Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その33)

商標権の主体ー権利者適格

小野昌延先生、三山俊司先生の新・商標法概説(青林書院)を、続けて読んでいます。

本書は、現在の商標法解釈の通説的見解が多いと思いますが、読む項目毎に新しい発見があります。

 

本日は、第6章の「権利の主体」の第1節「商標権者」の、権利主体の要件(権利能力)、権利者適格、団体商標、地域団体商標のあたりを読みました。

 

特に、権利者適格です。

「自己の業務にかかる商品又は役務について商標を使用する者は、その商標について商標登録を受けることができる。」(商標法3条1項本文)

 

これは、

  • 真正に使用する予定の商標についても商標登録を受けられる。すなわち、業務開始前に使用予定の商標登録を受けることは正当である
  • しかし、その限度を超えて商標を貯蔵しておくことは違法である
  • いわゆる商標ブローカーないし他人に許諾するだけの目的の登録は違法である
  • 使用許諾を業務とする者も、被許諾者は商品又は役務に使用するが、自己の業務は無形物(商標)提供という一種のサービス業務であっても、現行法では権利者適格はない

 

コメント

この部分ですが、「違法」とあります。

違法の効果ですが、1)違法だから審査で登録しない、2)違法に権利取得した商標権を基礎に権利行使しても権利侵害とはならない、3)違法に取得した権利であり権利自体が無効、というようなものでしょうか。

このように「違法」と認定されると、相当な不利益があります。

 

今も、出願を続けているようですが、ベストライセンスやその経営者の商標権は、これに該当するのではないかと思います(ベストライセンス名義で2件だけありました。権利はほとんど無いようです)。

商標ブローカーは、社会的にも問題になり、その行為は正当なものと認められないものとされていますが、使用許諾との関係まで、突っ込んで記載があるのは、本書の特色ではないでしょうか。

 

本書によると、使用許諾だけでは、「自己の業務にかかる商品又は役務に使用する者」とはならず、ダメということになります。

この点、昭和34年法では団体標章制度を廃止して、ウールマークなどを、使用許諾(ライセンス)制度を使って通常商標とするとあったので、使用許諾だけでは違法とし難いかったのですが、平成8年法改正で、団体商標制度を設けたことを積極的に評価して、小野先生は、使用許諾するだけでは、「自己の業務にかかる商品又は役務に使用する者」にならないと言い切っています。

 

これが認められるなら、ベストライセンスの登録商標は、全て無効になるばすですので、仮に誰かが、保有権利の無効審判を請求して、当該理論で無効を勝ち取ると、それ以降はベストライセンスの権利や商標出願は怖くなくなります。

ただ、難点は、無効審判ですので、利害関係がないと請求できない点でしょうか。

 

本当は、ドイツのように、損害賠償請求に使用要件を入れるとか、差止請求時に使用要件があるとか、このような対策が、登録主義を守るなら、本筋ですが、そうしないときは、この考え方に頼ることにありそうです。

 

課題としては、次の2点ではないでしょうか。

一つは、ウールマークなど、昭和34年法時代に通常商標となっていたものは、団体商標に変更できたそうですが、1年間の限定があったので、すべてが動いていないのではないかと思います。この救済をどうするかということです。

 

もう一つは、規格マークなどです。昔は、JVCなり、ソニーなりが規格の盟主となって、商標登録を取得していましたが、今は、規格団体を設立して、そこから使用許諾する構成になっています。

このときは、「使用許諾」ではなく、「品質管理」「品質検査」「品質保証」といったあたりを役務にして、この役務は実際に行っているとして、違法な権利取得ではないと解釈しているのだろうと思います。