Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標管理(日本生産性本部)(その10)

Ⅹ 日本における商標管理の実情

第10章は、1958年当時における日本の商標管理の実情です。現行法の説明、改正法の動向、特許庁、企業の運用などを説明しています。

●先願登録主義

商標権は、使用ではなく、登録によって発生するが、当時は、「現に商標を使用しているものと、将来商標を使用する現実かつ真誠の意思があるでもなければ、登録を受けられないことを明確に」しようとしているとあります。(※3条1項柱書のことでしょうか?「自己の業務に使用する」という部分です。しかし、現に使用し、あるいは、将来使用する現実かつ真誠の意思という言葉は、英米的であり、現行法では、ここまでは言っていません。)

 

●連合商標

商標出願の3分の1が連合商標であり、販売を予定していない商品にも、出願することが広く行われているとあります。

 

●統計

出願件数は、39,027件(1956年)で世界一だったようです。これを16名の審査官と15名の審査補助で審査しているとあります。

出願が多い理由は、中小企業が多い、区分が多い(当時70分類)、商標の類似範囲が狭いので連合商標で防衛する、ストック商標が多いとあります。

今後は、商標と商品の類似範囲を広げるのが、特許庁と裁判所の方向性とあります。

 

●企業

45社の調査ですが、商標課や商標係がいるのは、わずか4社で、特許課や法規課がほとんどのようです。

それでも公報は購入して、営業にも回覧しているとあります。

商標の選定については、委員会制度をもうけている会社があり、また、グループ会社で委員会の組織で権利の保全をしている会社があるとします。(※三菱グループ等のイメージでしょうか?)

 

●商標の選定

伝統的に日本では、酒・醤油・日本菓子などの図形商標が多かったのが、マスメディアの発達に伴い、文字商標(口頭で発音される商標)が多くなったとします

 

●適正使用管理と普通名称化の防止

商標の使用基準を設けている会社が、45社中18社あります。

また、普通名称化の防止は、登録標記の他、営業、宣伝が監視しているとあります。

改正案では、商標権者は普通名称化するような使用をしている者に対して、その差止を求めることを請求できるようにしようとしているとあります(※この規定は、どこかで削除されているようです)。

 

●商標の侵害

日本が外国の商標を侵害しているのは、外国のバイヤーがそれを作るように求めるためとあります。そのため、バイヤーに誓約書を書かせる方法が一般化しているようです。

 

●商号の保護

著名商号、著名社標(※社章のようなイメージでしょうか?)の保護は十分ではなく、不正競争防止法、商法の改正をもとめる声があるとします。

 

コメント

面白いのは、当時の法改正では、「現実の使用および現実の真実かつ誠実な使用意思」という英米的な概念を入れようとしていた点です。現行法でも、「自己の業務に使用する」という程度の表現はありますが、当時の改正案にくらべると弱い表現です。

 

もし、改正案のように表現したとして、それをチェックするために、何ができたのかというと、①願書に使用意思がある旨記載する、⓶使用意思の確認を使用意思宣誓書で行う、③出願には必ず登記簿を提出するか事業計画書を提出する、の何れかだと思いますますが、これをあまり意味のないこととするのは、商標法の本質に反しているのだと思います。

 

特に、大阪の元弁理士の大量商標出願を許したことは、現行商標法の欠陥を露呈しています。彼は、身をもって、現行法の欠点を指摘してくれているのかもしれません。

 

さて、日本の商標法はドイツの登録主義を見習っているようですが、ドイツでストック商標問題にどのように対処しているのか、確認することが必要なように思います。

現行のドイツ法は、特許庁のサイトに翻訳がありますが、ドイツ商標法4条には、商標の保護は、次のことから生じるとあります。①登録、⓶使用、③著名。3つの商標の保護があります。

ドイツ 商標法 2 | 経済産業省 特許庁

ドイツ商標法の第5章の「所有権の対象としての商標」も、①登録、⓶使用、③著名とありますので、日本の商標法は①だけを、特に、取り出して導入してしまった状態のようです。(当時のドイツ法に、⓶と③があまり考慮されていなかった可能性はあります)

