Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標管理(日本生産性本部)(その3)

Ⅲ アメリカ商標法の沿革と現状

この第3章では、アメリカ商標法の沿革と当時の現状が書かれています。

1.アメリカ商標法の沿革

憲法に根拠がある特許や著作権とことなり、コモンローがベースで、州際取引条項を手掛かりに連邦登録制度を作ってきた過程が書かれています。1905年法、1920年法を経て、ランナム法に至ったとあります(※この本では、ランハム法となっています。)。

 

2.アメリカ商標法の現状

商標権自体は、コモンローによって、使用により認められ、商標登録は登録によるメリットを受けるという構成です。

※当時は、使用意思に基づく出願(Intent to use)はありませんので、使用ベースの出願だけです。

このあたりは、多くの本にも記載されているので、割愛するとして、ランナム法が、商標の譲渡と使用許諾を認めた点について書かれています。

 

商標の譲渡は、営業全体の移転が必要だったのを、ランナム法が、「営業の得意(Goodwill of the Business)」なら移転できるとしたとあり、営業の得意の一部を取り出しの移転も可能となったとあいます。

 

使用許諾については、1905年法が、子会社の使用により発生した商標権(コモンロー上のもの)は子会社のものであり、親会社が子会社の商標登録を取得することもできなかったようです。そこで、関係会社(Related Company)の使用という概念を導入したとあります。

 

ここでいう関係会社とは、

商標が使用される商品またはサービスの性質と品質に関し、合法的に登録権者または登録出願人を支配し(Contorol)またはそれに支配されるものをいう

とされています。

※資本的な意味での関連会社ではなく、Controlで良いとした点が、進んでいる点でしょうか。

 

その他、米国の特許局(※当時は、特許商標庁でないようです)の事務管理が進んでいるという説明があります。

文字商標は、分類別ではなく、アルファベット順に一つに整理されているとあり、この方法は、今のアメリカの調査と同じです。

また、アルファベット順といっても、接頭語、接尾語に配慮して、例えば、Americanという言葉には、All American、First Americanが続き、最後にAmerican Ace、American Nationalが続くとあります。

 

また、審査官と同数の事務官がいて、情報を整理をしており、事務官は雑務ではなく、プロと位置付けられているとあります。

 

3.州における商標法

州にも州登録があり、ニューヨーク州ジョージア州イリノイ州、マサチュセッツ州のように、ダイリューションの理論を取り入れている州法もあると紹介しています。

このダイリューションの理論は、ラダス博士が強く主張していたもので、博士の「モデル州商標法」に範をとっているとしています。

 

コメント

Controlがあれば良いという使用許諾のところが重要なのですが、これ以上の言及は、ここではありません。おいおい出てくるのではないかと思います。

 

州際取引条項を手がかりにというのは、アメリカ人の思考経路がわかる点です。以前ご紹介した「商標の管理」は、そのオンパレードです。

 

まだコンピュータの導入以前で、包袋へのタイプや、カードによる整理が紹介されています。カードは、昔の図書館のカードなようになっており、抜き取ることはできず、カードのあるところに行って調べたとあります。

 

アルファベットの国ですので、称呼おこしが必要なわけでもなく、アルファベット順で足りますし、それを分類に分けていない点は、参考になります。

 

日本でも、国際分類に移行したあと、特許庁が民間にデータ開放したときに、分類単位でデータベース会社が課金をするか、商標単位で課金するか、議論になったことがありましたが、分類単位に慣れ過ぎていたために、それで良いとなってしまいました。しかし、今から考えると課金は分類を無視した商標単位が良いと思います。

 

ファッション業界など、多分類が当たり前の業界もあるのですが、当時の大手企業が商標分類に沿ったような大企業が多かったので、大きな声にならなかったのだ思います。

 

それに合わせて、特許事務所の調査費用も、一分類一件いくらという、固定的な料金体系が維持されました。しかし、実際にかかった時間で、チャージするという方が、しっくりきます。

 

企業では、事業に必要なものであれば、分類を超えて調査しようとなるはずですが、企業の知財部自体が社内特許事務所化しているのと、特許事務所では依頼を受けた分類に注力するのが仕事という風土があり、プラスαをいうとお金が高くなるので、特許事務所も企業も気が引けてしまう点があります。

ブランドを作るという面では、特許事務所や調査の課金の体系は、根本的に、見直す方が良いように思います。

商標管理(日本生産性本部)(その2)

Ⅱ 商標と商標制度

第二章は、商標と商標制度です。

中世においては、生産者と消費者が直接商品が売買したので、商標は、生産標であり、公共の利益のために使用する義務があり、警察標とか、責任標と呼ばれていたとあります。

 

