Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

知財立国は成ったか

日経の現状は60点という記事www.nikkei.com

2018年1月15日の日経に、知財立国は成ったか(上)、現状60点、電機救えず、秘匿と生産委託不徹底という記事がありました。

渋谷編集委員の記事で、荒井寿光氏やキャノンの長沢健一常務のコメントもあり、読まれた方も多いと思います。

詳細は、記事を見ていただくとして、まとめると、次のようになります。

 

まず、お二人が、知財高裁の創出や、約40本の知財立法など、知財立国のインフラは整った。この意味で、60点の合格最低点と評価されています。

しかし、企業、特に電機が件数競争に陥り、工場の生産ノウハウなどを特許出願してしまい、そのノウハウを韓国、中国の会社に取り込まれ、競争力を無くした。また、欧米のIT企業のオープン&クローズ戦略に負けてしまった。

巻き返しのためには、本業に貢献しない特許部門は不要と認識し、特許部門は事業を支える部門、事業の支援組織になるべき。また、従来のような特許の取得と活用だけではなく、ソフトウェアや著作権、営業秘密、ビッグデータなどの権利を確保する契約までを含めた力量が必要という内容でした。

 

ちなみに、荒井さんと長沢さんの対談記事は、こちらです。ヴィヴィッドで面白い対談です。

www.nikkei.com

 

コメント

2005年2月から2017年2月までは、知財の外にいました。

現在は、特許事務所の外国商標担当という職ではありますが、久ぶりに知財の世界に戻ってきて、その地位が低下していることは実感しています。

 

日本の特許業界は落ち込んでいますが、中国は大盛況ですし、韓国も悪くないようです。欧米は以前とそう変わらない感じです。どうも日本だけが一人負けしています。日本の一人負けの原因の一つが、電機にあるのは確かだと思います。

 

他の原因は、弁理士を増やし過ぎたことに目が行きがちですが、弁理士の訴訟代理権付与に失敗したことと、弁理士が明細書に固執していることの二つだと思います。

 

IT企業のオープン&クローズ戦略が例示されていますが、要は事業の理解力と契約力です。大半は企業の仕事ではあるのですが、弁理士制度は現実には大きく企業の知財組織風土に影響します。

 

英国の特許弁理士、商標弁理士は、訴訟代理が可能で、日本もこれを目指したはずですが、どこかでボタンの掛け違いがあり、失敗しました。

 

もう一つの方法は、弁理士を廃止して、米国のように弁護士に一元化する方法もありますが、今更これは無理があります。

 

何れにしても、弁理士が契約や交渉出来ないことには話が進みません。弁護士の話を聞くと、内容証明弁理士は送れないということがあります。弁理士法改正前にはグレーでしたが、案外自由でした。

 

特許部門や特許事務所に弁護士を入れて、著作権の契約などをやってもらうよりは、技術動向や事業を理解している弁理士がそれをすべきです。反対に弁理士が、明細書を書く仕事だけに凝り固まっていては、ダメなように思います。

 

この記事を読んで思ったのですが、弁理士は、やはり、訴訟、判定、異議、審判、鑑定、仲裁、調停、交渉の代理を重視すべきと思います。特に、交渉が重要なように思います。

 

明細書が好きだという人もいるので、一概に、否定はしないのですが、何のために、法律の試験を受けたのかを再度、考えるべきでしょう。社会的に必要とされているのは、明細書作成だけではないと思います。

 

また、付記代理人の制度を再構築すべき時期と思います。(この名称もどうかと思います)

 

もう一つ、特許事務所で働いて感じたことは、まだ、「特許」という言葉をまだ事務所名称に使っていることです。今の時代、企業に特許部はありません。皆、知的財産(権)部です。

 

たぶん、特許庁の名称が変わらないので、こんなことになっているのですが、これは問題です。特許庁を、消費者庁のように文部科学省法務省との共同の役所にして、(できれば地方に移転して)、知的財産権庁とすべきです。そして、特許事務所は、知財事務所となるべきです。未だに、PatentやTrademarkと言っていること自体が、既に古い感じがします。

 

知財高裁は、目黒に移転して、今度はビジネスコートという記事もありましたが、知的財産権庁と一緒のビルに入った方が良いのではないでしょうか。

 

荒井さんは知財高裁ができたことをほめていますが、問題はその判断内容です。日本の国力や日本企業の強化に役立ったのか、その見極めを、経済学者や経営学者にしてもらう必要があります。

 

特許庁は、コツコツと良くやっているように思いますが、全体をコーディネートすることが期待されており、その意味では、十分にコーディネートできていないのではないでしょうか。

 

電機が世界で一人負けしたことが、特許村が困窮している直接の原因ではあるのですが、電機だけではなく、各所に原因が点在しているように思います。