングすると理解しましたが、そのような理解で良いのでしょうか?

ちょっと分かりません。

 

また、論文には、営利的言論かどうか、パブリックフォーラムという単語が出ています。憲法論だろうと思いますが、ちょっと理解できていません。

 

 

さて、

●The Slants事件は、

nishiny.hatenablog.com

 ●fuct事件は、 

nishiny.hatenablog.com

● Redskinsの話は、 nishiny.hatenablog.com

に記載がありました。一応、追いかけてきたようです。

 

なお、日本法の話は明日になりますが、素直な疑問として、もし、日本でも4条1項7号が違憲ということになれば大変です。

4条1項7号は、そもそもは標章自体の話であるのに、その拡大適用をしている訳ですが、そもそもの標章自体の排除ができないとすると、条項の存在が難しくなります。

悪意の出願の排除などに活用している4条1項7号が使用できなくなるので、他の条項でカバーできるか、真剣に考えないといけないように思います。

 

ちなみに、金子先生は、米国商標法のことを、ランハム法ではなく「ラナム法」と言っています。茶園先生と同じです。