商標は、近代的な商品生産社会になり、生産者と消費者との間の結びつきが切り離され、生産者は商品を提供し、消費者は多くの商品の中から自己の好むものを自由に選択することから生じたとあります。

 

そして、商標の機能としては、出所表示、品質保証、広告機能があるとします。

 

各国の商標制度は、使用主義と登録主義に分かれ、使用主義では、最初に使用した人が独占権を取得し、登録主義では権利は登録によってはじめて発生するとあります。

登録主義国は、日本、ドイツ、オーストリア、北欧諸国とあります。

 

ただ、使用主義といっても登録主義の良いところは、取り入れており、使用主義のアメリカでも登録は商標権の確認に留まらず、訴訟条件であり、対抗力があるとします。

使用主義の欠点は、先使用者があることを知らないで大々的に商標使用を開始し、後で判明して、やめなければならない点とします。

アメリカ人も、将来の使用に備えて、予め商標を登録できれば便利と感じているとあります(※これがIntent to useになったのでしょう)。

 

イギリスは、原則として使用主義であるが、現在の使用でなく、使用意思のある商標でも良いとします。使用意思は、「誠実の意思」が必要とします。また、7年以上登録で、確定的効力があるとします(※7このあたり、現行法はだいぶのではないかと思います)。

 

フランスも、最初に使用した者が商標権を取得するということで、使用主義です。しかし、先使用商標がない場合は、使用されていない商標にも登録を認めるとあります。

 

使用を必要としないのは、ドイツです。使用の意思の証明も要求されません。しかし、ドイツでもストック商標が問題になっているとあり、不使用取消が必要とされています。

 

この本がいうには、昭和34年法で、不使用取消審判により、使用が必要となり、使用主義的な要素を取り入れたとあります。

 

少し、意味が取りにくい記載が次です。

 

特別顕著性を有しないような商標とか、他人の登録商標と紛らわしいような商標は、その構成上自他商品の識別力をもちえないのであるから、いずれの国の商標法でも、このような商標は登録を認めていない。

※ここの部分、はじめて読んだときは、引っかかったのですが、次のように解釈できないでしょうか。

・先天的登録性のようなものを、特別顕著性distinctivenessと表現し、

・一方、第三者の先行商標との抵触をみて、

・双方セットで、自他商品の識別力とみるという

考え方と読みました

現在のいわゆる識別力と、他人との抵触性を峻別するというタイプの考え方ではなく、他人との抵触性も含めて、自他商品の識別力とみる考え方は、旧英国法の根底に流れているのではないかと思っています。それを書いているかもしれません。商標は、distinguishが目的です。ちなみにブランドでは、差別化differentiateが大切です。

 

商標の使用許諾は、この本の当時、公衆が損害を受けないように何らかの対策をとりながら、認めるのが世界の趨勢とあります。

 

権利侵害については、刑事罰が面白く、イギリス、アメリカは、刑事罰がないとします。ただ、アメリカの場合は、裁判所の侵害行為の差止命令を出したの、従わないものは、法廷侮辱罪になるとあります。

 

コメント

比較法的な分析の部分ですね。商標の法制も、CTM、EUTMが生まれて、各国法で出願しなくなっているので、最近はイギリス法やドイツ法、フランス法の勉強はあまりしませんが、現在は、どう変化しているのでしょうか。

 

●使用主義の説明は分かりやすいのですが、登録主義は行政庁の設定登録に意味があるとすべきではなく、願書というのものの中に使用意思が入っているのだと解釈すべきと思います。(知財の世界では、委任状をしつこく要求しますが、あれも、意思の確認という面がたぶんにあります。)

 

ドイツが、面倒なので、出願時の使用意思の証明(使用意思宣誓)を省いただけで、根底に使用意思がないと登録主義の重要な根拠の説明が不足していると思います。

この意味で、出願時の使用意思宣誓は、現時点でもやる意味があるものと考えています。(面倒ですけれども、面倒でないと商標の仕事は誰からも評価されません)

 

●旧英国法系の諸国に出願すると、いわゆる識別力のチェックが厳しく、出願前3年程度の使用証拠を要求されます。

そして、これを出すということは、使用による特別顕著性の立証ができているだけではなく、その間、特に問題なく併存していることが立証できるのですから、他人との抵触性でも問題ないことが明らかになり、いわゆる識別力と、他人との抵触性が、一緒に判断ができる、非常に優れた方法ではないかと思います。

審査官は楽ができます。とりあえず、いわゆる識別性なしの拒絶を出せば、良いのです。それだけで、社会の認識と歩調を合わせた判断ができます。

 

