法改正しかなさそう
2021年5月9日の朝日新聞に、自分の氏名を商標登録しようとして、登録できない事例があることで、法改正が必要ではないかという話題のまとめ記事がありました。
- 商標法4条1項8号は、他人の氏名を含む商標は、同姓同名の他人の承諾なしに登録されないと規定
- 1909年から同種の規定あり
- 他人による登録の横取り防止が目的だった
- 海外でビジネスをするには商標登録は必須
- これまでは登録を認められることも多かった
- 2019年の「KENKIKUCHI」判決ごろから知財高裁が厳しくなった
- 現実には、同じ読み方の他人全員から承諾を得るのは困難
- 米国法は、便覧で、承諾が必要なものは、その個人が著名なものとする
- 中国は、指名権の侵害は著名な氏名に限定
- 韓国は、条文上著名な他人の氏名と規定
- 中川隆太郎弁護士の意見として、法改正の議論が必要
事例としては、
<拒絶の例>
- 「KENKIKUCHI」(鳥の図形の中に、ローマ字で表記。2019年の知財高裁判決。登録を取るには、菊地健、菊池健など同じ発音の人全員からの承諾が必要)
- 「TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.」(タカヒロミヤシタザソロイスト。2020年に拒絶を維持する知財高裁判決)
- 「ヨウジヤマモト」(2020年に拒絶)
<登録されている例>
- 「YOHJI YAMAMOTO」(1984年に登録)
とあります。
コメント
Pierre Cardin、Paul Smith、マツモトキヨシなどいうに及ばず、氏名は商標としては一般的なものです。
比較法までしているので、丁寧な記事だなと思います。
これまでは、法運用でうまく処理してきたものを、杓子定規に運用してしまい、世間から非難を浴びている例です。
米国のように運用で対処する方法はまだあると思いますが、中川弁護士は、法改正を主張されているようです。
氏だけのときは3条1項4号の識別性の問題であり、氏名になると4条1項8号になり人格権保護になります。4条には、公益的拒絶理由と私益的拒絶理由が混在していますが、整理としては私益的拒絶理由です(除斥期間の適用あり)。
4条1項8号の文理解釈からすると、他人の承諾は全員分が必要になりますが、私益があるいうのは、著名なもの=財産的な価値のあるものに限定される、と解釈する余地はありえるのですが、8号の条文が、後半の雅号、芸名、筆名、略称は、著名なものとしているので、通常の氏名の場合は、反対解釈で、著名が要件ではないとなります。
昭和34年法を作るときに、雅号等を加えたことがあだとなった感じです。
そもそも、人格権保護とは何なんでしょうか。憲法上の権利に見えますが、本来は私法上の権利であり、名誉棄損などの根拠となるもののようです。
すべての人に人格権があるとしても、それは訴える利益のある場合=訴訟によって解決可能な場合=商標の場合は、ある程度の著名性がある場合に限定される、となるように思います。
そうなると、これは異議待ち審査の対象ぐらいでちょうどよいものです。異議の活性化は、日本の商標法にとって重大問題と思っているのですが、そのためには、審査官は特に審査せず、異議を待って審査する対象を増やす方法があります。
欧州のように抵触は、異議を待って審査するというのでも良いぐらいなので、氏名などは、その異議待ち審査で、ちょうどよいのではないでしょうか。