50万円、30万円の数字
2019年6月10日の毎日新聞の電子版で、阪急電車の中吊り広告が、問題になり、広告掲載を取りやめたという記事があります。弁護士さんのコメントを含めて、切れ味鋭い記事です。
阪急電鉄「働き方啓蒙」中づり広告「月50万円」に「不愉快だ」など批判、掲示とりやめ - 毎日新聞
- 給料よりやりがいを重視しようという趣旨のもの。しかし、批判の声
- 「毎月50万円もらって毎日生きがいのない生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活と、どっちがいいか。 研究機関研究者80代」
- 「私たちの目的は、お金を集めることじゃない。地球上で、いちばんたくさんのありがとうを集めることだ。 外食チェーン経営者40代」など
- 「30万円という例示があるが、私の給料はそんなに高くない」「やりがいと生きがいを前面に出していて不愉快」「時代にそぐわない」といった批判
- 労働関係の弁護士は、電車は最低賃金に近い給与で働く人も多く利用しており不適切、ありがとうを集めるという言葉も、労働者を搾取する思想。この広告を社会に出すのは有害
- 阪急電鉄は、働く人々を応援したいという意図で企画。社内で掲載文を選ぶ過程で、不愉快な思いをさせてしまうかもしれないという指摘や懸念はまったくなかった
- 30日までの掲載予定だったが、前倒しで広告の中止を決定
コメント
正月の西武・そごうの広告以来の、炎上広告です。今回の阪急のものは、予定よりも早く取下げにしたようです。
ブランドリスクマネジメントの一種です。
阪急電鉄は、働く人を応援しようと思い、元気が出てくる言葉を選んだつもりが、逆に働く人の気持ちを害してしまったということのようです。
どこかにボタンの掛け違いがあり、炎上してしまったようです。
多くの文章があったようですが、特に、記事で書かれている2つの文章が問題になったようですが、2つめのものは、ワタミの渡辺さんですね。これがこちらは出どころも分かりやすいものです。1つめのものは、出所不明です。
炎上の原因は、月収50万円と30万円を比較しただと思います。
80代研究機関研究者とあり、80代で現役で働いているのか?とまず思いました。大学の名誉教授のような方でもないと、80代まで仕事はないように思います。そうなると、この方は、成功した研究者となります。
50万円と30万円は、成功者が比較のために出した、分かりやすい金額の例なのだと思います。50万円はなかなか稼げない。30万円は稼げる仕事はあるだろう。成功した研究者が、それを対比で使っただけのように思います。
金額には、対比の数時程度の意味と考えるのが、自然です。50万円と20万円でも良かったのだと思いますが、ここは、30万円としたのだと思います。
しかし、阪急電鉄や研究者の意図とは別に、実際にはもめてしまいました。広告としては、失敗です。
確かに、30万円の給与がない人からすると、自分を否定されてしまったような気になるのは分かります。
特定の文脈では問題のない言葉でも、使用される場所が、万人が利用する公共交通機関なら問題になる可能性はあったわけです。
阪急電鉄の社内での議論では、誰一人、問題に気付いていなかった点もあります。おそらく阪急の社員の給与水準は高いのだと思いますし、比喩を理解するタイプの人だったのだと思います。
こうなると、事前の広告のチェックには、社員だけでチェックするのではなく、フォーカスグループインタビューで、色々な階層の人を集めてチェックするようなことが必要なのかもしれません。
広告の場合も、機密が重要なので、通常は、社内だけで判断してしまいますが、そこを敢えて、外部の意見を聞くというスタンスです。
あるいは、阪急に思いがあるなら、社会的な批判をもろともせず、最後まで掲載するかです。創業社長の出す意見広告なら、そうするだろうなと思います。
そういう意味では、西武・そごうは、掲載を続けていますので、腹がすわっています。
さて、50万円、30万円は、比喩と考えると、大した問題ではないのですが、問題は、「やりがいと生きがいを前面に出していて不愉快」「時代にそぐわない」という意見の方です。
これは、考え方の違いです。生まれた時から豊な時代である人は、お金には困っていないというのは分かりますが、やりがいや生きがいもいらないということなのでしょうか?若い人は、基本はこれを重視しますので、若い人に二極化があるのかもしれません。
あるいは、こちらの意見は、2つめの広告に対してではないでしょうか。自分の利益のために、人のやりがいや生きがいを活用している経営者の顔が浮かんで、嫌がる方が出たのだと思います。
50万円、30万円の研究者が言っているのは、基本的にはやりたいことをやろうということですので、あまり問題がないように思いますが、やりたいことをやろうと云うこと自体が問題だとすると、正直、良くわかりません。
なお。実務的な対策ですが、西武・そごうの広告ではないですが、50万30万は対比のための例ですと、はじめから、ディスクレームをはじめからすることが大切なのかもしれません。