こちらも、出願人は、大量の使用証拠を準備するなど、大変ですが、大変だからこそ、評価される仕事にもなります。

 

●もともとのフランス法は、使用主義に分類されるのですね。

 

●特許は、私有財産の側面が強いが、商標は、公益的側面が強いので、商標は非親告罪であると習った者としては、違和感があります。

米国は特許でも刑事罰がないようですし、また、三倍賠償などになるのだと思います。

現在は、模倣品対策面からでしょうか、アメリカでも著名商標の場合、刑事罰があったと思います。

商標管理(日本生産性本部)(その1)

米国視察団の報告書

萼(はなぶさ)優美先生翻訳の日本経済新聞社の「商標の管理(TRADEMARK MANAGEMENT)」と同じようなタイトルの本ですが、別の本です。

「商標管理」とズバリのタイトルです。

昭和35年4月発行で、視察団自体は、昭和33年9月から10月中旬にかけて視察をしています。

団長は、武田薬品工業㈱の武田長兵衛社長です。

他に、業界団体の幹部、特許庁の審査第一部長、大手企業(伊勢半、住友化学、東洋レーヨン、三菱商事)の社長、特許や総務の部課長さんなどが参加しています。

参加業界団体に、商標擁護協会とあり、今は聞かない名前です。

 

使節団の派遣には、アメリカ商標協会(The United Usates Trademark Association, USTA)の協力があったようです。

 

訪問先は、USPTO、日本の公正取引委員会にあたるFTC、日本のJAROにあたる機関、化学・医薬の工業会、USTA、法律事務所の他、メーカーなどを回っています。メーカーとしては、スタンダード石油の研究開発部門(商標業務をしている)、サンキスト、マックスファクター、印刷会社、食肉会社、デザイン会社、雑誌社、化学会社、また、AFL(労働組合、商標を多数持っているようです)などです。

 

報告書は10章の構成で、途中からは、実際の使節団の報告書ですので手分けして書いたのではないかと思いますが、冒頭の総論部分は、どなたか分かりませんが、当時の一流の方が、書いたに違い無いと思います。特許庁の方が書いたのではないかと推測しました。

 

章立ては、

Ⅰ 勧告

Ⅱ 商標と商標制度

アメリカ商標法の沿革と現状

アメリカにおける商標法と不正競争防止

Ⅴ 企業における商標管理

Ⅵ 貿易における商標管理

Ⅶ 商標権利者団体とその活動

Ⅷ 消費者保護のための官民施設

Ⅸ 商標管理に関する専門家の意見(アメリカ商標協会における講演記録)

Ⅹ 日本における商標管理の実情

資料Ⅰ 商標についての、パンフレット、ガイドライン

資料Ⅱ 商標使用許諾契約書の例

資料Ⅲ 商標に関する論文

資料Ⅳ 参考文献

とあります。

 

「Ⅰ 勧告」から、見てみます。

アメリカでは、公正な競争秩序の維持、不公正取引排除の精神が、倫理的に確立されているとして、不正競争防止の重要性からスタートしています。

 

登録主義、使用主義の違いはあるが、日本でも不使用取消を強化するなどしている点を説明しています。

 

米国特許庁の業務では、機械化が進んでいたり、審査資料の整理が進んでいることに驚いています。

 

商標の類否判断では、米国特許商標副長官のリーズ女史の言葉を引用し、単に商標が混同を生じるほど類似しているのが問題ではなく、実際に消費者が製品に付された商標を見た時に、共通の出所だと考えるかどうかが問題であるとしています。

 

商標管理面については、各社とも商標の本質からくる正しい使用方法の研究と、その成果を社内外に周知徹底することの重要性と、商標担当者が、弁理士との連絡役や、商標登録事務の技術者視されていることの問題があり、営業、広告宣伝との有機的連絡による商標管理の重要性、特許担当者に比べても低い立場の改善を訴えています

 

その他、

商標権利者団体の充実が必要なことと、

消費者団体との関係、

公正取引の監視(FTC)、

商号の保護(アメリカでは、法令の適用にあたり、商標と商号を区別していない。不正競争防止法の活用が必要)、

商標制度の国際的統一化の研究と協力(ラダス博士の「モデル商標法」「商標、商号の保護および不正競争防止に関する法の基準条項」、Ⓡの積極運用、日本の輸出品デザイン法の他国への輸出、不正な商標登録があった場合の政府や業界団体の他国への交渉)、

などが記載されています。

 

コメント

商標担当者の位置づけの低さは、現在でも論点になっており、60年前とさほど変わっていません。

 