また、26条では、使用が登録にに基づく権利行使と登録の維持に必要とありますので、ドイツは使用主義であると言えます。

登録主義・使用主義という少し位相の合わないものを比較対象にしたことから来る立論のミスがあります。

出願時・登録時に、使用や使用意図を要求するか、要求しないか程度の差しか、英米とドイツにはないことになります。

 

日本でも使用していないと、損害はなく、損害賠償は認められませんので、使用を差止の条件と改正するとドイツと同じになるのではないでしょうか。

使用や使用意思の確認をするか、権利行使を制限するかのどちらかです。

 

もう一つ、普通名称化の防止です。最近、EU商標法などに触発されて、日本の弁理士会でも議論があるようですが、当時も、導入しようとしていたようです。何らかの反対があって導入されなかったのだと思いますが、反対理由が知りたいなと思いました。

商標管理(日本生産性本部)(その9-2)

Ⅸ 商標管理に関する専門家の意見(その2)

続きですが、よく似たことを、各々のスピーカーが言っているところがありますので、特徴的なところだけ拾います。

 

9.抵触のおそれのある商標の調査、先登録主義国(メルク)

医薬品業界の業界登録の説明があり、この登録は、商標流通をしているとあります。(※業界内の商標の貸し借りに近いもの)

連邦登録を取ると、第三者の抑止効果があります。

南米等の登録主義国では、急いで出願せよと言っています。

 

10.商標権侵害の予防、救済(法律事務所)

連邦登録の効果として、3倍賠償があります。また、コモンローに比べて、挙証責任の転換があり、全米への公告効果があります。

アメリカは、商標侵害を不正競争と捉えるので(※特に不正に重点)、商品は類似にとらわれないとありますが、それでも限度があるとします。万年筆メーカーが蒸気ショベルまでは無理があるとします。

さらに、懲罰としての3倍賠償では原告の損害が償いきれないときは、裁判所は法定の損害賠償を命じることができるそうです。

 

11.外国貿易における商標管理(クルエット・ピーボディ)

ライセンシーや、代理店、販売員、法律家に任せるのではなく、本社に商標監視の中心部局を置くように勧めています。

 

12.権利者団体(ハセルチン・レーク)

化粧品業協会は、普通名称の商標として使用することに防止措置をとり、また、これらに対する異議申立を支援するとあります。この活動は、医薬品業協会、自動車製造者協会、機械輸出同業会がおこなっているとあります。

AIPPIは、国際団体で、各国に国内部会をもつ事業会社と弁理士を会員とするもので、パリ条約の改正が任務とあります。(※最近、パリ条約の改正がストップしているので、AIPPIは大きな仕事がないことになるのでしょうか。)

 

13.政府、裁判所の政策(法律事務所)

ライセンスや、営業(グッドウィル)と分離した自由譲渡の話をしています。

コモンローで、商標は営業とともに移転しないといけないという原則があり、緩和はされているが、廃止はできないとあります。商標は出所を示すシンボルだというところからの論理的帰結とあります。

 

著名商標保護として、ダイリューションが言及されていますが、面白いのは、事例で出てきている商標です。コダックロールスロイスダンヒルティファニー、キャデラック、コカ・コーラです。今と同じです。

 

14.スローガン、サービスマーク(法律事務所)

スローガンの起源は、ブリテン人スコットランド人が、激しく戦っていた時代に起源があるとします。

I Like Ike(アイゼンハワーのスローガン)などの政治スローガンの紹介があります。

商標と同じ意義があれば、登録になるとします。

 

社標(ハウス・マーク)は、GE、GM、DUPONT、PHILCのように、会社の全製品に及ぶものとします(※今日のコーポレートブランドと同じような理解です。ちなみに、シーグラムは社章のことをいうように、言っていました)。

 

社標に対する言葉は、ビジネスマーク(営業標)という言葉だとします。(※ビジネスマークという言葉は初めてみました。ここの営業標は直訳ですね。ビジネスマークの意味は、個別商品役務の商標という程度でしょうか)。

 

15.侵害訴訟(法律事務所)

模擬裁判ではないですが、事例を使って、二人のスピーカーが説明しています。仕立てが凝っています。

 

コメント

海外の団体が日本に来られることがありますが、2日間かけて、各社の法務部長などが順番に講演し、大変、手間のかかったもてなしです。

日本の代表的な会社の社長、特許庁の幹部、専門家が参加しているとはいえ、格別の待遇だと思います。

 

