商標の管理(Trademark management)(その5)
商標の警保(警告保全)
第5章の執筆者は、コカ・コーラの出版部の法律顧問とありますので、広報部門の弁護士というところでしょうか。
商標の警告保全で、警保とありますが、この警保という言葉は、聞いたことがありません。通常、警告保全という言葉では、模倣品対策のようなことを、想像しますが、この章では、それには言及しないとあります。
普通名称化の防止策と、ロゴの適正な使用を社内と取引先にいかに訴求するかを説明しています。ブランドポリス、ブランドのポリスファンクションのことのようです。
まえがき
商標権の喪失の危険を最小限に止めるには、商標所有者が使用態様について、警告保全することが必要とします。
危険の覚知
タイピストのミスタイプによっても、商標は弱いものとなるとあります。
警備はまず社内より始まる
一貫性をもって、各媒体に商標を正しく表示することは、”商標の適正使用”の章で述べたが、正しい使用法は、ガイドライン等で、全従業員、関係会社、関係する業者、その他に配布するとあります。事例として、GOODYEAR、GM、ウエスティングハウスのガイドラインがあがっています。
デザイ!!!ナーは、商標を変形したり、組み合わせたり、したくなるが、トラブルの元とあります(※今も同じです。)
それを避けるために、モンサントのロゴガイドラインの例が引かれています。(※Mの文字をバックにMONSANTOの文字のある商標で、ある程度、立体的に見せたり、陰影をつけたいすることを、ここまではOKで、これはNGということを絵と文章で説明しています)。
原則として、商標を形容詞として使ってはならないとあります(※商標は、形容詞として使えという流派(=’sをつけるな)と、形容詞として使うなという流派があるように思います。基本は、少なくともロゴは独立ですし、文字商標を普通名称とセットで表示する場合でもⓇを記載して、離す方がよさそうです。)。
「コカ・コーラ冷却器」(Coca-Cola cooler)は、本当は駄目なんだけれども、コカ・コーラを冷やすための特に作った製品で、カラーが赤のものだけに、特別に認めているとあります。
このような商標の使用方法の「卸や小売り」への徹底は、商標見本の配布、広告・宣伝の事前承認を要するとありますが、「如才なく(抜かりなく、気が利く、愛想よく)」行う必要があるとします。
会社外における商標使用の警告保全
従業員、卸、小売りまでは、関係者として、その先の第三者に対する警告保全です。これについては、切抜通信社なるものがあり、刊行物や広告で商標に言及があるものが、あがってくる仕組みのようです。(※アジアの広告代理店のサービスでこれを見ていたことがあります。オンラインサービスです。あまりに膨大な数が出てきますし、日本からでは何もできませんでした。これは現地でしかできない仕事だと思います。)
コカ・コーラでは、”COCA---COLA””と””COKE””について、大文字を用いるとかのルールのチェックをしているとあります。大文字と小文字の点は、重要な論点のようです(「約物(やくもの)」の用法は、重要な管理対象)。
商標が普通名称化した、アスピリン、エスカレーター、セロファンの事例を引いています。
米国では、ジョージア、イリノイ、マサチューセッツ、ニューヨークでは、州法で裁判所に商標の乱用防止を訴えることができるとあります。ただ、新聞雑誌の編集者には、敵意を持たず、威嚇的にならず、表現の自由の侵害と憤慨されないように注意して、協力を求めるとあります。
商標所有者にとって、いかに大切なことかを説明すると良いとあります。
J&J、テクニカラーなどの、普通名称化に関する警告文が載っていますが、感謝を述べたり、非常にPoliteです。
コカ・コーラでは、ロゴや大文字・小文字などの啓発資料を23分間のフィルムスライドにして(The Case for the Upper Case=小文字と大文字)、ジャーナリズムの学校、大学、出版協会、図書館に配布しているとあります。
普通名称化の防止と宣伝を兼ねた、コカ・コーラ、テクニカラー、7-UPの広告が紹介されています。
編集者やその他に、講演者を派遣することをしますが、広告を中止するぞというような脅しは決して口にすべきでないとあります。
また、普通名称化が裁判になるときのためでしょうか、会社が妥当な措置をとってきたことを記録するように薦めています。
最後に、有名なホルムズ判事の言葉が紹介されています。
商標というものは、高価で、デリケートで、しかもたやすくこわされてしまう。しかし聡明な理解力と正当なる努力をもってすれば、永久に持続することができるものも商標なのである。
