Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

特許の裁定制度

標準必須特許の裁定制度

2017年4月27日(金)の日経と朝日新聞に、政府の知的財産戦略本部が5月にまとめる知的財産推進計画2017の中で、標準必須特許のライセンス料について、裁定制度を導入という話がありました。2018年の通常国会に提出するとのことです。

ライセンス料の決定で交渉力の弱い中小企業でも使いやすい仕組みにするようです。

朝日新聞では、目的をパテント・トロール対策としています。また、標準化特許の裁定においては裁定費用を数万円程度にする見込みとし、裁定で決まった使用料には法的拘束力を持たせるとしています。

www.nikkei.com

www.asahi.com

 

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正式な報告書を見ないと何とも言えないのですが、想像を交えてコメントします。

関連資料は、こちらでしょうか?

  • 平成29年4月19日付の「第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方について(検討会報告書概要)」のパワーポイント

この説明によると、今回は、2つの裁定制度になるようです。

  1. 標準必須特許
  2. 多様な紛争解決の手段としてのADR

まず、1.標準必須特許ですが、行政(特許庁)が適正なライセンス料を決定するADR(標準必須特許裁定)とあります。新聞にあった話題はこちらです。標準必須特許の話は、パテント・トロールとは必ずしも一致しないと思いますが。。。

 

もう一つの、2.多様な紛争解決の手段としてのADRには、次の説明がありました。

・ライセンス契約、特許権侵害紛争、中小企業が使いやすいADR

・民間ADR(日本知的財産仲裁センター)との関係を整理した上で、制度設計

この2つ目は、パテント・トロールと関係付けることも可能と思います。

 

どちらにせよ、「裁定」という制度は、強いものですのでどうするつもりなのでしょうか?

特許法の裁定というと、不使用特許の場合の裁定、自己の発明を実施するための裁定、公共の利益のための裁定の3種類あり、1980年代の日米通商交渉では、特に公共の利益のための裁定がやり玉に挙がったと思います。伝家の宝刀で、通常は行使しないものです。

今回の標準化の裁定は、この3類型以外のものだと思います。

ここからは、全くの想像ですが、特許の技術的範囲に入るかどうかを特許庁が確認する「判定」制度に、ADRの仲裁・調停をハイブリッドにしたものと想像しています。特許庁が、仲裁や裁定自体はすべきではないので、弁護士や弁理士に委託するしかないと思いました。

特許庁の判定も、日本知的財産仲裁センターADRも活用されていない制度ですので、活用されていない制度を組み合わせて、どうなるのかという疑問があります。

裁判やADRに費用がかかりすぎ、双方とも想定したほどは活用されていないので、役所が出て低廉な費用で納得いく判断をするということでしょうが、三権分立との関係や官業による民業圧迫とかの議論になるように思います。

企業は、標準化のために特許調査、開発、国内外への特許出願、標準化の交渉、特許交渉と膨大な時間と費用をかけています。

今回の1.の標準化の部分は、たぶん、特許交渉の一部のみの話になります。

最後の砦として、制度の存在自体が、特許庁の裁定があることで、企業間の話合いが前に進むなら、この制度は意味があると思います。

活用されるとすると、2.の紛争解決の方ですね。

ここ、10年、知財高裁ができ、知財を専門とする弁護士も増加していますが、判決の論理的整合性は取れてきていると思いますが、それ以上のものではないように見えます。

今回の話は、特許庁が、裁判所や企業の交渉の替わりをやるということと思います。一度、やってみたらよいと思いますが、仲裁・調停委員の名簿を、弁護士・弁理士に偏らせず、より広くビジネス経験者に振った方が良いように思いますが、いかがでしょうか。

 

nishiny.hatenablog.com

 

LVMHのオーナー家

ディオールを完全子会社化

2017年4月26日(水)の日経に記事からです。

LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)を支配するアルノー家のグループ会社が、クリスチャン・ディオール社を100%子会社にするというニュースです。従来から、74%あったものを、100%にするということした。

www.nikkei.com

LVMHのようなブランド複合体企業は、他にリシュモン、ケリングという会社があるようですが、これらの会社は、買収で大きくなっており、今回のケースもそのようですが、買収の過程で創業家の移行などで出資構成やガバナンスが複雑化しているケースもあり、その整理をして、総合的なブランド戦略を打ち出してブランド間の競争を勝ち抜くという趣旨とありました。

