Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

台湾の商標法改正案

審判制度創設、異議申立廃止

台湾で、商標法の改正案が公表されているようです。改正案ですので、この通りになるとは限りません。これから審議がされます。

【Vol.82】台湾 商標法改正草案が公表される(複審・争議審議制度創設、異議申立て廃止など) (wisdomlaw.com.tw)

台湾 特許 意匠 商標 出願 知財-連邦国際専利商標事務所 (tsailee.com.tw)

 

内容としては、

  • 拒絶査定への不服申立は、不服審判へ
  • 不服審判では、再審査のような仕組みができる
  • 不服審判の結果については、従来は経済部への訴願であったが、直接、裁判所(知的財産及び商事裁判所)へ
  • 知的財産及び商事裁判所への不服は、最高行政裁判所ではなく最高裁判所
  • 異議申立を廃止して、無効審判に一元化
  • 無効審判は何人も請求可能に
  • 審査では情報提供のような意見書の提出が可能に
  • 無効審判、取消審判での口頭審理化、当事者対立構造化

というようなもののようです。

 

コメント

経済部への訴願というのは、日本にはない制度ですので戸惑います。特許や商標の行政庁への不服申立では、通常はワードで作った文書で見解を述べあいますが、以前経験したケースでは、弁護士がパワーポイントで整理してプレゼンしており、スピード感も通常の特許庁のものよりも相当早い感じがしました。

 

ただ、経済部への訴願というのは、他国ではない制度ですので、審判制度になることや、裁判所も行政裁判所ではなく、通常の裁判所のルートになることについて、違和感はありません。

 

おやっと思ったは、異議申立制度の廃止です。無効審判とほぼ同じであり、異議申立と無効を並立される意味が乏しいというのが、理由のようです。

 

現在の台湾の商標法では、日本と同じく付与後異議です。

台湾における異議申立制度 « 新興国等知財情報データバンク 公式サイト (inpit.go.jp)

 

付与後異議はドイツの制度です(EUTMは付与前異議です)。1996年法改正時に、論点だったところで、商標権の安定を取るか、権利化のスピードを取るかで、スピードを取ったためです。

特許の付与後異議に合わせたという面もあります。

 

EUTMは、ドイツ法がベースと言いますが、異議申立できる時期は違います。

(EUTM)

世界の商標制度、国別情報|特許業務法人 三枝国際特許事務所 (saegusa-pat.co.jp)

(ドイツ)

世界の商標制度、国別情報|特許業務法人 三枝国際特許事務所 (saegusa-pat.co.jp)

 

日本に近い国では、中国と韓国は付与前異議ですが、中国は公告日から権利期間(更新までの期間)がスタートするという少し特殊な制度です。

(中国)

中国における商標制度のまとめ-手続編 « 新興国等知財情報データバンク 公式サイト (inpit.go.jp)

(韓国)

韓国における商標異議申立制度 « 新興国等知財情報データバンク 公式サイト (inpit.go.jp)

 

付与前異議なら、審査では分からない取引の実情を反映させるということがいえますが、付与後異議なら無効審判と同じというのは、その通りです。

 

EUTMやドイツでは、相対的拒絶理由を審査せず、異議申立をまって審査開始するので、異議申立の存在は重要です。

なお、時期的にも、識別性等の絶対的拒絶理由の審査後に、すぐに公告(EMTM)、登録(ドイツ)されるのですから、あまり差がありません。

 

相対的拒絶理由を審査する国でありなら、付与後異議を採用してくれている台湾は、日本の仲間だったのですが、台湾の離脱は悩ましいところです。

 

ただ、異議申立は、商標制度の華のような気がするので、無くすのではなく、付与前異議にするという方法もあると思います。今後の検討を見守りたいと思います。

 

異議申立の火を消さないため、付与前異議への復帰は必要と思いますが、審査が遅れてきたているので、こちらの抜本的解決も必要なように思います。