コメント
法律家の視点では、「普通名称化の防止」からの説明となってしまうのでしょうが、ブランドマネジメントでは、一般には「一貫性の確保」から説明されることが多いと思います。一貫性を確保すると、消費者の記憶に、残して欲しいものが残ります。
両者は、内容的には近いものです。
普通名称化の防止だけではなく、財産権の毀損というように考えると良いと思いますし、対外を考えると法律的な弁護士や弁理士の仕事とも考えられます。
コカ・コーラのビデオ、面白そうです。
社内、卸、小売りまでで、四苦八苦している会社が多いなかで、マスコミや広く社会に対して、普通名称化の防止や、ロゴの使い方、ブランドの歴史などを、社会が受け入れられる形で、コミュニケーションしている点は、参考になるように思いました。
最後に凄いものが出てきました。最高裁判事ですね。日本でも、だれか、商標に関して、上手いことを言ってくれていないでしょうか。
商標の管理(Trademark management)(その4)
商標の内部的管理
第4章は、企業の中でどのように商標を管理するかです。この章の執筆者は、デュポンの法務部長です。
まえがき
当時のアメリカにおける、各社の取り組みが紹介されています。次のようなことをしているとあります。
- 新商標の名称選定委員会(販売、宣伝、生産、法律部)
- 広告原稿の法務部の弁護士によるチェックと承認
- 商標委員会(国内、外国における、登録、更新、放棄の決定)
- 外国の登録と国内の登録状況を合致させるために、役員の一人にその責任
- 社内法務部長(法律顧問)と広告部の定期的会合での、商標の選択、登録、使用、誤用、使用許諾、侵害、広告原稿・ラベルデザインのチェック
- 社外の弁護士による商標関係の書類の整備の監査
その中で、紙面がないので、以下、商標関係書類の整理について説明をするとあります。
登録商標の一覧表の作成
(コンピュータのない時代ですので)カード式、あるいは、ノートブックで、
- 商標の表示
- 登録証発行日
- 登録証の番号
- 登録国
- 登録有効期限満了日
- 更新される最初の期日
- 使用宣誓を提出すべき日
などの書誌的データを管理するとあります。そして、このカードは、2部作成し、一つは期限順に、もう一つは商標のA、B、C順にならべるとあります。
(※ここは面白いと思いました。以前にいた会社に、カードが残っていたのですが、それは商標順で、指定商品のチェックに使っていました。
期限管理は、カードではく、ノートでした。コンピュータの補助です。今の事務所は、カードを期限管理の補助に使っています。
カードを取り出して、指定商品の確認などに使うと、紛失の危険があり、ノートの方が期限管理に向いているような気がしていたのですが、デュポンは、2つ作っていたんですね。
そもそも、このカードパンチ穴の方式で、期限管理に使えるはずのものです。)
弁護士の役割
- 商標登録に関する書類整備
- 異議のための公報の調査
- 他社の商標表示のチェック(侵害、誤用を調べる)
- 侵害、誤用を役員に報告
- 警告書の作成、販売・宣伝・渉外担当の社員の指導
- 警告を聞かない相手方への訴訟
- 国内外の弁護士の支援
- 会社の宣伝や、顧客の資料が、法律、契約、商慣習に合致しているかのチェック
- 会社の管理部、販売・宣伝部、渉外部の幹部への勧告(商号、商標の模倣品対策、ライセンス、信用について)
社内に法務部長がいない場合
最低限、次のことをする。
- 見本印刷部の準備(※たぶん、「清刷り」のことです)。これを、個別商標、綴り、句読点、表示に関する基本的規則を示す
- レターヘッド、インボイス、広告文、印刷物で、商標、商号、その他の表示の商標の基本的規則を記載したパンフレット(※ブランドガイドラインです)
- 主要職員のための商標の費用、登録、保護、表示などの重要事項の実行、決裁、方針、手続き等を記載した便覧(※ブランドの全社規程です)
法務部員がいないときは、外部の弁護士に作ってもらえとあります。
(※日本では、これができる弁護士はあまりいないと思います。最近は、ブランドガイドラインは、インターブランドや、広告代理人が作ってくれますが、全社規程を作れる人はあまりいません。企業の商標出身者なら作れると思います。)
歴史的記録の保管
整理カードに、次の情報を記載する。
- 商標の創作者
- 社内での承認経路
- 商品の説明
- 特許に関する事項(あれば)
- 販売計画
- 簡単な歴史
- ラベル、インボイス、船荷証券のコピー
- 最初の出荷日の確認(船荷書類で)
- 国内外の商標登録に使用した提出書類のコピー
- 商標の使用を立証する最初の商標見本
- 侵害の警告文、回答など