特に、アメリカ法を輸出しようとしている訳ではないですが、技術支援や商標ライセンスをしている時代背景があるのでしょうか。

 

著名商標の保護に関して、アメリカでは、不正競争の防止で行われ、一方、成文法(Civil Law)の国では、登録を不使用商品に取得するというところで行わるという指摘は面白いと思いました。

しかし、成文法国でも、不使用取消審判があるので、結局、不正競争の防止の要素を入れていかないと、妥当な解決になりません。

 

確かに、日本の昔流の商標管理では、左横書き、右横書きをとったり、一字違いを取得したり、関係ない商品まで商標登録をしたりするのが、商標に厳しい会社の商標管理とされた時代もありますが、今は、そんな会社はごく少数派です。

 

ただ、著名商標の保護は。使用主義的ですので、登録主義に接ぎ木するときは、さじ加減が必要となります。

商標管理(日本生産性本部)(その9-1)

Ⅸ 商標管理に関する専門家の意見(アメリカ商標協会における講演記録)前半部分

第9章は、15個の講演録になっています。テーマが多岐に亘っているので、2回分に分けて書きます。

 

1.企業における商標管理(シンガーの商標部長)

企業の商標担当者は、商標管理を行い、会社の商標を保護する。

具体的には、他人の商標権を侵害しないように指導すること、広告等での使用が過ちが無いかチェック・指導すること、世界各国の商標公報をチェックすること(異議と他社商標の把握)、更新管理、侵害対策、海外代理人や政府機関との連絡など。

広告や営業部門との関係では代替案の提示などはするが、最終決定は商標管理部門ではなく、経営責任を持つ部門が行うべきで、商標管理部門が会社の政策を決定すべきでないとします。(※少し、消極的ですね。)

特許部門と関係(シンガーは、幸い、特許部門から独立して商標部門があるとします)、予算、侵害、商標の財産的価値、最後に税の問題に言及しています。税の問題は、トレード・マーク・レポーター(TMR)の44号「商標の会計および課税面の一考察」、47号の「商標および商号の分野における課税問題」を見よとあります。

 

2.商標の選定(スコット製紙会社)

フォードが18,000の候補の中から案を出したのに、役員がEdselに決めたという話(大作業をしたが、役員の一言で、ヘンリー・フォードの後継者の名前になってしまった)、コンピュータを使った名称案の考案、マーケティングリサーチの重要性などがあります。

Flying Red HorseからMobilへの移行時も、マーケティングリサーチが活用されたようです。

 

3.商標の登録(法律事務所)

コモンローと州際取引条項をつかった、連邦商標法の話、主登録と補助登録の話、防衛商標を取るときでも短期的でも使用する必要があるという話などです。

 

4.商標の維持(フィルコ)

広告は事前チェックをしている。そのために、商標の基本原則を書いた書面を配布。普通名称的に使用されたり、小文字で書かれたり、広告に合わせた登録商標の変形使用の根絶。

使用許諾の場合、使用態様の厳守を要求している。一般には、ライセンシーは非常に注意深く、不明点は確認にくる。

 

通名称化の防止の事例としては、3MのScotchテープの事例。一般大衆や新聞が、単にその製品をスコッチテープという代わりに、略しない全部の名前で呼ぶように活発な努力をしている。(※スコッチⓇメンディングテープのような事例でしょうか。)

 

使用許諾については、OEMは問題ないとして、生産会社へのライセンスに注目するとし、ライセンシーの昔からある商標とのダブルブランド(結合)を防止されるとしています。

結合商標は、絶対に禁止とあり、要求されるが、認めないとします。

その場合、生産系統を分け、それぞれの商標で事業をするようにする。

これは、法律問題ではなく、基本的な商標上、政策上の問題とします。

 

5.更新など(ジョンソン・アンド・ジョンソン

商標使用記録は、会社の特別資料室に蓄積。自社、子会社、国内外のライセンシー、商社のカタログ、価格表など。

ライセンシーの使用に問題があれば、異議をする。1877年からの記録は、いつでもお見せできる。

 

6.商標の使用許諾(アメリカン・サイアミッド)