商標のライセンスと、適正使用管理が、この時期に学んだことなのだと思いますが、ライセンスを商標担当者が行わなかったこと(契約書作成実務は行っても、ライセンス先の承認や、監査まで行わなかったこと)、適正使用管理を広告宣伝部に任せたことが、60年たっても、商標担当者の地位が向上しなかった理由だと思います。

 

この二つは、やろうとすると、相当、気合を入れてやらないとやれないものです。

 

萼先生の「商標の管理」で学んだのは、アメリカの当時の弁護士は、

●普通名称の防止、必要な使用証拠の収集、ライセンスのQuality Contorolといったものを足掛かりに、適正使用管理や、ライセンスの重要性を導きだしている点です。

 

実際に、企業のブランドマネジメント部門で適正使用管理を15年ほど経験して思ったのは、適正使用管理は、デザインや広告的な側面もありますが、本質は、論理の世界であるということです。

事例などを分析し、判断し、体系化する作業は、法律と同じであり、海外の各社でも、商標出身者が、ブランドマネジメントをやっていたりします(コダックシーメンスなどは聞いたことがあります)。

 

また、アメリカの商標担当者は、弁護士ですので、ライセンス契約の履行を求めたり、相手方に乗り込んで交渉するのも、彼らの仕事の一環であったことは、容易に想像できます。

 

現代的に見ると、商標の持つ情報としての価値をコントロールするのが、商標担当者の仕事なのかもしれません。

そうすると、ブラント価値評価やマーケティングリサーチ系の話に行きます。評価については、経産省の報告書やインターブランドの方法はありますが、コントロールとなると、そもそもの企業の意思が問題になります。

 

商標担当者が、商標登録事務の技術者という指摘は実に的を得ており、60年間、あまり状況が変わっていないだけに、難問です。

マリカーの判決

東京地裁の判決(不競法事件)

マリカーの事件についての、東京地裁の判決が、裁判所のWebサイトに掲載されていると聞き、さっと読みました。

判決日は、平成30年9月27日。平成29年(ワ)6293 不正競争行為差止等請求事件となっています。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/072/088072_hanrei.pdf

 

●以前、新聞で判決の記事を見た時は、著作権侵害のような書きっぷりだったのですが、東京地裁の判断は、不競法事件であり、著作権侵害とはしていません。

 

また、被告の会社が、すでに社名を株式会社マリカーから、株式会社MARIモビリティ開発に変更しているので、商号の抹消の請求は対象がなくなり、この点は、判断されていません。

 

●被告は、「マリカー」「MariCar」「MARICAR」「maricar」という周知著名な標章を、営業で使用することが禁止され、カートや施設や広告で、これらの言葉を抹消する必要があります。

問題のマリオなどのキャラクターのコスチュームついては、これも標章として、営業上の施設や活動で使用してはならないと判示しています。

その他、動画データの廃棄があり、また、ドメインネームの使用禁止があるのですが、ドメインネームは、外国語サイトは使用可能とあります。

 

著作権侵害は、原告の主張が十分でないとして、また、不正競争部分で、目的が達成されているとして、判断していません。

 

いろいろ、判らないことがあるので、事案を良く知っている方から、内容を聞きたいところです。

 

任天堂は、不競法部分にいては、

①社名変更(これは被告が自主的にやりました)、

②「マリカー」という言葉の使用の差止、

③マリオ等のキャラクターの営業活動での使用差止(コスチュームの貸与行為も含むとしています)を勝ち取っています。

 

そして、裁判所は、不競法で、任天堂の目的が達成されていることもあり、著作権侵害の判断には立ち入っていません。

 

当然ですが、個人が勝手に別のところから、マリオ等のコスチュームを購入したり、レンタルして来て、それを着用してカートに乗ることは、言及がないので、認めらます。

 

●被告が「マリカー」の商標権を有しており、そのため「マリカー」の使用は、商標権の行使であり、不正競争にはあたらないという主張については、権利濫用として、一蹴しています。ここは、裁判所らしい判断です。

 

●面白いというか、変わっていいるなと思ったのは、「マリカー」の周知性を、日本語を理解する人には商品表示等として周知であり、日本語を解さない人=外国人には周知でないとし、その上で、Webサイトやチラシについて、日本語では差止を認めて、英語では差止を認めないとしている点です。

 

アニメファン、漫画ファンは、日本語もできる日本通が多く、国内と海外を区別できないのではないかと思いますが、ゲームファンは、アニメファン、漫画ファンとは違うということなのでしょうか?