- 訴訟などの命令、判決
これらを、製本せよとあります。(※ファイルに入れるだけではNGなんですね)
営業実績の記録
- 広告の見本(この点は、特に強調しています。これが唯一の証拠と言っています。)
- 販売高および広告費用の数字(全体ではなく、商標毎、地域毎に出せるようにということのようです)
- 継続的使用を立証するインボイス(訴訟に勝つか負けるかの分かれ目)と言っています。
コメント
アメリカには、弁理士はおらず、弁護士が商標や特許を扱います。技術系の弁護士が特許出願を扱いますが、商標は技術のバックグランドのない弁護士でも対応可能です。
会社の中に弁護士は、沢山おり、この本で法律顧問というのは、法務部長(General Counsel)のことを指すようです。
日本で、商標部門が日陰の存在になるケースが多いのは、技術者中心の特許部門の中に配置されることが一つの理由なのですが、そうかと言って、日本では、法務部に商標部門が移ってもどういうことになるか、よくわかりません。
ただ、云えるのは、商標には、これだけの業務はあるということです。
チェックは、現在、ブランドマネジメントがやることになっているかもしれませんが、普通名称化や、商標の同一性のチェック、他社商標への言及方法など、商標担当の仕事です。
社内に働きかけて委員会をやったり、広告物をチェックしたり、広告物を保管したり、このあたりの活動にフォーカスしているようです。
そして、現在の日本では、権利管理や模倣品対策で精一杯で、この本でいう商標委員会や、使用証拠の収集・保存、全社規程の発行、などまであまり手が回っていないと思います。
特に、使用証拠の収集保存については、昔の更新制度があったときは、やっていたものが、今は、まずやっていません。
これは、商標法の改正が大きいのですが、制度を楽にし過ぎた感があります。
1996年の改正ですが、そのころから商品カタログも減り、Webに移行しています。
Webは現在の情報は十分ですが、過去のWebの情報は、Web担当も持っていないのではないかと思います。
PDFなら発行年月日等も入れられますが、Webの証拠をどう保管するかも大きなテーマであるように思います。
権利の管理などは外だし可能ですので、絶対に内部でしか出来ない仕事にフォーカスするのがポイントだと思います。
商標の管理(Trademark management)(その3)
商標の適正な使用
本書の特徴の一つである、商標の適正な使用(適正使用管理)です。
「使用の定義」
まず、ランナム法の使用の定義の紹介です。すなわち、商標の使用を製造物、容器、密接な関係のある販売用展示物、製造物のラベルの上に表示し、それらは、商業上販売されうるもので、または、輸送されるものでなければならないとしています。
「一貫性」
商標はいつも同じ形を使用するのが、侵害対策上も有利であり、もし、使用態様を変えるときは、商標登録をやり直すか、商標の訂正(アメリカでは、登録後でも可能です)をすべき。(※ブランドマネジメントで良くいう、Consistencyですね)
そして、
・綴りを間違えないこと、
・商標は固有名詞と同様に最初の文字は大文字にすること、
・商標を使用するときは普通名称と区別すること、が挙げられています。
「商標権の喪失」
●一般論
・使用を中止し、再開の意思がないときは、放棄と見なされること、
・商標権者の不注意により、普通名称化すること(セロファンは、もともとデュポンの商標で放棄する意思はなかったが、広告に商品の説明的に使用した結果、普通名称化した)、
により権利が消滅するとあります。
●一般大衆による不適切な使用
・商品の一般名称を作っておかなかったために、一般大衆が普通名称化してしまった例(エスカレーター、アスピリン)
・防ぐためには、「trademark」「Brand」「TM」などを付けること
●ライセンシーによる不適切な使用
ライセンシーの商標の使用法は、油断なく監視しなければならない。製造物の品質を維持せず、出所を適当に表示しないときは(※社名の偽りのことでしょうか?あるいは、ロゴの不適切使用のことでしょうか?なんとでも解釈できる言葉です)、権利者の商標に対する権利が喪失する。
「商標登録標記(表示)」
米国法では、不当利得返還請求、損害賠償請求のためには公的な表記が必要。商標を表示するラベル、包装、他の印刷物に、少なくとも一回は、商標に近接して、明確にわかるように商標登録標記をすること。
・Registered in U.S. Patent Office(※当時は、まだ、Patent & Trademark Officeではなかったのでしょうか)
・Reg. U.S. Pat Off.