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先日、スティープ・ジョブズの本を読んでいたとき、PIXARをDisneyに売却したとき、PIXARが会社の場所とか、意思決定とか、いろいろな面で、自由度を確保したというくだりがありました。

通常の企業では、資本の論理が一番強いですので、被買収会社は、買収する会社の会社のカラーに染められるのが通常です。しかし、さすがに、PIXARなどは、Disney映画にとって無くてはならないものであり、自由度を確保しつつ、売却できるなんて、スティーブ・ジョブズは凄いと思いました。

さて、ラグジュアリーブランドの場合は、チーフデザイナーやマーケティング担当などの人間模様がブランドを作るものであり、資本の論理だけではすまない世界だと思います。

下記の本は、2002年の本ですので、15年前のものですが、そのような人の重要性が理解できました。

このような人間模様まで含んで、LVMHの本社はコントロールしているのでしょうね。

ちなみに、高級ラグジュアリーブランドとは縁がないのですが、なぜか、大学生のときに着ていた一張羅のブルゾンが、日本橋駅の地下街で買ったディオール製品でした(友人からは只のジャンパーと言われていました)。

五輪マスコットの公募

5月中旬に要項発表

2017年4月25日(火)の日経に、2020年東京五輪パラリンピック組織委員会のマスコット選考検討会議が24日にあり、応募要項を5月中旬に発表することを決めたという記事がありました。

www.nikkei.com

tokyo2020.jp

  • プロアマを問わず広くデザインを募集する
  • 最終候補を3~4案に絞って公表
  • 子供の意見を反映させた上で決定

というプロセスのようです。

組織委員会は、マスコットの商標や意匠するなどして、法的に問題ないことを確認し、最終候補を公表する。

意匠登録のために、マスコット前後、上下、左右の6面図や、プロフィールを提出を求めるとありました。

 

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前回のエンブレム問題があるので、慎重に判断されると思いますが、前回は、著作権が問題になったのであり、商標が問題ではありませんでした。

また、今回、マスコットですので、ノート、Tシャツ等の衣類、ぬいぐるみ、ストラップといった商品化権のグッズ類を想定してだと思いますが、意匠が出てきています。

しかし、たぶん、意匠で引っかかるようでは、著作権でダメだと思いますので、この著作権の調査をどうするかです。インターネットの画像検索が通常ですが、データベースがあるわけではないので、どうするつもりでしょうか。

公表してしまえば、公衆審査で、世界中の人が調べてくれると思いますが。

さて、意匠の6面図を出せというのは、ハードルが高いですね。一般の人には正面図はかけても、6面図は、書けないと思います。意匠という笠を着た非関税障壁のように思われてもしかたないのではと心配してしまいます。

正面図のみを募集して、良さそうなものは事務局で6面図を仕上げて、本人の確認を取るというのが、筋が良いのではないでしょうか。

特許庁 審査にAIを活用

商標の審査で、AIをどう使べきか

2017年4月24日(月)の日経の記事です。特許審査にAIを活用する方針という話です。

www.nikkei.com

特許の新規性の引用例の検索作業や、特許出願の分類作業、図形商標の画像認識での引用例の検索作業で、AIを活用するという方針のようです。AIに学習させるだけの業務資料があって、AIが答えを出せそうな20業務を対象とするとあります。この業務について、実証実験をして、費用対効果を見るようです。

一般からの問い合わせに対する回答案をAIに作成させる実験をして、人間とほぼ同水準の作業ができるということでした。

 

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AIが法務や知財の業界で何ができるか、最近、話題になっているようです。法務では、ディスカバリーで活用する、特許では新規性の引用例の検索、商標では図形商標の検索ということでしょうか。

特許や商標の審査は、コンピュータが一番早く時期に入った業種の一つです。BRANDYの商標の称呼検索も早かったですし、ペーパーレスも早い時期からスタートしています。