何度も出てくる、化学品のCyana織物仕上げの商標(成分ブランド)の紹介。特に試験の実施。処理業者の限定。

国内の場合は、その他で投資回収が出来ているので、ライセンス料をとらないが、海外では取る。海外は、通貨、統制、その他の理由で、直接取引ができないが、今や、通信は速いので、アメリカで有名になれば、世界で有名になる。相手方もアメリカで有名なものは市場進出がしやすいメリットがある。

 

7.商標の譲渡(アメリカン・ホーム・プロダクツ)

子会社から親会社に商標を譲渡した。本国登録との関係で問題が生じた。

 

8.経営管理部門と商標管理部門との関係(シーグラム

ネーミング時に良く相談する。これがあれば、商標担当者の仕事は他にあまりないとさえいえる。

識別力のない商標、良くない商標でも、積極的に使用すれば、有名になる。商標の問題は時間だけが解決できる

 

Seven Crownという商標で模倣品が相次いだ。その侵害対策では、前任者は、営業が怒りだしても何もせず、デッドコピーがでるまで待った。その後、立て続けに侵害対策をして成功した。

 

商号と社標(ハウスマーク)は、顕著性のある商標のように絶対的な禁止権は得られない。Seagramでさえ、釘やネジを作っている他人を差押えできない。

(※社標という言葉は、会社のマークと考えると、造語ではなく、顕著性がなかったのかもしれません。ちなみに、シーグラムは、ジョセフ・イー・シーグラム・アンド・ソンという社名だったようです。)

 

コメント

識別力、使用による顕著性の獲得、普通名称化の防止、適正使用管理、ライセンス時の適正使用、ダブルブランド、侵害対策と、どれも面白い話題です。

一番面白いのは、ジョンソン・アンド・ジョンソンの使用証拠の収集でしょうか。やっていることが徹底しています。

ここまで徹底して、やるなら、ライセンスをしても良いよ言っているようです。

 

以前、某関西の家電メーカーの意匠課長が、家電限定とは思いますが、自社のみならず、各社のカタログを全部集めておられ、資料としてストックされていると聞いたことがあるのですが、その後、あれはどうなったのかなと思います。

人が変わっても、資料が継続して集められてこそ意味が出ます。

 

商標の更新出願制度があったときは、まだ、商標部門と使用証拠の関係は、近かったのですが、更新出願が無くなり、更新申請になり、使用証拠との関係が離れてしまっています。

 

最近、適正使用管理がおざなりになっている理由は、ここに一つの原因があると思っています。

制度が楽になり、いままで出来ていなかった営業との関係構築、ライセンスの精緻化、模倣品対策に注力できれば、まだ、良いのですが、制度が楽になり、それが、人員削減につながるだけでは意味がありません。

制度を楽にするのは、良く考えないといけないと思いました。

商標管理(日本生産性本部)(その8)

Ⅶ 商標権利者団体とその活動

第7章では、当時の業界団体や、USTA等の業界団体が説明されています。

 

1.医薬品業協会

この団体には、Trade Mark Bureauがあり、商標の業界登録をしているとあります。協会に商標登録原簿があり、申請によって受付け、商標・商号・造語の商品の普通名称を登録できるようですが、学術名は登録できないとあります。

審査があり、既登録の商標と抵触するときは、通知し、撤回を求めるようです。

連邦登録と異なり、使用予定商標(Proposed Mark)が登録できますが、2年(※放棄=不使用取消の期間と同じ)しても使用開始しないと登録簿から抹消とあります。

また、出願速報のようなものを出しています。

 

2.化粧品業界(The Toilet Goods Association)

こちらは、自主登録制度までは持っていないのですが、出願速報を発行し、商標情報の整備をし、既存の商標と抵触するときに通知をするとあります。

面白いのは、業界内の全商標のリストを作り会員に提供しているのと、広告の事前審査を行っているということです。

後者は、日本の各公正取引協議会が近いと思います。

 

3.全国製造者協会

こちらにも特許委員会があり、商標をそこで扱っているようです。

日本の知的財産協会の商標委員会はこちらに該当すると思います。

 

4.ブランド・ネーム・ファウンデーション(著名商標権者協会)