・Ⓡ(※出てきました)
この標記をするのは、
新聞、雑誌、ダイレクトメール、ステーショナリー(レターヘッド、封筒)、取引書類(小切手、インボイス、注文書、引受書、領収書)、広告看板、映画、テレビジョン
ラジオの場合は、例えば、『「フィルコ」はフィルコ会社の登録商標です』と所有者に言及するとあります。
この商標登録標記は、基本商標(デュポン、RCA、フォード)の下の補助的標章(※Trademark は、markの上という意識があるようです)にも、同様に行うとありあす。
「他人による使用」
他人による使用は、「(卸や小売りなど)取次業者による使用」と「ライセンシー」による使用があるとします。
・取次業者は、競業者よりも、商標の使用が自由である分、知らず知らずに誤った使い方をことが多く、そのため、デュポンのダクロンのガイドラインを引き合いにだして説明をしています。
・ダクロンは、所有格に使用しない(’sをつけない。ダクロン ポリエステル繊維製縫糸の、とする)
・ダクロンシャツ、ダクロンセーターとはしない。ダクロン ポリエステル繊維製織物(シャツ)と記載する
・ダクロンを使った商標をつくらない(商標ダクロンの部分にせよ、それと認識される他の言葉、商標、会社名、織物の説明その他と組み合わせて使用しようとしない
また、J&Jの例を引いて、ロゴタイプのガイドラインを提示することを勧めています。このガイドラインには、BAND-AIDのような商品の商標もあります。
この適正使用管理の法的な説明としては、ある全国的な清涼飲料会社が、一人の卸売り会社に商標をライセンスしたところ、その業者が自身でラベルを用意し、その商標を自社の会社名の一部にして、他の会社から買った清涼飲料にも使用して、全国的な清涼飲料会社からの購入を中止してもその商標の使用を続けた場合につき、連邦地裁は、差止ではなく、(※登録を無効にして)使用継続を認めた(※たぶん、Naked License)という説明しています。
・ライセンシーによる使用
自分が権利者でないものを、ライセンスはできないません。また、ランセンシーの使用だけでは商標権を確立できません(※Robert Ripleyの“Believe it or not”の事例を引いていますが、推測するに、始めから単なるラインセンスだけでは、使用ありとは認められないという話ようです。この「無から有は生じない」=何某かの努力が必要というタイプの論点ですが、ライセンスにおいて、Quality Controlが必要な一つの理由のように理解しました)
・ライセンス契約の条件をあげています
- Quality Control
- ライセンスの譲渡の禁止
- 商標をさらに別に特徴づける宣伝材料や包装の使用禁止
- 許諾の趣旨に合致しない宣伝材料や包装の使用禁止
- 契約に従わないときのライセンスの取消
- 適正使用管理、侵害排除の責任分担
・使用許諾は拡大しており、それに賛否は言えないが、法律的な話であり反トラスト法の問題があるので、ライセンスは、法律家に助言を求めるべきであるとして、締めくくっています。
コメント
この章は、この本の一番重要なところだと思います。
ランナム法の制定は、1946年の戦後すぐです。20世紀初頭には、普通名称化した商標が多かったのかなと思います。そして、普通名称化の防止と商標登録表示はセットで考えているようです。
米国法は、商標登録表示をしていないと、損害賠償金が減ります。このあたりは、公示を補うものとも、商標権者の保護ともとれます。商標登録表示を励行させ、普通名称化を防ごうという意図を感じます。
他人による使用の本論は、ライセンシーへのQuality Controlですが、それよりも、卸、小売りによる商標の使用を先に扱っている点は、出色です。
社内でさえ十分にコントロールできないのに、卸や小売りのブランド表示のコントロールは、簡単ではありません。しかし、消費者の目に止まるのは、こちらです。
消尽論(用尽論)は、特許向けの議論であり、商標では製品そのものは、消尽的に考えても良いと思いますが、卸、小売りは、別の使用行為(販売役務での商標使用)と考えるべきです。その考えがこのあたりにあると思います。
そして、本来は、別行為ですから、単に点々流通させることと、単に言及するという程度を超えた使用には、ライセンスが必要になるばずです。
残念ながら、ロバート・リップレイの「真か嘘か」は、前提の話が分かりません。しかし、使用許諾だけをもって、自分の使用(意思)があるとはいえない。少なくとも使用意思ありというためには、実際的な統制(Quality Control)が必要ということだと理解しました。