この記事にあったように業務資料があり、また、一定の需要がしっかりあるということが必要なのだと思います。

私見ですが、商標で、AIを活用する時代が本当に来るなら、是非やってほしいのは、図形商標や文字商標の類似ではなく、「商品」・「役務」の類似判断です。

1992年の法改正のときに、実務家の要請で商品・役務の類似群コードが残ってしまったと聞いています。類似群コードは、実務家には非常に楽なのですが、これを墨守すると商標制度が発展しません。最近の裁判所がマークについてみるべき判決を出している(?)としても、商品・役務は、そもそも論点になっていないことが多く、そのため、審判にも裁判にもなりません。

商品・役務は、コンピュータがコード検索しかできず、全文検索もできない当時の状態のままです。日本分類は商品分類としては良くできていると思いますし、類似群は便利ですが、類似群をありたがっている精神構造にいる限りは、日本の商標制度はあまり良くならないと思います。

類似群コードの発想は、特許庁の業務の効率化をベースにしています。日本法の欠点は、周知商品/著名商標の保護が、マークの面でも商品・役務の面でも足りないことと、先使用権を軽視すること、商標や商品・役務の類否を特許庁の審査基準に頼り過ぎていることなどです。そのため、商標の世界の結論が、世間の常識とズレていることが多いように思います。

1992年の国際分類採用時に、類似群コードをやめていれば、業務上の多少の障害はあったとしても、このあたりの議論が大きく進み、いまごろは、世界に冠た立派な商標制度の国になっていたかもしれません(日本から、商品・役務の類似群コードを入れた中国が商標出願大国になっているのは不思議なのですが...)。

AIを入れる前提で、もう一度、商品・役務の類似をやり直してどうでしょうか。具体的には、審決例や裁判例を積み重ねて、それをAIに調べさせて、商品・役務の類否を判断するようにしてはどうでしょうか。

ちなみに、同時通訳、翻訳についてのAIの話はこちら:

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東京都で時間差通勤

東京都と企業が連携して7月に実施

2017年4月22日(土)の日経の記事からです。首都圏の通勤ラッシュ緩和を目指し、7月に東京都で、企業を巻き込んだ時差通勤の試みがあります。夏休み前の2週間、大手企業と官庁などが時差通勤を実施します。

朝の混雑が7時~8時にあり、その時間を1時間~3時間ずらすということでした。参加企業は、東京都の他、全日空サントリーパナソニック三菱地所など数百団体という規模です。

 

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3月から虎ノ門勤務で、新橋から虎ノ門までの銀座線の混雑に驚きました。汐留勤務が5年ほどあったので、新橋駅は使っていたのですが、銀座線に状況は知りませんでした。8時過ぎに銀座線の新橋駅に行くと、地震の改札規制の時のように階段上まで人であふれており、改札内に入れないのではという状態です。

虎ノ門ヒルズができてから人が増えたとか聞きました。虎ノ門地区はビルの開発ラッシュですので、今後ますます増えそうです。

10分~20分、少しずらすだけで、だいぶ混雑は緩和しますが、どの時間帯も、混雑はしています。花粉の季節が終われば、一駅ですので、できるだけ歩こうと思っています。

 

オリンピック・パラリンピックを乗り切るために、在宅勤務の活用が言われていますが、この時間差通勤もその一環になると思います。

 

1月に大阪にいたときに、京阪電車に乗っていた感想ですが、朝でも電車は混んでおらず、ゆったりとしていました。関西や中部地方の方が、通勤はだいぶ楽だと思います。

中央省庁の地方移転が、東京の通勤問題(東京の一極集中問題)を解決する一番良い方法ですが、中央省庁の方は、この話題は嫌いです。

ちなみに、韓国の特許庁は、ソウルからだいぶ離れた大田市というところにあります。アメリカの特許庁バージニア州アレクサンドリアにあるようです。

 

nishiny.hatenablog.com

 

新しい裁定制度(ADR)

知財法制の一括見直し

2017年4月20日(木)の日経にで、知財法制の一括見直しの記事がありました。基本的には、IOTやビックデータの時代に「データ」を知財としてどう扱うかの話です。

www.nikkei.com

その中で、パテントトロール対策で、トロールに訴えられた企業が駆け込むことができる裁定制度を新設するという記載がありました。専門家が間に入ることで、乱訴を防ぐとあります。

