Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

今回の特許法等の改正

商標への影響

2019年3月1日付の経済産業省のリリースで、特許法等の改正が、閣議決定がされたとあります

www.meti.go.jp

通常国会に提出されるということです。

意匠法はどうなるのか、興味はあるところですが、商標法のところで思った点を書きます。

 

商標法に直接関係する特許法の改正は、中立な技術専門家が現地調査を行う制度(査証)の創設ではなく、損害賠償額算定方法の見直しの方です

損害賠償額算定方法については、実用新案法、意匠法及び商標法において同旨の改正を実施しますとあります。

 侵害者が販売した数量のうち、特許権者の生産能力等を超えるとして賠償が否定されていた部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、損害賠償を請求できることとします。

損害額の推定に関しては、古くから実施料相当額というものがあり、これではよくわからないというので、販売金額から割り出す方法が導入されました。

しかし、侵害者の方が実施規模が大きく、権利者が実施規模が小さい場合には、実損填補に限定するというものでした。

その販売規模から割り出す場合でも、実施料相当額は確保できるとするのがこの改正と理解しました。

 

経産省の概要資料の図が分かりやすいようです。

http://www.meti.go.jp/press/2018/03/20190301004/20190301004-1.pdf

 

不勉強で申し訳ありませんが、商標法38条、1項と、3項は、両方とも主張は出来たので、実際はあまり変わらないのかと思います。

 

損害額の推定が、現行規定になったとき、少し制約的で、アンチパテント的だなと思いました。よって、特許は、この改正案これで良いと思うのですが、気持ち悪いのは商標です。

 

今回の法改正とは、直接は関係ないのですが、不使用商標による権利行使が増えないか心配です。

 

商標の場合、日本では権利侵害の裁判での、不使用商標の取り扱いが明確ではありません。一方、同じ登録主義を取る、ドイツや中国では、不使用商標は権利行使できないことが明確にされています。

https://www.jpo.go.jp/resources/report/takoku/nicchu_houkoku/h28.html

 

ドイツでは、商標法25条で、不使用商標は権利行使できないとされています。中国では、商標法64で、不使用商標は損害賠償請求ができないとあります。

日本では、小僧寿し最高裁判決があり(最判平成9(1997)・3・11 民集51 巻3 号1055 頁)、損害不発生の抗弁が認めらる可能性がありますが、条文上、明確に不使用では損害賠償請求できないというものはありません。

 

商標の場合、使用していないと保護価値がないと考えるのが、世界では一般的ですが、日本は行政庁が商標登録を付与したので権利があるという、不使用は不使用取消に行くべきという構成です。

 

実際問題、本当に不使用の商標の場合、そんな権利で普通は権利行使しないことが多いのは事実です。不使用で価値がないものに、大枚を叩いて裁判まですることは通常ありません。

 

また、現行法でも、従来からの実施料相当額の条文はあります(商標法38条3項)。しかし、商標法の38条1項と3項が、重複適用なのかどうかは不明でした。それが、重複適用になります。

今回、38条1項の損害額の推定では、実損填補が明確だったので、不使用の抗弁と親和性が高かったのですが、それが重複適用されるとなると、またぞろ、不使用でも、権利行使できるという考えがメインになりそうな感じです。

(※ 当該商品には不使用でも、他のメインの商品には使用しており、信用が及ぶというケースはあります。例えば、コカ・コーラのロゴをT-シャツにライセンスする場合を想定します。実際、使っているのは、飲料だけですが、非常に高い信用≒ブランド価値があります。これをベースに、通常支払われるべきラインセンス料で、損害額の推定をするのは、妥当な感じです。その場合は、ランニングロイヤルティで、比較的高額でも納得できます。これは実質的には、商標の使用ありと考えて良いと思います。法律上は、使用ありとなりませんが。)

 

全く不使用でも、実施料相当額がもらえると思う権利者が増えそうです。不使用商標をベースとした裁判は、実際は、ほとんど起こらないので、なかなか表には出てこない論点だと思いますが、不使用商標の萎縮効果があり、商標選択の自由を狭め、企業活動を制約するものではあります。

不使用取消審判で処理というもの分かりますが、取消に遡及効がないのと、不使用取消が既存権利者有利の判断がされているというのを見ると、不使用がある場合、どうしたら良いのかと判断に迷うことになりそうです。