そして、ブランドロゴの適正使用管理は、このQuality Controlの大前提であり、重要な管理項目というのが、この章の読み方だと思います。
ちなみに、この商標は、フィルコとJ&Jの法律顧問が執筆とあります。企業の弁護士でないとできない議論だと思います。
商標の管理(Trademark management)(その2)
登録
昨日の続きです。
この登録の章では、商標登録の条件や、主登録と補助登録、重複登録、登録の効果といった、法律的なところを説明しています。
まず、登録されるのは、
- 商品商標
- サービスの商標
- 団体商標
- 証明標
とあります。
●登録の種類には、主登録簿(Principal Register)と補助登録簿(従登録簿と訳されています。Supplemental Register)があります。
「主登録簿」には、
- 造語(KODAK)
- 普通の語が他の商品に使用(タバコにCAMEL)
- 想像で作られた図形など(RCAのHIS MASTER'S VOICEの犬の絵)
- 使用による特別顕著性が認められたもの(シンガー:姓、デュポン:姓、タバスコ:地名)
「補助登録簿」には、
- 人名、成句、姓名、地理的名称、標語、数字で、識別力はあるが、使用期間が長くなく、実質的に広範囲に使用されていないものが入るとあります。
- ラベル、包装紙、商品の形状も、補助登録簿に入るとあります。
- 一年間の「合法的使用」(独占的使用ではない)が必要
スローガン(標語)(当時のアメリカでは、スローガンを商標登録する会社は少数派とあります。広告的使用では商標登録の要件に当てはまらないためのようです。
●商標登録の条件としては、
ランナム法(The lanham Act ※現在の日本では、ランハム法と訳されていますが、hは発音されないので、ランナム法、あるいは、ラナム法が、正しいと聞きます)は、次の4つを要件とする
- 公序良俗に違反しないこと
- プライバシーの権利(私的秘密保持の権利)を侵害しないこと
- 他人の標章、商号と混同を起こさないこと
- 説明的、欺瞞的な虚偽表示、地理的名称、姓名からの標章でないこと
・公序良俗違反の例として、赤十字、「連邦」「ナショナル」「合衆国」などの語、軍隊関係の記章、勲章などが挙げられています。
・プライバシーの権利とありますが、人格権由来の氏名、肖像権を言っているようです。有名人の氏名が、商標になるのは、極めてよくあるケースです。
・混同の要件は、登録され、使用されている商標との類似は登録しないという要件です。特に、商標同一・商品同一(ダブルアイデンティティ)に言及し、さらに商品類似も排除するとあります。商標同一で、商品非類似のときは、異議をもって判断するようです。
また、商標にも、類似範囲があるとします。
ポイントは、連邦登録の調査だけでは不足で、既に使用されている標章と商号を調査するという点です。
また、調査時と使用開始時の時間のズレも指摘しています。
・説明的~は省略
●変形標章の登録
標章のデザインが変更する場合、綴りが変更する場合、翻訳語の問題などに振れています。
「弾を打ち散らすな!」一つの標章を選び、それを集中するように薦めています。
●重複登録
ジョンソン エンド ジョンソンとバンドエイドです。
●登録の効果
主登録では、権利範囲の公示と、排他権があることの一応の証拠、登録証は裁判での証拠になり、無効等の挙証責任が相手方に転嫁される、外国における権利取得の根拠となる、などです。
補助登録では、外国における権利取得の根拠となる程度です。
コメント
さて、この章の筆者は特定人ではなく、商標管理委員会となっています。登録制度の話しと云いながら、「弾を打ち散らすな!」など、実際的な示唆があります。
さて、
●混同のポイントは、商号に言及しているところです。
日本でも、現在は、会社法では類似商号のチェックが同一市町村でえされなくなり、強くなった不正競争防止法を使って、各社が自分の商号は自分で守る必要が出ています。
商標なり商号なりの選択時には、自分で商標と商号をクロスして、チェックする必要があります。
検索エンジンと帝国データバンクなどのDBを使えば、ある程度はできます。商標的な要素のある商号は商標調査をしますし、反対にハウスマークの変更時のように、重要な商標の場合は、商号調査(インターネット調査)ぐらいはやらないと怖くて使えません。