アメリカ商標協会(USTA)が、法律家の集まりであるのに対して、このファウンデーションは、企業とマスコミ(新聞、雑誌)、広告代理店の団体です。

Trademarkではなく、Brandという言葉が出てきています。この本の中で、はじめて、Brandという言葉をみました。

消費者に「ブランドネームのある商品を買え」、流通に「ブランドネームのある商品を売る」ということを、宣伝し、教育しているようです。商標の3機能など同じことをいっています。

 

日本の広告主協会(現在は、日本アドバタイザーズ協会のようなものでしょうか。

この時代から、広告宣伝関係は、ブランドだったんですね。因みに、ブランドは、日本語にすると「印」が近いと思います。もう少し良い日本語が無いものでしょうか?

 

5.特許弁理士団体

この本で弁理士というときは、弁護士であり、特許の専門家(特許庁の試験をパスしたもの)を指すようです。

日本で対応するのは、弁理士会や、弁護士会です。

 

6.アメリカ商標協会(USTA)

60年前に設立80周年とあります。ということは、現在140年となります。

当時の事務局長は女性で、現在のINTAの会長も女性です。商標は女性の活躍しているフィールドであると再認識しました。

日本では、商標協会が対応するものだと思います。

 

ただし、当時USTAの正会員は、企業に限られます特許法律事務所、広告代理店、デザイン会社は、準会員にしかなれないとあります。

 

コメント

日本生産性本部のミッションですが、当時の通産官僚なども一緒に参加しているのは、業界団体の機構の把握も、目的だったと思います。

 

業界の自主登録

今は、どうか分かりませんが、日本にも意匠の業界の自主登録があったと思います。特許庁や図面作成の料金が高いから、業界で内々に登録していると理解していましたが、アメリカでは権利は使用によって発生しますから、業界の自主登録にも十分意味があると思いました。

Intent to useが出来たので、利用価値は下がっていますが、自主登録というのは、登録制度の本質をついています。ドイツのように国家の登録を設権行為と考えると方が異端です。

日本の不動産登記では、ベースがフランス法なので、登記に公信力がなく、公信力のあるドイツ法の明確性に憧れがあり、商標制度に影響していると見ていますが、使用主義の不正競争防止法との整合性がついていません。

なぜ、この点を議論しないのかは不思議です。

 

USTAの構成

現在の会長のTish Berardさんも、弁護士でローファーム経験がありますが、Hearts On Fireという宝石会社(今は違う会社)の企業の法務部長出身の方です。

基本的に企業の集まりであり、そのTOPは、企業の法務部長がつくという考えが、INTAの伝統としてあるのではないかと思われます。

 

ここは、重要です。USTA=INTAが力があるのは、これが理由だと思います。反対に日本商標協会は、ここを重視する必要があります。

昨年から商標の世界に戻ってきて、日本商標協会の部会や委員会に出ましたが、日本商標協会のTOPは弁理士ですし、部会や委員会も、企業出身者の部会と弁理士・弁護士の部会にパキット割れていますし、融合は出来ていません。

企業で商標に明るい適任者がいないのが課題なのでしょうが、商標協会のTOPを企業出身者にすることと、知財協会の商標委員会を全部引き取るぐらいの覚悟がないと、いつまで経っても、商標協会がINTAになれないような気がします。

私の世代には、企業の弁理士は極僅かなのですが、これからの世代には、比較的沢山、弁理士さんがいますので、彼らの中で法務部長クラスになる人が出てくると良いなと思います。

商標協会が出来たとき、知財協会内部では、商標協会には協力しないという議論があったのですが、そういう時代でもないと思いますし、アメリカは、今でも進んでいると思いました。

商標管理(日本生産性本部)(その6)

Ⅵ 貿易における商標管理

第6章は、海外での商標管理です。この章は、ネーミング、適正使用管理、ライセンスというよりは、通常の商標権の実務に近い内容です。

途中で「三菱」「Three diamonods」の事例が沢山でてきますので、執筆者は、三菱商事の総務部の方と思われます。

 

記述は、当時を前提に読まないといけませんが、面白いと思ったところとしては、次です。

1.商標の選定で、各国で好まれる言葉や、図形があるというくだりで、戦前の中国で「コールデン・バット」が人気があり、これは、中国では蝙蝠が縁起のよいものとされていることと関係あるということです。

