Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

GUCCI 対 GUESSの10年係争

全世界で様々な判決がある中での和解

2018年4月18日のFashion Lawで、GUCCIとGUESSの約10年にわたる係争が終結して和解に至ったという記事がありました。www.thefashionlaw.com

  • グッチとゲスが全世界で、約10年続いた全知財裁判等の和解
  • 和解の詳細は不明
  • 始まりは、2009年のグッチの米国NYでの裁判。特に、ゲスのアクセサリーのGの模様(モノグラム)が、グッチのG商標の模様を侵害するという主張
  • NY連邦地裁は、4件のうち3件で侵害を認め差止。221万ドルの請求中、4.58万ドルの損害賠償金を認めた(注:2012年判決。ダイリューション理論のようです)
  • グッチは、イタリア、オーストラリア、中国、フランス、EU Courtでも訴訟開始
  • 2016年12月、EUの一般裁判所は、EUの審判廷の結論を支持し、ゲスのG模様ロゴはグッチのロゴを侵害しないと判断
  • 2013年5月には、ミラノ地裁がグッチに対して、ゲスのQuattro G-ダイヤモンドパターンはグッチのG模様パターンと関連しないと判決
  • グッチのダイヤモンドパターンGロゴやFloraパターンの欧州登録を無効に
  • 一方、ミラノ高裁は、ゲスに、民法上の不公正な競争行為があったと認定
  • ミラノ高裁は、ゲスは、意図的に識別力のある競争相手の商標と完全に重複することを避け、しかし、グローバル分析の結果からは、ゲスの目的はグッチの特徴的なモチーフを真似ていることが明らかであり、個別に見れば合法でも、何回も繰り返しているいるなら、ビジネスの専門家として公正ではないと判断
  • ミラノ高裁は、地裁が多くの商標登録を無効にした点は支持。ドット付きのGやその繰り返しのものは、識別力を欠く。また、Floralパターンは、出所を特定できない。
  • 2015年、パリの裁判所は、グッチの侵害の訴えを認めなった。大審裁判所は、ゲスの商標権侵害や模倣品や不正競争を否定。反対に、グッチのGのEUTMを無効に。グッチはもはやこれらの商標の専用権者ではなくなった
  • 一方、南京中級人民法院が、面白い判決。一般的な消費者の混同ではなく、主観的な類似で判断。グッチ有利の判決

コメント

青字がグッチ有利の判決(部分)で、赤字がゲス有利の判決です

渉外事件とはいえ、一つの案件で、これだけ多くの裁判所に提訴するのも珍しいですし、また、これだけ意見が割れるのも珍しいと思います。

これだけ判断が分かれるのであれば、当事者の納得できる線で和解するしかないという感じです。

 

米国は、ダイリューションで、著名商標の権利者を有利に扱ったということだと思います。一方、欧州は、一般的には、商標の類似のような点で似ていないと判断しているようです。

中国は、主観的な類似といっていますが、主観的な意図という意味でしょうか。そうであれば、ミラノ高裁のいう公正(fair)というものに非常に近いように思います。

Fashoin Lawの筆者もそうなんだと思いますが、個人的には、ミラノ高裁が、納得性のある判断をしているように思いました。

 

ゲスは有名ブランドですので事情が違うのだと思いますが、ここ最近、ファストファッションが全盛となり、有名ブランドのファッションショーなどを見たファストファッションメーカーが素早く商品を作って、有名ブランドと同時期に販売するということが起こっており、死活問題になっているようです。

グッチは、フォーエバー21に対して、数件、訴訟を提起しているようです。

 

この点、伝統的に、著作権は、一品生産的なものを対象にしており、大量生産品は意匠で対応すべきとなっています。

一方、意匠権を取得するのは、自動車や電気製品や機械ものが多く、ファッション関係はあまり見ません。これは、ファッションの流行に審査が追いつかず、権利になるのが遅い点と、もう一つ、図面や写真の準備が大変で、またコストがかかりすぎる点があると思います。

また、従来は、流行の先端を作る企業と後追い企業に時間差がありましたが、情報技術や生産技術が高度になり、ファッションの模倣は容易になっています。

 

下記にあるように、ファストファッションから、先行ブランド企業に還元するような何らかの仕組みがないと解決しそうにありません。著作権に近い保護が求められているとあります。www.nikkei.com

 

以下は、個人の思い付きです。

国の行う登録制度を待つまでもなく、対象物の特定や創作日の確認程度なら、タイムスタンプでもインスタグラムへの投稿でも可能です。 今もあるのかどうかわかりませんが、意匠出願は準備が大変なので、時計や食器など、業界毎のデザインの登録制度があったと思います。

 

しかし、権利者と使用者が権利範囲内かどうかを争っています。

商標なら、出所混同が基準となり、意匠なら創作の範囲が基準となり、著作物なら依拠性や同一性が基準となり、不正競争では主観的な意図まで議論になります。

 

ただ、実際上、これらは結論的に重なるところは多いように思います。審査や裁判制度を無視して考えると、例えば、Googleフォームで、アンケートを募集・集計する方法があります。

類似していると思うかどうか、真似をしていると思うか、公正なものはどちかと思うか、など、複数の項目を質問して、総合的に得点をつけて、侵害か否か、対価の料率などを決めるような仕組みです。法制度変更は難しいので、契約ベースの話として、このようなものがあったら面白いと思います。