●冒頭の萼先生の注に、昭和34年法改正では、登録主義に立脚するが、使用主義的要素を入れることになっており、「商標を使用している者または使用する現実かつ真誠の意思がある者」に限定するとあります。
しかし、先生のこの説明の部分は、実現しておらず、大阪の元弁理士の件を生み出す原因になっています。
同意書や先使用権と並び、日本の法改正で議論になるポイントです。
昭和34年法では、自由譲渡や商標のライセンスを認めましたが、特に、アメリカ法と異なり、Quality Controlを要求せず、無条件に他人にライセンス可能としたことと整合性を図ろうとすると、真誠な使用の意思という要件が課せられなくなります。
日本では、商標法53条の取消審判では、誤認混同しか問題になっていませんが、本当は、Quality Controlをライセンスの条件とすべきであり、これと、使用意思の要件はつながっていると思います。
使用意思について、当時の立法者が、途中で意見を変えたようであり、それは自由譲渡とライセンスに遠因があるというのが想像です。
日本では、実務家を除き、学者や裁判等がまったく議論していないライセンスのQuality Controlですが(網野先生の本にはありますが、田村先生の本では考えなくて良いとあります。)、ここを研究してみる価値は高いように思います。
商標の管理(Trademark management)(その1)
正しい商標の選択
日経新聞の「商標の管理(Trademark Management)」を詳細に見てみます。これを、60年前の商標を得意とする、弁護士や企業内弁護士が書いているところに意味があります。
1.商標の定義
2.商標の機能(出所表示、品質保証、宣伝広告機能の説明です)
3.保有している商標の活用
- 社標/House mark:社標商標のメリット(宣伝不要)、反対に自信のない新製品ではつけないことも
- 個別商品商標の使用範囲の拡大:ブランド拡張の話です
- 派生商標(Derivative Mark):イーストマンのコダクローム/KODACHROME、コダカラー/KODACOLOR、コダスコープ/KODASCOPE。(※最近は流行りませんが)
4.個別商品商標の注意事項
- 特定の意味のない商標(コダック、タバコのキャメル/CAMEL、RCA、GE:これらは宣伝が必要)
- 暗示的な商標:記憶させやすい。セカンダリーミーニング(使用による顕著性)の立証で登録可能。
- 説明的な商標:登録できない。しかし、人名が会社組織になり、商標となったケースも多い。ジレット/GILLETTE(カミソリ刃)、ジョンソンズ/JOHNSON's(乳児用品)、ウォーターマン/WATERMAN(ペン)。
5.造語商標の作り方
- 機械的に作る
- 単語を短くする(remedy→Rem)
- 人名に短い接尾語を付ける(LISTERINE)
- 一文字増やす(JELL-O)
- 言葉を重ね合わせる(FRIGIDAIRE)
- 長い社名を短くする(National Biscuit Company→NABISCO)
6.問題となるマーク
- 色合標章、芳香商標(※今でいう、色彩の商標、においの商標ではなく、色やにおいに、言葉を付けることのことを言っています)
- 成分商標(浸透性化学品モノグリコルフェノトキシクロゾーゲン→インフェルトレーション/INFILTRATIONという商標にする。化粧品会社の使い方によっては、普通名称化の危険性。※60年前から成分ブランドの議論はあるようです。)
- 弱い商標(Weak Mark):ブルーリボン/Blue Ribbon)、プレミアム(PREMIUM)、ゴールドメダル(GOLD MEDAL)、ナショナル、ジェネラル、イーグル。あまりに多種多様な商品に使用され、顕著性が薄い(ダブルアイデンティティだけ抑えられる)
- 二重商標:デュポンのセロファン/DUPONT Cellophane、バイエルアスピリン/BAYER Aspirin。※ハウスマークと商品商標をセットで表示すると、商品商標が普通名称化する危険性が高まるという話です。萼先生は、折角「French Caramel」という登録商標を持っているのに、Morinaga’s Milk Caramelのように、Morinaga's French Caramelと表示すると商標が弱まるという例を説明されています。
6.望ましい商標
- 簡潔なこと(コカ・コーラ社→コーク/COKE、バドワイザー/BUD WEISER→BUD、ラッキーストライク→LUCKIES)
