Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

五輪中止と賠償義務

日本に賠償義務なし

2021年6月9日の日経の私見卓見に、立教大学名誉教授(民法)の角 紀代恵先生が、五輪中止、日本に賠償義務なしという寄稿をされていました。

五輪中止、日本に賠償義務なし 角紀代恵氏: 日本経済新聞 (nikkei.com)

  • 東京都と日本オリンピック委員会IOCと「開催都市契約2020」を締結
  • 「戦争状態、内乱または大会参加者の安全が深刻に脅かされると信じるに足る合理的な根拠がある場合」に「IOCは本大会を中止する権利を有する」
  • 日本に中止の権利がないと明記しているわけではなく、法的には日本側も五輪の中止を決めることができる
  • また、IOCには執行力はなく、大会の実施を強制できず、当事者がその気にならなければ実現できない契約は、実現を強制できない
  • 契約には、日本の一方的破棄について損害賠償義務の明記がない
  • 準拠法に基づき賠償責任を判断するが、契約の準拠法はスイス法
  • 大陸法では債務者の責めに帰すべからざる事由による場合は、損害賠償責任は負わない
  • コロナ禍は日本の責めに帰すべき事由ではなく、日本に損害賠償義務はない

コメント

正確なところは、原文で読んでもらいたいのですが、疑問にスパッと答えているなと思いました。

 

損害賠償については、もし、スイスで裁判を起こして数千億円の損害賠償の判決が出ても、スイスにある財産は差し押さえられるかもしれませんが、当該外国判決を日本の裁判所が承認して、執行に至ることはないと思っていました。

(直接の契約者は、東京都とJOCですので、スイスにはほとんど財産はないと思います。)

 

国際私法の外国判決の承認は、手続き的な話ですが、そもそも、コロナ禍は日本側の責めに帰すべき事由ではなく、損害賠償責任は負わないという説明は、腑に落ちました。

 

そもそも、日本がやりたくないというのに、強制はできないだろうなと思っていました。

この点は、当事者がその気にならなければ実現できない契約は、その実現を強制できないという説明です。

これは画家が絵を描く契約をしても、画家が絵を描きたくない場合には、強制はできないという考えだろうと思います。自動車整備であれば、他の修理業者がいますので、代替して実現することも可能ですが、その人に絵を描いてもらいたい場合は、強制的に実現することは不可能です。

この不作為については、直接強制、代替執行ではなく、間接強制しかありません。さらに、誰が間接強制するのかという問題になります。

 

IOCも強がってはいますが、もしも日本や国際的な世論が、中止や延期を選択したら、どうしようと、内心、相当に苦しんでいるのではないかなと思いました。