日本に住んでいて、日本の文化も、英語も双方理解する人(当然、日本人、外国人)が、数百万人~以上いると考えると、言語で割りきるのは、今の日本で考えると、疑問です。

 

20年前のWebの商標権侵害が議論され始めた時期では、英語版サイトは日本国民を対象にしていないという議論がありましたが、当時と今では、日本における英語の使用者数や、理解状況が違うような気がします。

任天堂の証拠もなく、被告も主に外国人相手とは言え、外国人には、「マリカー」が知られていないので、外国人にとっては、周知性がないという判断は、線引きとして、無理があるように思います。

 

●外国語サイト向けのドメインネームや、Webサイトやチラシが認めれることになり、外国人の顧客が多い被告としては、営業的にはあまり、影響がない判決のような気がします。

 

●ポイントは、コスチュームのレンタルが禁止されている点だと思います。

従来の被告の行為全体の中では、不競法違反になりえますが、もし、仮に、カートと関係なかった場合、例えば、服装のレンタルショップが、コスチュームのレンタルをすること自体は、不競法的には、誰がやっても問題ない行為と考らると思います。(任天堂が、これを止めたいなら、著作権の判断に立ち入る必要がでてきますが、コスプレ文化の否定につながるので、難しい主張です。)

 

●今後の流れとしては、社名も変わり、営業表示としてキャラクターを使用しないという状態になりますので、その前提で、自らコスチュームの貸与をせず、コスチューム御者の斡旋・業者の紹介だけをした場合、これが不正競争になるかどうかは微妙な感じもします。特に、スパイダーマンバットマン、ディズニーキャラクターの貸与もすると、単なるコスプレのコスチュームの貸与となり、マリオカートとの関係性が薄まります。

 

●なお、被告のMARIモビリティ開発は、原告の請求が一部認められたことを不服として、知財高裁に控訴したとあります。

http://marimobility.com/20180930.pdf

 

 

 外国人に人気ということで、裁判所が外国人向けに逃げ道を作ってくれたので、被告は控訴せず、他の任天堂以外のキャラクターのコスチューム貸与の路線を取る方が、得だったのではないかという気がしますが。。。

被告のことを考えると、株式会社MARIモビリティという微妙な名前(「MARI」のことです)もやめた方が、得策ではあります。十分、先行者利益を得られる立場にいるように思います。株式会社TOKYOモビリティなどでも十分です。

商標の管理(Trademark management)(その7-2)

外国における諸問題②

昨日の続きです。

適正な商標の使用は、外国ではライセンスが必須になります。本社の支店は別として、子会社でも別法人ですので、ライセンスが必要になります。

 

ライセンス

ライセンスとで、ライセンシーの使用がライセンサー(権利者)の使用ありとなり、不使用取消に対抗できる。英連邦の商標法では、このメリットのためには、ランセンス登録が必要である。

 

オランダ

当時のオランダでは、ライセンシーの使用は、ライセンサーの使用とならず、よって、不使用取消を免れるため、自分でオランダに輸出が必要とあります。(※これは、今ははどうなんでしょう。でも、面白い法律です。)

 

ライセンスは、当時でも、だいたい認められるようになってきているが、各国特徴がある。

ラテンアメリカ

商標権を財産権とみる英米法は、より公益的なものとみる)ので、使用許諾、自由譲渡をみとめる傾向。一般にライセンス登録が望ましい。

欧州

当時は、2,3カ国、ライセンスを違法と見ていた(※当時の日本と同じです)が、だいたいは認めていたようです。

① ドイツ、スウェーデンノルウェー、オランダは、使用許諾を異議申立てをする権利の放棄と考え、

② フランス、ベルギー、ルクセンブルグ、スペインは、ラテン系の考え方(財産権と考える)、

③ スイス、イタリアは、ライセンサーの監督があれば、他人が使用しても一般大衆を欺瞞したことにならないとの考え、

とあります

※現在は、知的財産権という言葉があるように、財産権的契機を強くみると思います。ただし、商標の本質の一つは公益保護ですので、この議論は永遠に続くはずです。

 

契約とマニュアル・ガイドライン、監督する権利が必要とあり、ライセンスは登録することが望ましいとあります。

 

ベルギー

当時のベルギーでは、ライセンシーによる商標の使用では、ライセンシーにも商標所有者として独立した権利が発生するとあります。

※商標のライセンス契約で、「ライセンシーの商標使用により生じた一切の権利・権益はライセンサーのものとする」という条項が必要になった訳がわかりました。

現在では、不競法マターになってしまっていますが、日本でも、使用権者が権利者の手を借りず、模倣品を止めることは可能です。これを敷衍すると、二つの権利者が発生してしまい、使用権者は権利者がいなくても良い状態になりかねません。ライセンスの設定登録が必要なのは、このあたりを明確にしておくためです。

 