- 覚えやすいこと
- 読みやすく話やすいこと
- 宣伝媒体に適応しやすいこと(※当時はラジオを重視)
- 不適切な意味がないこと(※事前テストでチェックする。戸別訪問、巡回調査で一般大衆の意見を聞く。マーケティングリサーチですね。)
- 輸出に適すること(不適切な意味。発音のしやすさ。登録可能性)
- 絵画化に適すること(FOUR ROSESの四輪のバラの絵、SHELLのホタテ貝)。宣伝効果が高い
- 巧妙であること(暗示的であり、説明的ではないこと。RCAのHis Master's Voiceと犬の絵※ビクターのニッパー犬のことです。顧客が買いたくなる含意がある)
7.新規商標の事前テスト
- 暗示的商標であるか
- 不適切な意味がないか
- 容易かつ長期に記憶されうるか
- 製品の名称として適切か
これからますます重要に(※ネーミング会社に頼んでも、やってくれますが、一般の意見を聞こうとすると、登録主義ではなく、使用主義が有利です。ある会社が何を使おうとしているか公開することになりますので。)
8.結論(ネーミングの大変さと、知的に選択することの重要性)
コメント
非常に良くまとまっていると思います。今でも、十分つかえる内容だと思います。ただ、ネーミング時のマーケティングリサーチは、日本ではやっていると聞いたことがありません。
インターブランドなどにお願いすると、グローバルでのバーバルのネイティブ担当者による受容性調査(ネガティブチェック)を受けることは可能です。
しかし、本当は、商品に張り付けたところを見せて、消費者の意見を聞きたいところです。
登録主義では、出願前に情報が外部に出ることを恐れて、マーケティングリサーチができません。
NDA(機密保持契約)などで、口外しないように義務づけることは可能でしょうが、一般人ですので、無理な面はあります。
日本の登録主義の利点として、使用開始前に登録が取れるので、取引の安全が維持されるという説明がありますが、マーケティングリサーチの重要性と天秤にかけると、登録主義のメリットは、デメリットになります。
素直な公平の感覚では、登録主義が良いとはなかなかなりません。
INTAのWebサイト
適正使用管理はどこにあるのか?
先日紹介した、日本経済新聞の「商標の管理(TRADEMARK MANAGEMENT)」は、米国のUSTA(合衆国商標協会)のメンバーが執筆したものです。
彼らは商標の弁護士で、法律事務所の人もおられますが、企業の関係の弁護士が多いように思います。
どのような会社かというと、
(「Ⅲ 商標の適正な使用」の項目)
- フィルコの法律顧問
- ジョンソン・アンド・ジョンソンの法律顧問
(「Ⅳ 商標の内部的管理」の項目)
- デュポンの法律顧問
(「Ⅴ 商標の警保(警戒保全)」の項目)
- コカ・コーラの法律顧問
(「Ⅵ 商号」の項目)
- クェーカーオーツ会社弁護士
法律顧問と会社弁護士がどの程度違うのかは良く分かりませんが、単なる法律事務所の弁護士ではなく、企業に近いことは確かです。
ブランドガイドラインは、今の時代なら、「社内情報」として、社内では自由に流通させるけれども、外部には出さことが、多いと思います。
デザイン会社や広告代理人など、必要な人に渡すことはOKだが、必要な箇所だけPDFの該当ページを渡すようするというような、管理がされていることもあると思います。
機密・秘密ではないが、取扱いに注意して渡しましょうという考えです。
ところが、この「商標の管理(TRADEMARK MAMAGEMENT)」を見ていると、読者にどうぞ見てくださいと、各社のブランドロゴのガイドラインを提供しています。
当時は今ほど、機密にうるさくなかったのか、非常にオープンです。
米国は、戦後日本に特許なり、ノウハウなりを開示してくれて、日本はそれを学んでキャッチアップしますが、商標の世界でも相当学ぶことがあったように思います。
USTAが発展したものがINTAです。先日、やっとWebサイトの会員限定ページに入れました。事務所がメンバーなら、簡単に入れるようです。
検索エンジンがあるので、「proper use」と入れると説明のパワーポイントがありました。また、「trademark makagement」と入れると、Trademark Portofolio Management Strategiesなどの項目はあります。しかし、ポートフォリオの話になります。
