Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

サントリーの「ほろよい」

「#グレープも#あの味だ」とは

サントリーの「ほろよい」の「グレープ」のTVCMを見ました。ちょっと考えさせる表現でした。

 

CMは下記のサントリーのサイトから見ることができます。

ほろよい サントリー

出演者は、佐藤二朗さん演じる「ほろよい部」部長と黒木華さん演じる「ほろよい部」部員です。

「ぶどう、ではなく、グレープだと思って飲んで。」「グレープ。。。あの味や」となっています。「大人になっても好きなあの味」と締めくくっています。

 

コメント

あの味とは?とネットでも話題になっているようです。中にはハイチューやグミの味という人もいますが、当然のことながらコカ・コーラ社のファンタ・グレープという意見が多いようです。

 

企業の商標や法務にいたとして、このCMについてOKかNGかコメントを求められるとすると、どうコメントするかなと考えてしまいました。

 

どうも以前は「グレープ」ではなく「ぶどう」だったようです。

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ただ、現在のラインアップには「白ぶどう」はありますが、紫色のぶどうはありません。 「グレープ」になったようです。

 

「ぶどう」でも「グレープ」でも、同じ内容を日本語と英語(カタカナ)で言っているだけですが、このCMのコンテクストの中でいうと、おそらく多くの人が「ファンタ・グレープ」を思い出しそうです。

 

「ファンタ」という言葉を使っていないですし、「グレープ」という言葉の使用は自由ですが「あの味」という言葉で想起してしまいます。なんとなくフリーライドっぽいイメージはあります。

 

商品的には、ジュースとお酒ですので、直接の購買上の競合関係もなく(商標的にいうと商品非類似)、また、「ファンタ」という言葉を使っている訳でもなく、そもそも記述的な表現である「グレープ」を使っているので、商標法的には問題はないように思われます。

 

独禁法、景表法の視点ですが、なんとなくファンタグレープは暗喩はされていますが、比較広告になっている訳でもありません。

 

次に不競法ですが、「グレープ」という記述的な言葉ですので、ダイリューション(希釈化)はありません。

ファンタの子供が飲む飲料のイメージが、大人が飲む飲料のイメージで、汚染される(ポリューション)が考えられなくはないですが(特に「ほろよい」は3%とアルコール度数が低くソフトドリンクとの境界が一番微妙なアルコール飲料です)、「グレープ」という言葉自体があまりに直接的に記述するだけの言葉なので、ポリューションの立論も苦しいように思います。

さらに、味やにおいは、不競法の商品等表示ではなく、商品形態模倣、デッドコピーになりませんので、一般条項がない日本の不競法では問題外となります。

 

最後に、民法ですが、ファンタ・グレープのファン層がいて、自宅でファンタ・グレープをベースにしてカクテルを作って楽しんでいた。それとそっくりな味、あの味を、お酒の会社が売り出した。そのため、ファンタ・グレープの売上が低下したのであれば、不法行為でクレームできそうですが、ファンタ・グレープの売上は低下してない可能性が高いですし、この証明は難しそうです。

あるとすれば不当利得ですが、これも立証が難しそうな感じです。

 

商標では何の問題もないですし、「あの味」は「ほろよい」のシリーズ全体を貫く考え方ですので、「ぶどう」を「グレープ」にした今回のサントリーのCMはクレームしにくいように思います。

 

ほろよいには、他にも、次の商品があります。

  • はちみつレモン(サントリーの「はちみつレモン」の問題。昔、普通名称かどうで議論のあった件です。)
  • ハピクルサワー(シルエットからしサントリービックル」ですが、お酒なので「ビックル」と云わずに「ハピクル」と言っていると理解しました。)

 

まあ、コカ・コーラ社がクレームしないと踏んでのCMだろうと思います。色々と考えさせられますが、微妙な線を突いた、上手い宣伝ということになるんだろうと思います。

 

お酒ではなくソフトドリンクで、「あの味」としたら法的な議論にそうですが、それではその商品が売れないでしょうから、現実には問題になりそうにありません。

 

コカ・コーラ社の「檸檬堂」のヒットに対する対抗策になっているようにも思いますが、なかなか議論の尽きない話題です。