英連邦

英連邦諸国では、1938年商標法がライセンスを規定し、ライセンスには、管理監督が必要という条項と、ライセンスの設定登録の必要性があります(経営支配権のある会社は契約までは無くても良い)。

 

商標の内部的管理

基本的には、米国内と同様とあります。 

 

商標の警保

ラインセンシーや子会社に商標の監督をさせるのは、良くない。商標については、集中主義をとることが重要としています。

また、侵害や商標の誤用があったときは、現地が勝手に交渉等せずに、本社に報告をあげて、その指示に従うことの重要性を説いています。

当時の模倣品事件や、アジア人(中国人、日本人)による巧妙な模倣品に言及したのち、

米国では、異議申立(取消訴訟よりも安価)のために、全世界から、75ヵ国の商標公報を取り寄せている会社があると紹介しています。

※以前いた会社でも、日、米、中、台湾、韓国などは、商標公報と取り寄せていましたが、徐々にWatching Serviceを提供するDB会社に委託する形態となりました。時間がないためですが、例えば米国の商標公報を見ることで、アメリカ人の感覚が理解できる面はあったと思います。

 

商号

パリ条約の商号の保護に言及し、米国で認められた商号は、他国でそのまま使用できるということを説明しています。そして、それは、架空の(仮の)商号を含むとあります(※登記の有無のことだと思います)。

 

コメント 

1938年の英国商標法は、網野先生の本にも紹介されており、英国ではライセンスは、役所の許認可事項とあります(その後、英国は、1994年に、CTMのために、EU法に合致した新法になっていますので、ライセンスのルールはどうなっているのか調べないといけませんが)。

昭和34年法のとき、自由譲渡、フリーな使用許諾にしてしまいましたが、私の持っている本での網野先生はこの英国流を取るべきという主張です。

 

当時は、まだ、技術導入・ブランド導入の時期ですので、Quality Controlは、ライセンサーの欧米企業に有利になると考えたのか、単純に登録主義の大陸法・ラテン系的に、財産的側面を重視したのか、良く分かりません。

 

また、当時の特許庁の商標課にその能力があったかといと疑問です。これをしようとすると、本省や、日銀レベルのパワーが必要なように思います。

 

今の時代、役所の事前審査というのもどうかと思いますが、フリーな使用許諾にしたために、日本にライセンスが根付かなかった可能性があります。フリーの使用許諾は楽は楽なのですが、一番大切なQuality Controlが抜けてしまいます。

 

また、対策とされた、53条が、出所混同では判例がありますが、品質誤認では判例がないことが示すように、社会全体としてホッタラカシの状態です。

 

それで消費者が困っていないなら、一見、問題ないように見ますが、国家として、強いブランドを作るための商標法という視点に立つと、もっと、ライセンスには、権利者のQuality Controlを要求した方が良いような気がします。

商標の管理(Trademark management)(その7-1)

外国における諸問題①

第7章は、この本の最後の章です。執筆者は、ラングナー パーレー カード エン ド ラグナー商会の弁護士とあります。商社の弁護士でしょうか。米国人が、外国で商標権を取得する際の留意事項です。

面白い話が多いので、2回に分けます。

 

正しい商標の選択

英語では問題なくても、海外では隠語、卑猥猥褻、好ましくない意味になることがあるので、注意が必要とあります。(「ミカド」印の鉛筆は、真珠湾攻撃のあと、「ミラド(MIRADO)」に変更されたとあります。)

 

また、英法系の商標法のもとでは、IBMRCAなどのアブレビエーションや、4711などの数字の商標は、使用による顕著性が必要とあります。

 

商標調査は、コンペチターのいる5,6カ国でよく、欧州と南アメリカから同数を調査し、マドリッド協定(本協定)のために、スイスをいれるとあります。

これで、だいたい、状況が判明するということです。

 

登録方針

米国民に、海外では使用によらず、登録により権利が発生する国が多いと警告しています。

アルゼンチンでは、米国のあらゆるラジオの商標を勝手に登録した事件があったようです。

 

商標登録取得方針として、①市場として有望で、資産価値があるので、登録するという考えと、②第三者への防衛のために登録を取得するという考えがあるとします。

また、小さな国は、取得費用が高いこと、ラテンアメリカでは、薬剤などで商標の強制的な取得が義務付けられているとします。(※今もでしょうか?)