昔の本は、事例が多く(知っている会社名も出てきますし、知らない会社名も多々出てきますが)、今でいう、アーカー先生や、ケラー先生のような経営学的なブランディングのケーススタディあるいは、ライズ父娘の実践的なブランディングのケーススタディに近い内容です。
それを各社の法律顧問や社内弁護士が紹介していることになります。
以前は、適正使用管理を中心に、法律家が商標法と一緒にやっていた内容が、細分化して、経営学としての「ブランディング」に移行していったような感じがします。
本家のアメリカがこうですので、日本がそうなっても致し方ないというところでしょうか。
ただ、まだ、アメリカには、使用宣誓や、更新時の使用証拠の提出があり、そこでは義務的に全件、使用のチェックが入ります。
大阪の元弁理士の大量出願など、使用(や使用意思の確認)を重視しない日本法の限界が露呈している話ですが、使用意思の宣誓、使用している宣誓、使用証拠は、そして、使用方法の管理は、もう一度、基本に戻って商標業界の人は検討し直した方が良いと思います。
最近、商標部門の評価が低いとか、商標業務のプレゼンスを上げるためには、どうすれば良いのかという話を何回も聞きます。昔も同じ話がありましたが、どうも、最近は更に状況が悪化しているという感覚のようです。
適正使用管理の業務を軽視している現在の状況が、関係しているように思います。少なくとも、商標の適正使用管理は、商標弁理士や企業の商標担当者の必須の知識ですので、商標担当たるものは、一度は、現場でブランドマネジメントを経験すべき業務なのだと思います。
ブランドマネジメントは、やってみると相当に法律的な素養が生きる分野です。
商標審査の弁理士への業務委託
特許庁が検討中の記事
2018年10月17日の日経に、特許庁が商標審査に民間の弁理士を活用するという記事がありました。www.nikkei.com
- 商標の審査官は約130人
- 2021年度までに60人程度の調査部隊を作る
- 2019年度に民間の弁理士や弁護士を委託事業者として認定
- 審査に必要な報告書作成などを委託
- 出願された案件にまつわる過去の審査結果や実際の用途など、審査に必要な事前調査を報告書にまとめて特許庁に提出
- 商標の出願件数が大幅に増加。今後も増加の見込み
とあります。
コメント
昔の感覚で、商標の審査官は、100名と覚えていたのですが、今は130名ということです。委託する弁理士が60名というと、全体として1.5倍の規模になります。
審査期間が、6か月から9カ月にと、1.5倍に伸びているので、人員を1.5倍というのは、表面的な見方だと思います。
以前に比べて、サービスが増えたり、マドプロで入ってくる商標の指定商品・サービスの英訳とかで、商標よりも商品・サービスの理解に時間がかかるようになっているのではないかと思います。
それにしても、審査官用の先行商標調査用のシステムなどは、J-Plat Pat以上に、十分よく出来ているはずです。また、業務のOA化も進んでいることでしょう。
それでも外注が必要なのはなぜなのでしょうか?
現実に、商標審査官の業務量が増え、残業時間が増え、一方で、公務員の増員は簡単ではなく、外注をするという状態なのは分かりますが、何が課題なのかです。
AIで商標の類否判定が可能になるという話もあるのに、そちらな対応では、まだまだ無理があるというは、感覚的には合っています。
面白いと思ったのは、「実際の用途」という言葉です。使用宣誓もないので、商標を使用しているかどうかをチェックするためとは読めません(それなら使用主義的で、面白いのですが。外国周知など、周知商標のチェックは意味がありそうです。Google検索してみるとか、Global Brand Databaseで海外の登録状況をチェックするとか)。
私は、素直に、指定商品・サービスの用途と読みました。
商品やサービスの特定や類似を、真剣に見るなら、人手は足りないと思います。
大きな流れとして、日本を市場と捉える方向であり、マドプロなどを経由した海外からの出願が増えてくると思います。そのとき、外国人に使いやすい、理解しやすい制度にするには、まず、外国人の指定する商品の意味を理解する必要があります。
実際、この業務委託を受ける場合、商標調査程度のボリュームで、一人の商標弁理士の一部業務で済むボリュームなのか、ほぼほぼ、全業務時間を費やす必要があるのか?
執務場所は自分の事務所で良いのか?
部屋を分けるなどの情報遮断が必要なのか?PCは通常のもので良いのか?など、
不明点が多いのですが、面白そうな施策です。