 

2.世界の国の、商標権を認める方式と先使用主義と先登録主義があるという説明があるのですが、途中からは、使用主義と登録主義という言葉に変化しています。用語が揺れているなと思いました。

主に、英米法が先使用主義で、ドイツ、北欧等が先登録主義とありますが、社会主義国も先登録主義とあります。フランスは、先使用主義です。

 

3.テルケルマークについて、特に言及があります。商標には、250法域があり、30では本国登録証の提出が必要とあります。

 

4.商標の優先権を12ヶ月にするようアメリカ等が働きかけているとあります。

 

5.日本の会社の商号が、定款等で、Company LimitedやLtd.などとなっており、その名称で、外国で権利取得するが、イギリスでは、商業登録簿通りの表示を求めるので、Kabusiki Kaishaの記載が必要で、英国登録をベースにしないといけない国で、社名が異ならないように注意が必要とあります。

 

6.使用主義の英米仏では、氏姓については、厳しいとあります。

 

7.防護標章登録制度が、昭和34年法で導入されたのは、著名商標の保護と不使用取消審判の強化の2つの背景があるようです。

 

8.海外の更新は、レバノン、シリアでは、15年、30年、45年、60年から、選択できるとあります。

 

9.商標登録標記が、義務の国、アメリカのようにメリットがある国の紹介があり、しかし、登録がないのにつけるとNG。

国名を記載するとディスクレームできるとか、©表示のように国際的な条約ができることが望ましいとあります。

 

10.不使用取消は、オランダは、使用権者の使用ではNG

 

11.ライセンスでは、ベルギーでは、ライセンシーに権利が発生するので、放棄する旨契約で記載が必要とあります。

 

12.紛争解決手段としては、忍耐強い警告が必要とあります。

 

コメント

現時点、少し古い話になっているものも多いので、そこを考えながら読む必要があります。

 

さて、商標の考え方で、使用主義と登録主義に並んで、もう一つ、審査主義と無審査主義があります。

 

フランスは、先使用主義で、無審査主義です。先に使用したものが勝つのが原則。そして、登録では実体審査もしないし、公告や異議申立もない。

フランスの登録制度は、訴訟条件であり、実体は使用の前後でみることになります。

 

また、同じ使用主義でも、先使用の事実の事実を重視するアメリカと、使用意思でも良いとする英国の差があるとします。

アメリカ、英国は、審査主義です。

 

商標権の発生を登録に求める登録主義は、ドイツは発祥です。ドイツの考え方が世界の多くの国で採用されていることになります。ドイツは、登録主義で審査主義です。

 

通常、意思を重視するフランス法と、表示を重視するドイツ法と理解していますが、商標におけるフランスとドイツの違いなど、勉強すると面白そうです。

 

ドイツは、登録=公示というものに、重きをおいているようですが、そもそも、出願時に使用意思もないものをどう考えるのかに興味があります(その判断方法も)。

 

外国人は、EUTMで出願することが多いと思いますし、EUTMを受けて、ドイツ法も変化しているばずですが、ドイツ法の考えは残っているのではないかと思います。

商標管理(日本生産性本部)(その5)

Ⅴ 企業における商標管理

第5章は、事例のオンパレードです。

各社のマニュアル、ガイドライン、契約、タグ、組織構成まで、詳細に説明されています。

この本の、もっとも価値があるところでしょうか。

 

商標の選定で、ネーミングの一般論のようなことが述べられています。

面白かったのは、アメリカには「人のものまねをしない」という精神があるという説明です。基本的にはそうなんだと思います。

商標の選定のはじめは、研究所や広告部門からというのも理解できます。

商標委員会を組織して、そこで検討する会社も複数紹介されています。

 

ユニークなのは、医薬品などでは、業界の商標登録制度があるということです。先使用主義で調査が大変なので、業界で登録して、異議を待つという方式のようです。今でもあるのか不明ですが、当時は、ランナム法ができてまだ日が浅いので、このようなものがあったのかと思いました。

化学の業界団体では、出願速報を出しているとあります。

 

調査会社もできていますし、商標のロゴのデザイン会社の紹介もあります。

 