 

当時の米国では、使用意思に基づく出願がないので、使用してから登録ですが、大々的に使用をすると、冒認出願があり、合法的に登録を取られることがあるので、商標登録を取得するように言っています。

「商標登録とういうことは、ある年間保険料を支払った保険証書」と考えて良いとあります(※面白い見方です)。

 

ある国は、米国登録があることを条件とします(※今でも、小さな国で本国ベースがないと登録がとれない国がありますが、余程の場合です)。

 

図形商標と文字商標の組合せ(※商標のFAQです。)については、図形商標と文字商標は別々に権利取得することを勧めています。もし、費用がなければ、図形商標と文字商標を組み合わせることもOKとします。

  1. 商標は、できるだけロゴではなく、平凡な形式で出願すること
  2. カラーは、白黒で出願すること

を勧めています

※ロゴを出願せず、普通書体で出願するのは、アメリカや英法系の考え方だと思います。これについては、反対に、商標は実際に使っているロゴで出願すべきという考えもあります。権利範囲は、普通書体の方が広いのでしょうが、審査をパスしやすいのは、実際に使っているロゴです。ロゴを取得して、余裕があれば、普通書体をバックアップにする考え方です。私はそう教育されました。

※カラーは、基本は白黒で良いのですが、カラーに特徴のある商標は、カラーでというのが、現在の主流です。カラーについて、何回か中国でも質問しましたが、最近は、中国でもそのように言われます。

 

適正な商標の使用

商標登録表示(標記)は、登録がある国でするように求めています。また、チリ、グァテマラ、メキシコでは、商標登録表示が訴訟条件とあります。

 

特に、当時、海外でのライセンス生産が普及してきており、ライセンシーにライセンスするのですが、各々の商標の組合せが危険であると警告しています。

※いわゆる、ダブルブランドの問題です。最近のマーケティング関係の本で、Co-Brandingは、足らないところを補うものとして、積極に解釈されますが、この海外ライセンスビジネスでのダブルブランドは、確かに、問題です。こちらのブランドの価値を、ライセンシーが乗っ取ることが可能ですので。

 

コメント

ダブルブランドは、日本企業で広く禁止されています。商標の法律書にも、判例にも、特に何も記載がなく、マーケティング系の本(例えば、ケラー先生)では、反対に推奨しているのですが、この本では、ダブルブランドを問題としています。

企業のダブルブランド禁止の根拠のような感じがします。

 

例えば、ナビスコ山崎製パンと合弁で、山崎ナビスコ社を設立し、オレオなどのナビスコ製品をライセンス生産ていましたが、そのときに、社名は両親会社の合弁と分かるような名称にしますが、商標(ブランド)は、NABISCOだけです。

商標を、YAMAZAKI/NABISCOとはしません。ブランドが滲むというか、NABISCOのブランド価値が変化します。

また、一旦、NABISOCOで、浸透させたものは、合弁を切って、独資参入やライセンシーの切り変えをしても大丈夫ですが、YAMAZAKI/NABISCOブランドで認知されると、縁切りができません。

本来は、社名も、単独で、出資だけしてもらうのが、一番良いのです(コカ・コーラの例を見ると明らかです)が、運営責任との関係で、そうもいかないなら、ダブルにするのは、社名までです。

この点、インドのMARUTI/SUZUKIは、異端の事例です。

 

この話と、ケラーのCo-Branding(足らざるところを補う)とは、ちょっと次元が違うところもありますが、他人のブランドの価値を活用するという点では同じです。

他人に活用されて、価値が上がるのか、下がるのかを見定めて、相手方を選択して、表現を分かりやすくして、是々非々で判断することになると思います。

商標の管理(Trademark management)(その6)

商号

第6章は、商号です。商号に、独立した章を割いているのは、商標も商号もランナム法の対象だからだと思いますし、アメリカの商標の実務家は、弁護士であり、弁理士ではないという面もあると思います。

企業では、商号は、商標と同様に重要ですが、そのあたりうかがえる内容です。

執筆者は、クェーカーオーツ社の社内弁護士です。

 

商標と商号の区別

デルモンテは商標、ジョンソン エンド ジョンソンは商号であり且つ商標でもある。しかし、大部分の商号は、商標としては登録できない語を包含しているとあります。

 

商号の選択

商号は最も貴重な財産となるうるもので、法律的に保護され、他人の名称と混同をされる恐れがない名称を欲するならは、商号は優秀な商標と同様に、簡単で、読みやすく、呼びやすく、記憶しやすく、展示に適したものが有利である。

 

地理的あるいは説明的な名称や、それらの組合せの例は多い。

チーズの会社にとって、酪農の盛んな地方の名称を入れるのは、有利なこともある。

アメリカン」「インターナショナル」は力の大きさを暗示する。

注意すべきは、工場をもっていないのに「工場」を、醸造業を営んでいないのに「醸造」を商号中にいれてはならない。

 

