Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

コロナワクチンの知財をめぐる対立

WTOが調整できるか

2021年3月2日の日経に、WTOに新事務局長が就任し、コロナへの対応を優先課題とするという話が出ていました。

ワクチン知財 対立激しく: 日本経済新聞 (nikkei.com)

  • 新事務局長は元ナイジェリア財務相の女性
  • ワクチンの知財権をめぐり、途上国と先進国で論争
  • インドと南アが2020年10月に、知財を保護するWTOのルールを一時免除とするよう提案
  • 途上国の後発医薬品メーカーがワクチンを生産できるように
  • 先進国は技術革新、研究開発意欲が減るとして反発
  • 合意形成は容易でない
  • 新事務局長は、ライセンス契約を拡大する方法を提案
  • インドでアストロゼネカのワクチンをライセンス生産

などとなっています。

 

コメント

知財権の南北対立は、30年前に弁理士試験の勉強をしているころから言われていました。パリ条約の最後の改定が、1967年のストックホルム改定条約で、勉強をしていたのは1980年代の後半ですので、このころには20年も改定がされておらず、理由は南北対立だとされていました。

先進国は、途上国において特許は取得するが、工場を作って生産を行ったり、技術を地元企業にライセンスして途上国の産業を活性化されるのではなく、途上国を市場と捉えて、輸出するだけである。特許を保護することは途上国の利益にならない。という主張です。

対策としては、強制実施権を発動し、そして実施料を低額にして、途上国の産業育成を図ることになるのですが、強制実施権は、特許の独占排他性を緩め、特許の機能を低下させると先進国は反発します。

 

強制実施権は、日本でも不実施の場合の強制実施権の設定の裁定(83条)や、公共の利益のための強制実施権の設定の裁定(93条)があります。前者は申し立てがはあったが、発動されたことはないようです(2004年当時)。

100863983.pdf (inpit.go.jp)

後者も同様だと思います。

 

今回はコロナですが、環境がクローズアップされてきた1990年代後半には、環境と知財の関係が議論になっており、工業所有権法学会のテーマも「知的財産権と環境」でした。

日本工業所有権法学会/学会年報 (jaipl.org)

この時も、同じような議論がされたのではないでしょうか?

100060433.pdf (inpit.go.jp)

南北対立の議論は、何十年にもわたる議論ですので、今回も解決は容易ではなさそうです。

 

特許を古典的に独占排他権と捉えるのか、金銭的請求権であり特殊な場合に差止が可能と捉えるのかなどは、根源的な制度説計の問題になります。

 

今回のコロナ禍は、昨年1月に問題になったときに、春になって暖かくなると、SARSや豚インフルのように終息するのかと思っていたら、1年続き、年末には更に拡大し、最近は、変異種が出てきて、いつまで続くのか分からなくなってきました。

自由主義の立場では、特許の問題は下手に調整するなとなるのでしょうが、今回は、WTOの調整も必要かもしれないと思いました。