獲得された識別力、非機能性
引き続き、パテント誌の2019年1月号の不競法特集を読んでいます。今日は、米国です。
日本人の米国弁護士の荒木さんという方と米国弁護士の女性が共同執筆者なので、非常に読みやすくなっています。
理解したことは、
- トレードドレスは、過去はコモンロー上の不正競争が重要だったが、連邦最高裁判決で、1992年にランナム法の43(a)が根拠になり、また、1999年にランナム法が改正されている(ランナム法43条(a))。今は、地域的な制限がないので、コモンローよりも、ランナム法がメイン
- 実際の事例として紹介されているのは、壁掛けサーモスタット、バーベキューグリルの枠のデザイン、腕時計の盤面のデザイン、ルブタンの赤い靴底(立体商標の事例)
- 連邦登録されているものは、審査官が識別力(セカンダリー・ミーニング)と非機能性をチェックしている
- 未登録のものは、原告が、獲得された識別力や非機能性を主張する必要がある
- 獲得された識別力は、商標の場合は、5年の排他的使用でよいが、製品デザインの場合は、それだけでは不十分(セカンダリー・ミーニングは、法律問題ではなく、事実問題)
- 非機能性は、意匠権の存在は良いが、特許の存在は機能的とされる(法律問題ではなく、事実問題)
- また、宣伝広告で、デザインの実用的利点を訴求すると、機能的とされる
- 3倍賠償はあるが、刑事罰は言及なし(ない)
- 逆混同(reverse cofusion)という概念がある。広告宣伝により、後発者が先発者より有名になり、先発者が後発者のものと混同される現象(答えは記載なし)
- デザインが同じで、商標が違う場合は、トレードドレスと商標のどちらが優越的かで判断
- 価格は、通常は独立した考慮要素ではなく、被告が低価格であることは混同を認める傾向
コメント
少し、長いのですが、この論文は、分かりやすいなというのが、素直な感想です。
ランナム法は、出所混同の防止に主眼があり、実用性は特許の担当というところから、分かりやすいと思いました。
また、出所混同を生じるには、その前提として、識別力が必要であり、昔ながらの商標は別として、新しい商標であるトレードドレス(ほぼ、立体商標です)では、識別力に基本的に疑問があり、識別力のチェックを厳格に行うというものです。
識別力のチェックには、マーケティングリサーチ的な調査がなされ、その調査結果(商標調査ではありません)は、混同の判断においても使用されるということで、全体に、そうだなという感じです。
日本の立体商標に近い議論なので、理解しやすいんだと思います(というか、日本の商標はアメリカの議論をベースにしたのだと思いました)。
一つ、勉強になったのは、トレードドレスと広告宣伝の関係です。ドレードドレスの非機能性の要件に関連して、宣伝広告では、デザインの実用的な視点を訴求しないことが必要なようです。
また、デザインが、企業と一意的に結びつくように広告宣伝活動をすべきという点です。
特に、前半の部分ですが、この視点を持っていませんでした。商標部門の人には、当たり前、あるいは、聞いたことがある、という論点なのかもしれませんが、広告宣伝の部門の人は、初耳という人が多いのではないかと思います。
商標部門の方が、ブランドマネジメントを勉強することは、案外あるのだと思いますが、広告宣伝の人が、このレベルまで商標を勉強することはまずないと思います。
商標部門の人が、咀嚼して、広告宣伝部門の人に伝える必要があると思いました。
先日来、商標の講演会などで、「企業の商標部門とコミュニケーション部門、特許事務所の商標担当の関係をより緊密にすることが大事」と、言っているのですが、その説明のための良い事例を見つけたという感じです。