Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標の管理(Trademark management)(その7-1)

外国における諸問題①

第7章は、この本の最後の章です。執筆者は、ラングナー パーレー カード エン ド ラグナー商会の弁護士とあります。商社の弁護士でしょうか。米国人が、外国で商標権を取得する際の留意事項です。

面白い話が多いので、2回に分けます。

 

正しい商標の選択

英語では問題なくても、海外では隠語、卑猥猥褻、好ましくない意味になることがあるので、注意が必要とあります。(「ミカド」印の鉛筆は、真珠湾攻撃のあと、「ミラド(MIRADO)」に変更されたとあります。)

 

また、英法系の商標法のもとでは、IBMRCAなどのアブレビエーションや、4711などの数字の商標は、使用による顕著性が必要とあります。

 

商標調査は、コンペチターのいる5,6カ国でよく、欧州と南アメリカから同数を調査し、マドリッド協定(本協定)のために、スイスをいれるとあります。

これで、だいたい、状況が判明するということです。

 

登録方針

米国民に、海外では使用によらず、登録により権利が発生する国が多いと警告しています。

アルゼンチンでは、米国のあらゆるラジオの商標を勝手に登録した事件があったようです。

 

商標登録取得方針として、①市場として有望で、資産価値があるので、登録するという考えと、②第三者への防衛のために登録を取得するという考えがあるとします。

また、小さな国は、取得費用が高いこと、ラテンアメリカでは、薬剤などで商標の強制的な取得が義務付けられているとします。(※今もでしょうか?)

 

当時の米国では、使用意思に基づく出願がないので、使用してから登録ですが、大々的に使用をすると、冒認出願があり、合法的に登録を取られることがあるので、商標登録を取得するように言っています。

「商標登録とういうことは、ある年間保険料を支払った保険証書」と考えて良いとあります(※面白い見方です)。

 

ある国は、米国登録があることを条件とします(※今でも、小さな国で本国ベースがないと登録がとれない国がありますが、余程の場合です)。

 

図形商標と文字商標の組合せ(※商標のFAQです。)については、図形商標と文字商標は別々に権利取得することを勧めています。もし、費用がなければ、図形商標と文字商標を組み合わせることもOKとします。

  1. 商標は、できるだけロゴではなく、平凡な形式で出願すること
  2. カラーは、白黒で出願すること

を勧めています

※ロゴを出願せず、普通書体で出願するのは、アメリカや英法系の考え方だと思います。これについては、反対に、商標は実際に使っているロゴで出願すべきという考えもあります。権利範囲は、普通書体の方が広いのでしょうが、審査をパスしやすいのは、実際に使っているロゴです。ロゴを取得して、余裕があれば、普通書体をバックアップにする考え方です。私はそう教育されました。

※カラーは、基本は白黒で良いのですが、カラーに特徴のある商標は、カラーでというのが、現在の主流です。カラーについて、何回か中国でも質問しましたが、最近は、中国でもそのように言われます。

 

適正な商標の使用

商標登録表示(標記)は、登録がある国でするように求めています。また、チリ、グァテマラ、メキシコでは、商標登録表示が訴訟条件とあります。

 

特に、当時、海外でのライセンス生産が普及してきており、ライセンシーにライセンスするのですが、各々の商標の組合せが危険であると警告しています。

※いわゆる、ダブルブランドの問題です。最近のマーケティング関係の本で、Co-Brandingは、足らないところを補うものとして、積極に解釈されますが、この海外ライセンスビジネスでのダブルブランドは、確かに、問題です。こちらのブランドの価値を、ライセンシーが乗っ取ることが可能ですので。

 

コメント

ダブルブランドは、日本企業で広く禁止されています。商標の法律書にも、判例にも、特に何も記載がなく、マーケティング系の本(例えば、ケラー先生)では、反対に推奨しているのですが、この本では、ダブルブランドを問題としています。

企業のダブルブランド禁止の根拠のような感じがします。

 

例えば、ナビスコ山崎製パンと合弁で、山崎ナビスコ社を設立し、オレオなどのナビスコ製品をライセンス生産ていましたが、そのときに、社名は両親会社の合弁と分かるような名称にしますが、商標(ブランド)は、NABISCOだけです。

商標を、YAMAZAKI/NABISCOとはしません。ブランドが滲むというか、NABISCOのブランド価値が変化します。

また、一旦、NABISOCOで、浸透させたものは、合弁を切って、独資参入やライセンシーの切り変えをしても大丈夫ですが、YAMAZAKI/NABISCOブランドで認知されると、縁切りができません。

本来は、社名も、単独で、出資だけしてもらうのが、一番良いのです(コカ・コーラの例を見ると明らかです)が、運営責任との関係で、そうもいかないなら、ダブルにするのは、社名までです。

この点、インドのMARUTI/SUZUKIは、異端の事例です。

 

この話と、ケラーのCo-Branding(足らざるところを補う)とは、ちょっと次元が違うところもありますが、他人のブランドの価値を活用するという点では同じです。

他人に活用されて、価値が上がるのか、下がるのかを見定めて、相手方を選択して、表現を分かりやすくして、是々非々で判断することになると思います。