Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

知財管理の7月号

インターネットと商標

知財管理の2018年7月号に、「インターネット上の諸問題に対する商標担当者の備え」という論考がありました。

商標担当者が知っておくべき論点のまとめのようです。

読んで関心を持ったのは、次のような点です。

 

1.インターネット上における商標の使用

まず、商標法2条3項8号で、インターネットを利用して、商標を表示した商品・サービスの広告や販売があれば、商標の使用となっています。

  • この論点は、インターネットのような、リアルなカタログがある訳でもない、いつ無くなってしまうかもしれないようなものは、商標の使用にならないのでは?という論点対応だったと思います。

 

2.WIPO「インターネット上の商標及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告」(2001年)

WTO加盟国において、「商業的効果(commercial effect)」を有する場合に限り、当該メンバー国における使用を構成する(2条)。

  1. 実際に商品・サービスを提供している
  2. 商品・サービスを提供する意図がない旨を表示している
  3. 価格が、そのメンバー国の公式通貨で表示されている
  4. 標識と共に使用されている文言が、そのメンバー国の言語で表示されている

といったことが、商業的効果を見る基準です。

  • 当該商標の使用が、どこ国での商標の使用かを見るための考え方です。
  • サーバーの設置国ではなく、商品・サービスが提供される国がどこかがポイントということです。確かに、サーバーがクラウドにある場合など、判断基準になりませんし、ましてや、ドメインネーム(世界は.comばかりです。)で、対象国を決めることはできません。

 

3.インターネット上の広告

  1. 中古車の110番事件
  2. IKEA事件

商標を、htmlファイルのメタタグに記載することは、商業的使用にあたり、商標権侵害になります。IKEA事件では、このメタタグの使用自体が、差止の対象となりました。

商標権侵害を認定するにあたり、商品購入時点の意思決定に影響を与える必要性があるかどうかで、2つの判例は割れている、とあります。

  • この2つの事件は、見ておいた方が良さそうです。

 

4.SNSでのハッシュタグ

ハッシュタグとは、#記号(ハッシュ記号)にフレーズを組み合わせたもので、例えばペプシ社の「#SAYITWITHPEPSI」をいい、ペプシ社はこの表現を、多数の国で商標登録出願しているとのことです。

  • 数か国で登録になっているということですが、まず、これが商標なのかです。
  • 商標は、商品・サービスについて、その出所混同防止のためのものという古典的な理解でいくと疑問ですが、広告効果が高いなら、商標と言ってもよいのかもしれません。

 

5.ドメイン

不正競争防止法2条1項13号に、「不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為」は禁止されるとあります。

  • 他人の商標と同じドメイン名は、禁止されることがあります。紛争解決機関として、JPドメインについては、日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIIC)の紛争処理があります。
  • 一時は、ドメイン名紛争を良く聞きましたが、最近は、あまり聞きません。
  • 海外で商標調査をすると、ドメインネームの取得可能性を調べてくれたり、ドメインネームを取得しますよと言ってくれる代理人もいますが、欧州の小さな国が多いような気がします。
  • 世界的にも、安定してきているのでしょうか。

 

まとめ

この論考は、全体を俯瞰するためには良いものだと思いました。ただ、インターネットと商標というと、論点は、15年前とあまり変わっていないようにも思いました。

目新しいなと思ったのは、ハッシュタグ程度です。

 

インターネット上の商標使用は、後で使用があったと証明できない(事件を議論するときには、消されているかもしれない)ので、商標の使用とはならないのではないか?という議論があったことが、うそのような状況です。

不使用取消での使用証拠、商権侵害(ネット上の模倣品対策)など、インターネットを商標の使用の対象と考えないと、どうしようもない時代になっています。

 

欧米では、以前から、カタログもペーパーレスになっているようです。海外で識別性が議論になるときに、沢山のリアルな広告のコピーを提出していましたが、ネット広告の場合は、検索エンジンのヒット数でも出した方が、良いのかもしれません。

 

アメリカの使用証拠の認定でも、インターネット上の広告での使用が、使用証拠になる場合とならない場合があり、議論になります。商品・サービスの購入に影響をあたえる状態であるかどうかが論点のようです。

例えば、商品の通販サイトで、商標を表示していたときで、そのサイトで購入できるときは、商標の使用になるようです。

日本のメタタグで議論されていることと同じようなことが、アメリカでは登録取得時の使用証拠で議論されています。(発見です)

 

また、中国の弁護士さんから、日本のドメインで、日本のサーバーからですので、中国語ではありますが、中国での商標使用とは認められませんと言われたことがあります。国によって理解に差があることもあり得ますが、ちゃんと詰めてみようと思います。