下記の経産省の報告書が元ネタのようです。

www.meti.go.jp

標準必須特許をめぐる紛争を対象とし、特許法の改正も視野に入れ、行政が適正なライセンス料を決定するADR制度(標準必須特許裁定)の導入を検討すること

  • ライセンス契約や特許権侵害紛争を対象とし、中小企業等が使いやすいADR制度(あっせん)について検討すること

日経電子版に関連記事がありました。

www.nikkei.com

トロール対策だけではなく、中小企業が大企業を訴えたいときにも、この新裁定制度は有効ということでした。ADRの利用促進策でしょうか。

 

先日、弁理士会のADRの研修会に参加しました。専門家の弁護士・弁理士などが、間に入って、主としてビジネスとしての見地から解決策の提案をして、Win-WInの関係を作るのがADRという説明でした。しかし、ドメインネーム紛争を除き、ほとんど活用されていないことを知りました。また、Win-WInを実現するのは、説得が大変で、大変苦労するという話でした。間に入る専門家の努力や能力が必要なのが現状と思います。

 

一方、裁判は、民事訴訟の原則に則って主張のあった点を中心にすすめられますので、Win-Winを構築するのとはだいぶ違います。知財には法解釈論以外の部分が非常に多くあり、そのあたり非常に泥臭いビジネスです。日本では、企業の知財部がやっている交渉事の数は、実際に裁判になる件数の100倍以上?の件数があると思いますので、うまい制度を設計すれば非常に良いと思いますが、前述の実際のADRの少なさや、苦労を聞くと、どうするのかなと思っています。

 

通常、ADRは仲裁・調停で、特許庁は出てきません。必須特許を念頭にしているようですが、裁定というぐらいなので特許庁が絡むと思います。どんな制度設計か関心をもって見ていこうと思います。

パナソニックの外部人材登用

樋口泰行氏が社内カンパニーの社長に

2017年4月21日(金)の日経に、松下電器を飛び出し、アップル、ダイエー社長、日本マイクロソフト社長を務めた樋口さんが、パナソニックの社内カンパニーのコネクティッドソリューションズ社の社長(会社としては専務役員)になったことなどについての特集記事がありました。

www.nikkei.com

6月からは、4人しかいない代表取締役になるようです。「若気のいたり」で飛び出したが、「恩返ししたかった」という言葉が載っていました。

その他、パナソニックは、外部人材を多数登用しているようです。

記事には紹介されていませんが、社外取締役に冨山和彦さんがおられます。

 

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樋口さんは、元松下産業機器㈱の技術者で、パナソニックOBでは一番の有名人でしたので、パナソニックにいたときに、話題にのぼることがあった人です。

  • 会社派遣でMBAを取られ、社外に転職した人ということ
  • ダイエー社長のときは苦労されていたこと
  • マイクロソフトでは、社名に「日本」をつけるということをしたこと

以上が、私の知っているすべてですが、是非、パナソニックの停滞状況を打破してもらいたいと思います。

樋口さんのいいところは、パナソニック経験があるという点と思います。パナソニックは、歴史のある会社ですし、創業者の経営理念が重要な会社ですので、そのあたりと欧米流の経営戦略やビジネス感覚のようなものをうまくミックスさせる必要があるような気がします。

なお、マイクロソフトの日本法人の社名に「日本」をつけたのは、グルーバル企業としては、珍しい解決策であり、それを樋口さんが米国本社に掛け合って認めさせたと記憶しています。日本のインナー企業になるという趣旨です。特に、ジャパンではなく、「日本」という選択肢は、非常にしっかりした会社という印象を与えます。「マイクロソフト」という会社は、なんとなくですが、業務運営が翻訳調で、バタ臭い会社でしたので、理解はできます。

ただし、通常、グローバル企業の現地法人は、「ABCジャパン㈱」や「日本ABC㈱」という方法を避け、単に「ABC㈱」と名乗る方向性です。これは、法人格こそ日本法人であっても、ABCの日本法人は、グローバルABC社の日本での総責任窓口ですということを鮮明にする趣旨であり、ジャパンや日本を抜くのが良いのではないかと思います。樋口さんは、この方向とは全く逆の選択をさせたのは印象的でした。