事業の多角化で、「ポンプ エンド マシーナリー」「鋳造」が狭いとして、この部分を省略するために、広告を出した件がある。

 

「フォード自動車会社」「H・J・ハインツ会社」のように、個人名を採用する点については、誰でも自己の姓名を公正に使う限りにおいて、自己の営業に使用する権利があるが、極めてありふれている場合は、同業者にすでに使われているかもしれない。

コダックは造語商標の代表であるが、実は電話帳に載っている姓でもある(Kodak、Kodac)。珍しいものであり、これを避けなければならない理由はない。

 

フィラデルフィア ストレージ バッテリー カンパニー(フィラデルフィア蓄電池会社)が、フィルコ コーポレーションとなったが、商標フィルコが著名になったので、商標を商号に取り入れた例である。

スタンダート石油会社が、モービルを社名に入れようとしている(※入ったのでしょうか?)。

 

商号は、省略されることがある。Indiana Billing(数字記入器) Machine Companyが省略され、IBMとなると、International Business Machines Corporationの商標を侵害することになる。

 

通常、商標調査では、商号も調査対象になる(※コモンローがあるので、調査するのですが、これは企業のブランドマネジメントにとっても非常に良いことだと思います。)

 

商号の侵害

純然たる商号の侵害は、不正競争防止法上の問題であるが、商号が商標と同時に使用されていたり、商号に商標を含む場合は、分離は困難である。

 

電気製品の小売店が「ノースサイド GE アプライアンス ストア」、ピュリナの飼料を販売する会社が「スミス ピュリナ飼料店」とするときがある。

自動車では特約組織があり、自動車の販売店が「サウスショア ビュイック会社」「ヘンナー フォード販売会社」とする場合がある。

このような使用法は、商標あるいは商号のライセンスの形態をとり、十分な保障を立てた契約書によってのみ、可能となる。

 

一つ以上の商号の使用

(※日本ではあまりなかった、社内分社のような考えです)

一つ以上の商号を使用している会社がある。

①事業を買収し、当面継続したい場合、

②事業のタイプが、あまりにかけ離れている場合で、2つの事業が直接関係していると一般大衆に悟られたくない場合、

③その商号では販売が困難な場合(飼料の会社が食料品を売る)などがある。

 

ゼネラル モータス会社のデルコ ラジオ部は、営業部門に一つの名称となっている。顕著性のある名称なので、法人化もしやすい。

 

2級品の販売のため、異なった商号を使用する会社もある。特に海外の独占販売のために異なった商標を使用する会社を創設して、代理店組織を持つ方法である。(※これは、結構、進んだ方法だと思います。)

 

架空もしくは仮の名称

ジョン スミスが、食料品店を「セントラル ストリート グロサリー」の名称で営業するようなケースです。州法で規制があるとあります。

当時のUSTAの会員(企業だと思います)は、あまり、仮の名称は使っていないが、外国貿易のときに限って仮の名称を使うという回答があったとします。(※日本法人も、海外用の社名を持っていますが、それは登記されたものでありません。)

 

コメント

商号は、本当に重要だと思います。

商品・サービスに使う名称が商標で、組織に使う名称が商号と捉ええると良いと思います。登記されている名称にとらわれると、実態が見えにくくなります。

 

日本でも、商標と商号が、同じ顕著性のある名称を共通化する傾向にあります。

商法が会社法になって、類似商号の審査もなくなり、不正競争防止法中心になっていますし、この本にあるように、ハウスマークのような重要商標の調査では、商号もチェックしますが、(類似)商号に見識のある弁理士が全くいないのは、奇妙です。

 

アメリカでは、社内分社があり、日本で子会社を作るようなときも、社内分社で対応したりしますし、カタログなども、社内分社名で出したりします。

日本でも、飲食店業界で、一社で、店舗の名称を変えて、何十種類もの事業をやっている会社がありますが、あの名称は、商標でもあり、商号だとも考えらえます(すかいらーくの、ガスト、ジョナサン、夢庵など)。

 

商号のライセンスについては、WTOのTRIPSでも記載がありませんが、契約に一切がまかされている未開拓の分野です。

 

商号のライセンスや、商号の一部に商標を使用することを認めることは、非常に危険な行為です。

商号は、基本的には、その会社のものとなりますので、資本で押さえられる子会社は別として、ハウスマークは、認めるべきではありません。認めるなら、Quality Controlにと、どまらず指導・監査もしっかりやらないとダメですし、契約の終了、違約金のあたりまで、しっかりやりきる覚悟が必要です。

 

商号と商標の問題は、豊崎先生の時代の論点に見えますが、実は、ビジネス上の活用や、使用実態を含めて考えると、今日的な論点でもあります。