使用主義の国ですので、使用証拠が商標部門に報告があるようにしないといけないのと、そもそも、効果的に商標を使用することを促進するために、どの会社も商標のガイドラン、マニュアルを作成しています。

このあたりが適正使用管理の核だと思います。

 

各社のマニュアルで、商標を形容詞で使えという会社と、形容詞として使わないという会社があり、意味が理解できません。

通名称化との関係があるのだと思いますが、ここは、時間をかけて分析して見ないと分かりません。

日経新聞の本に紹介があったコカ・コーラの普通名称化防止の冊子の紹介がありました。

 

使用許諾にも言及があり、サンキストの事例、織物の防縮加工の事例、メラミン樹脂食器の事例があります。

サンキストは、コカ・コーラと同様のボトリング事業をしているようで、その契約条項や、品質基準書、ロゴなどの説明があります。ここまで、開示してい良いのかという内容です。

樹脂加工やメラニン樹脂の事例は、技術ブランディングのテフロンと同じようなものです。進んでるなぁというのが、感想です。

 

商標管理部門は、法務部にあるという会社と、特許部にあるという会社があります。特許部門があると、そこに一緒にするのが自然なのだと思います。

 

ダイリューションは、なかなか認めらないという記述があり、最後に、レモンの表面にSunkist商標を印刷する発明の紹介があり、侵害排除のために技術的な面も進めているとうことで締めくくられています。

 

コメント

ざっと内容を概観しましたが、本当は各社のガイドライン、マニュアル、契約書や品質基準、タグのデザインなどの中に、商標管理のエッセンスが詰まっているのだと思います。

ただ、その分析までは、この本では出来ていません。単に紹介しているだけです。

 

Trademark のガイドライン、マニュアルですが、いわゆるブランドロゴのガイドラインとは、また違います。約物の用法には近いのですが、商標面から見ているようです。

今でも、アメリカの会社は、このような商標のガイドラインを出しているのでしょうか?この点は、ちゃんと確認してみる必要があると思いました。

INTAの、商標の使用のパンフレットを見ていると過去の議論になってしまった感がしています。

ちなみに、日本で、Trademarkのガイドラインをみたことがあるのは、日本ビクターのVHSのガイドラインぐらいです。

 

これはこれで、一つの学問分野になる感じです。広告関係の理論と、普通名称化防止や商標の使用(同一性など)に関する法的議論が影響しあう学際的な分野でもあります。

 

通名称化ですが、1946のランナム法の制定と、本の出た1960年の間には、14年しかありません。ランナム法以前は、コモンローの保護だけを求めて、登録しなかった会社もあるとあります。普通名称化は、コモンローに頼るときに生じやすいのではないかと思いました。

またⓇの商標登録表示は、アメリカでは非常に励行されていますが、これは、(Ⓒの著作権表示の方式主義の流れでもあるように思っていましたが、)ランナム法が整備さて、商標登録が一般的になる過程で、皆が喜んで商標登録を取得していた時代の空気感のようなものが背景にあるような気がしました。

 

企業における商標管理というタイトルの章ですが、「良い商標の選定」、「適正使用管理」と「ライセンス」が、その内容です。

調査や出願、更新管理などは、ほとんど言及がありません。

これは、今の日本企業の実態とだいぶ違います。

現在のアメリカで、もし、同じような使節団を派遣して、どういうものになるのだろうと思いました。

 

当然、当時のアメリカでも、日常的には、調査や出願、更新はやっているはずです。こちらからの質問が、ライセンスや適正使用管理にフォーカスしていたので、このような答えが返ってきただけかもしれませんが、日経新聞の本も同じ構成ですので、そうとは言えません。

当時のアメリカの商標業界の関心事だったのだと思います。

商標管理(日本生産性本部)(その4)

アメリカにおける商標法と不正競争防止

第4章は、商標法と不正競争防止との関係です。この章は、少し難解でした。

 

元々は、コモンローのPassing Offがありました。Passing Offとは、「何らかの方法で、自己の商品をあたかも他人の商品であるかのごとく消費者につかませることを許さない」という原則をいうようです。このPassing Offが、不正競争と同義とされていたようです。

