Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

技術ブランディング(6)

技術ブランドにおける商標機能論及び商標法の保護

パテントの2018年2月号にある弁理士の乾 智彦さんの論文です。

https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/2963

この論文は、過去の研究成果や、最近の判例に言及しており、情報量の多い、インフォーマティブな論文だと思います。上條由紀子さんの論文も、この論文で知りました。

 

要約:

技術ブランドは、品質保証機能を中心としたものと考える。品質保証機能があれば、出所表示機能は、裏表の関係として、存在する。

特に、技術ブランドは、品質保証機能中、既存の製品によって得られた信用を新たな製品にも拡張して及ぼすという「広義の品質保証機能」に関連する。

 

技術ブランドは、長年、実務的には、商標登録されているが、商標権侵害と不使用取消において、「商標の使用」と認められない場合が多かった。

特に要素技術の技術ブランドを完成品に使用したケースで、完成品における商標の使用とは認められず、当該要素の品質や機能の特徴や有利性を説明する記載とされていた。

 

しかし、最近、従来とは異なる判例が出てきている。

(不使用取消)

1.GENESIS事件(画像処理技術の名称、完成品であるファクシミリに使用)

2.グラム事件(素材の名称、被服に使用)

(侵害訴訟)

3.ユニキューブ事件(被告が「デコスドライ工法」を使用せずにユニキューブという建物を提示して建築請負工事をした)

 

特に、2.のグラム事件は、重要なようです。

3.は、ユニキューブでは、デコスドライ工法が必須という契約があるにも拘わらず、顧客に他の工法を推奨したという、契約違反があり、そこが、ユニキューブ商標の品質保証機能が害されるとしたようです。

 

その他、論文では、欧州商標制度が、出所表示機能のみならず、品質保証機能、コミュニケーション機能、投資機能、広告機能をも含むものというされ、商標権侵害においては、混同のおそれには広義の混同のおそれを含み、ダイリューション、フリーライドをを禁じている点を紹介し、技術ブランドの保護拡張について、自説を展開されています。

 

コメント

商標の本質的なところまで遡って検討されており、情報量も多く、勉強になる論文です。

 

GENESISは、キャノンの画像処理技術であり、たぶん商標権は、第9類の複写機ファクシミリのあたりを権利取得しており、権利取得上は問題のないものだったと思います。

商標の表現が、技術を示すか、商品を示すかというプリミティブな点を議論しているようです。

 

グラムの方は、軽量ダウンジャケットの素材のようです。東レは、グラムを、素材(繊維)だけではなく、被服の商標ともしたいと思っていたようです。

権利者本人が、素材のみではなく、完成品の商標としたいなら、権利を取る必要がありますし、商標の使用方法も、繊維の商標という記述ではなく、被服の商標という記述をしていく必要があります。

この点、昔のデュポンの「テフロン」のように、商品レンジの広さよりも、国・地域の広がりを重視するなら、あくまで素材として、タグで主張するのも方法です。

 

完成品の模倣品対策や冒認出願対策といったものに目を向けると、幅広い権利も必要だと思いますし、「素材」事業の拡大のためだけなら、狭い権利でも良く、それよりもグローバルに権利取得する方が優先されます。

事業戦略と商標調査結果を組み合わせて、事業的な判断が必要になりそうな所です。

 

 

最後のユニキューブは、示唆的な判例です。BtoB事業では、BtoCと異なり、事業者同士の契約があります。そこでの契約の結び方で、商標権侵害として、追及できる可能性が出てきます。この判例は、面白いそうなので、時間をとって読んでみようと思います。