Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

日本からの外国出願は「特許が多くて商標が少ない」

理由は?

 

あるメーリングリストで、「国境を超えた商標出願と特許出願」という分析があることを知りました。

科学技術指標2020・html版 | 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

 

国境を越えた商標出願数と特許出願数について、人口100万人当たりの値で比較すると、最新年で商標出願数よりも特許出願数が多い国は、日本のみである。最新年で商標出願数の方が特許出願数より多い国は、英国、米国、フランス、韓国、ドイツである。韓国、英国、ドイツについては2002~2017年にかけて、商標の出願数を大きく増加させた。

日本は技術に強みを持つが、国全体で見ると、それらの新製品や新たなサービスの導入という形での国際展開が他の主要国と比べて少ない可能性がある。

国境を越えた商標出願とは、外国へ出願した商標を意味する。日、独、仏、英、韓については、米国特許商標庁へ、米国については日本と欧州へ出願した商標の数を補正した値を使用した。

国境を越えた特許出願は、三極パテントファミリーをいう。

日本は技術に強みを持っているが、新製品や新たなサービスの導入などといった活動の国際的な展開に課題があり、この状況に大きな変化は見られないと考えられる。

製造業に強みを持つ国や、情報通信産業に特化した国では、商標よりも特許の出願数が多くなり、サービス業の比重が多い国では、商標出願数が多くなる傾向が過去には見られていた。しかし、2002年と比べると、韓国、ドイツは商標を大きく伸ばしていることから、製品を用いたサービスの国際展開をはかっている可能性がある。

 とあります。

 

国境を越えた特許出願を三極パテントファミリーでみて、商標出願を米国への出願数でみるというものです。

米国は世界の商品が集まりますので、米国での商標の強さ、存在感は、ほぼ世界の中での商標の強さ、存在感に一致するということは理解できます。

しかし、ここに、この調査への批判が集中しそうです。

 

●たとえば、日本からの外国出願は、

意匠・商標出願動向調査 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

2019shohyo_macro.pdf (jpo.go.jp) (商標出願動向調査報告書)

によると、

 

日本国居住者が出願する先は、2018年の合計の数字ですが、

  1. 中国:23,068件
  2. 台湾:4,7401
  3. 米国:4,081
  4. 韓国:3,882
  5. タイ:3,829
  6. 香港:3,076
  7. EUIPO:2,743
  8. マレーシア:2,728
  9. シンガポール:2,189
  10. インドネシア:1,979

となっています。上位10ヵ国で、52,315件です。おそらく、このあとも、200ヵ国地域がありますので、ロングリストは続きます。

日本企業の商標出願は、アジア中心、特に中国中心であることが分ります(全体に、中国と米国は伸びています)。

商標出願は市場がある出願するということからすると、米国は日本企業にとって、主要な市場ではないようです。

 

●一方、よく見る、5極の商標出願のやり取りを見ると、そもそも、外→内、内→外ともに、線の細さが気になります。

欧州⇔米国、欧州⇔中国、米国⇔中国は、相互に、相当数の出願を出しています。

 

日本については、欧州、米国とのやり取りでは、圧倒的に日本は入超です。

中国は、日本からの中国出願は多く、中国企業の日本出願は少ない状態です。

honpen0101.pdf (jpo.go.jp) (特許行政年次報告書2019年版 33ページなど)

 

結局、日本は、中国やアジアを市場として重視しており、次に米国であり、欧州は市場としての価値は低いということになります。

一方、欧州や米国企業からすると、日本は市場であり、商標は入超になるということです。この関係は、特に、欧州で顕著です。日本から欧州への商標出願は少ないですが、欧州からの日本への商標出願は相当多い状況です。

 

●電気電子の完成品では、既に中国に完敗したので、現在、日本が強い商品は、部品・部材だけであり、そのあたりは、中国が市場であり、米国は直接の市場ではないという点もあります。

しかし、中国は完成品から、今後は、部品部材にシフトしますので、日本の部品メーカーも、これからは全く安泰ではありません。

中国、電子部品産業を育成、23年に34兆円規模めざす: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

●あるいは、そもそも、中国やアジアは、近い国であり、そことの商取引が活発になるのは当たり前という気もします。

商取引が活発になると、商標出願の外国関係の件数は増大します。

 

そうすると、米国への特許出願の比率が高いこと自体が異常であるということになります。商売もしていないのに、特許を取る意味はなんなんでしょうか。

 

以前であれば、米国に商品を沢山輸出していたので、米国で権利を取る意味がありましたが、商売が縮小しているなら、権利を取るもの縮小方向で良さそうです。

1990年台に米国企業からいじめられたことで、羹に懲りてなますを吹くをということで、保険のような感覚で、米国で特許を取っているのでしょうか。

 

あるいは、中国が直接の市場ではあるが、その製品は米国に行くので、その米国で特許がないと、中国で部品・部材が売れないということでしょうか。

 

●どちらにしても、経済の往来が活発になれば、商標が増えることは間違いありません。

外→内が増えるのは、日本が市場であることを意味し、

内→外が増えるのは、日本が当該国を市場と見ていることを意味します。

 

外国商標出願が少ないのは、海外との取引が低調であることの現れであるだけです。