Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標の米国最高裁判例

言論の自由違反

2019年6月25日のJapan Timesで、米国特許商標庁(USPTO)に出願され、拒絶を受けていた、「FUCT」商標についての不服申立が、米国最高裁まで進み、6対3で最終的に登録されることになったという記事を見ました。

  • 商標は「FUCT」
  • 米国では、「不道徳」または「スキャンダル」な言葉や記号の商標登録は、禁止
  • これが、米国憲法上の言論の自由の権利を侵害するかどうかの議論
  • 1905年から施行されていた法律を擁護するトランプ政権に反対し、ロサンゼルスのストリートウェアデザイナー、エリック・ブルネッティ氏を勝たせた
  • 9人の裁判官全員が、「不道徳な」商標の禁止は米国憲法の自由陳述の第一修正権利に反するとした
  • しかし、3人の裁判官が、「スキャンダルな」商標に関する制限は支持されるべきであるという異議を唱えた
  • 世界には多くの不道徳やスキャンダラスな言葉があり、神に対する誓いの言葉以上の数があり、それらを登録できないとすると修正1条に反する(Kagan判事)
  • 3名の裁判官は、政府は「想像できる最も下品な、冒涜的またはわいせつな言葉や画像」を登録する以外に選択肢がなくなると反論
  • そのような言葉は喧嘩にさえつながる可能性があると述べた
  • 出願人は、自分のブランドのカジュアル服を模倣品業者から保護するために商標登録を求めた
  • 出願人は、ブランド名は冒涜との関連性も巧妙に処理していると述べ、その頭字語は「Friends U Can't Trust」も意味するとした
  • 知的財産法を専門とする米国連邦巡回控訴裁判所は、2017年にブルネッティを支持していた
  • 米国市民自由連合は、政府担当者が、スキャンダルや不道徳を判断すべきでないと主張
  • トランプ政権は、商標登録システムを通じて宣伝することを防止したかった

 

コメント

FUCTは、Fucked(男に✖✖✖された)という音を表記したものだそうです。

https://otasuke.goo-net.com/qa355532.html

 

米国最高裁判所の2017年の「The Slants」に続く、判決です。法改正まで行くのか、当面、解釈で逃げるのかは分かりませんが、不道徳、又はスキャンダルな言葉であるという拒絶は、出なくなるのだと思います。

 

日本でも、4条1項7号の公序良俗違反になるのでしょうが、登録すると、何で審査をしているのに、そんな商標を審査官は登録するのかと怒られ、拒絶すると、表現の自由に反すると云われて、審査官・審判官も大変だなと思います。

 

政府が商標登録をしたからといって、何も、政府はその言葉の使用を奨励したり、商品の品質を保証したりしているのではありませんし、そもそも、そのような商標でも、使うのは自由です(今回の裁判でも、9名全員で、そう確認しているようです)。

 

登録に、政府のお墨付き的なものを与えるのか(社会主義国の商標法の基本的発想)、そんなものはなく、出所混同防止ができれば、それで良いとするのか(自由主義国の商標法の基本的発想)、の違いであるように思います。

 

拒絶したって使えますし、模倣品は出てくるでしょうが、それは仕方ないとして、不競法で戦う方法はありそうです。

 

公序良俗違反のような条文は、恣意的に適用されやすい条文ですので、できるだけ適用しないようにするというのは、健全ということでしょうか。

 

以前から、日本人がT-シャツに書いている英語が、実は海外では使ってはいけない言葉であるということが多く、注意が必要という話があります。

 

もし、日本で、「FUCT」のの商標調査依頼があっても、分からなかったと思います。アメリカを市場とした調査依頼なら、アメリカの弁護士に聞きますので、そのフィルターで引っかかりますが、日本の調査では無理です。

 

日本にも、外国人は多く、英語の分かる人も多いので、日本だけで使用する商標でも、英語で卑猥等の意味のある商標は避けた方がよいのはもちろんです。

長持ちする商標を創りたいなら、日本だけの商標でも、少なくとも英語のネイティブチェックはすべきです。

 

今回の出願人は、分かった上で、採用しているの、この話とは違いますが。