商標権侵害も、Passing Offで処理されていたようですが、

・Passing Offを伴わない商標権侵害

・虚偽又は誇大広告等

・他人の営業に対する悪意ある事実の誤述

などを規律するのに十分ではなかったようです。

 

また、不正な意図が重視される時期があったり、消費者の混同や、当事者の不利益が重視されたり、判例も流動的であったとあります。

 

さらに、コモンローは、州によって異なり、連邦裁判所も州のコモンローや不正競争法の調査・適用が必要で、連邦裁判所は困難に直面していたようです。

 

そのため、

1.正直かつ公正な取引の助長

2.消費者の保護

3.個人の財産の保護

を目的に、不正競争防止の理論が打ち立てられ、「フェア」というものが義務になったとあります。

「相互に一定の関係のある者は、自己の意思のいかんにかかわらず、その関係に特有な権利義務を有するということがアメリカ法の伝統の一つ(パウンド教授)」とされ、「関係理論」と言われているそうです。

公衆の保護は重要性は指摘されるが、一歩下がったものであり、個人の財産の保護が前に出ているとあります。しかし、その個人の財産の保護も、同業者の正当な競争のもと、財産権の侵害が発生しても許されるが、それは正直で公正でないといけないという考えとあります。

 

前述の州ごとに違う、コモンローや州法で内容が異なることで、不合理なことがあったようで、ランナム法によって、連邦法となったとあります。

ランナム法により、連邦裁判所が、裁判管轄権を有することになり、出所や営業上の虚偽表示、登録商標やその類似商標を使用した商品の輸入、商号の保護、などがされているとあります。

 

もう一つの、公正を確保するための独禁法(シャーマン法)ですが、初期は裁判所中心だったようですが、運用に不満があり、また、技術専門的なので議会では詳細立法が無理と判断し、連邦議会が、連邦取引委員会という独立行政委員会を設置することしたとあります。

連邦取引委員会は、「通商における競争の不正な方法および通商における不正な、欺瞞的な行為を」防止するもののようです。

 

特に、商標に関して、ランナム法14条(※今の条文は未確認)で、次の場合に、商標登録の取消が請求できるとあります。

1.商標が放棄されている場合

2.登録が詐欺または不正な行為によってされた場合

3.商標権が特許権が消滅した物品の普通名称となっている場合

4.商標が譲渡された結果、出所の混同を生じさせる風に使用されている場合

とあります。

 

最後に、執筆者は、アメリカでは商標権侵害にはならないが、不正競争として取り締まってもらえるという説明を頻繁にうけたとして、アメリカの不正競争が、当時の日本に比べて普及しており、参考になるとしています。

 

アメリカで、不正競争は、ランナム法、再販価格維持制度の保護を目的とする公正取引法、生産費以下の販売を禁止する公正販売法、通商における不正なまたは欺瞞的な行為を公共の利益の立場から防止する連邦取引委員会法、が不正競争防止法の体系としています。

 

コメント

公益より、私益より、フェアが一番というのは、アメリカっぽいなと思いました。

 

使用主義のアメリカでも、商標権侵害にはならないが、不正競争にはなるという事例がが多かったのですね。

日本でも、最近は、ほとんどの商標権侵害事件では、不正競争防止法が根拠に使われています。

商標権は、証拠の一つ程度の扱いのように見えますので、当時のアメリカに近づいているのではないかと思います。

 

不正競争防止法は、双方の実際の使用行為があり、その間の調整をすることになりますので、使用を前提とする使用主義的なものです。

商標法も使用主義、不正競争防止法も使用主義で、一貫性があります。

 

ところが、日本の場合は、商標法は登録主義で、不正競争防止法は使用主義で、二つの根拠が別々です。

そして、裁判所は不正競争を中心に観ますので、「マリカー」の事件のように、商標権があっても、商標権を無視して、合理的な解決を図ることになります。

登録主義をとるなら致し方ない面がありますが、不正競争防止法と商標法の整合は、もう少し考えた方が良さそうです。

 

心配するのは、商標権を取るのは、メリットのない行為であり、とにかく先に使用して有名にすれば勝ちとなることです。

商標権が無効、無視された判例を概観すると良いのでしょうが。。。

 

また、普通名称化した商標はFTCが取消し請求するんでさね。ここは、最近の議論に通じます。