著作権法の保護範囲
著作権法などによる応用美術のの保護の可能性
2019年8月15日、北大のサマーセミナーに参加しました。テーマは題記のものです。
10:00-12:30の前半に東大の田村教授による「著作権法の保護範囲」、
14:00-16:30の後半に元知財高裁の清水節 弁護士・弁理士の「著作権などによる応用美術の保護の可能性」というテーマです。
意匠や商標は、どんな内容でも講義について行こう(行ける?)と思っていますが、著作権法は、知らないことが多いので、十分理解したとまでは言えません。
前半の田村先生のお話しは、今の私には、少し難しい部分がありました(事前配布していただいている資料が、非常にページ数があるものだったも驚きです)。
一方、清水先生は判例ベースに丁寧にお話しいただいたので、聞いているときは、良くわかりました(自分のものにするには、ちょっと判例を読みこまないといけない感じです)。
田村先生の話で、メモを見ると、
- 複製と翻案は、どちらも著作権侵害。通常は区別の実益なし
- 複製は有形のもの、無形のものは複製といわない。そのままの利用
- また、翻案と二次的著作物の利用は違う
- 区別の実益は、譲渡契約で、翻案と二次的著作物の利用は、契約に明示しておかないと残る
- 「複製と翻案」と「非侵害」の区別が重要。ここに、類似性という言葉がでてくる
- 著作権侵害とは、①他人の著作物に、②依拠して、③類似の範囲で、④法定の利用行為をなすこと
- アイディアと表現を区別したドイツの学説(Johann Gottlieb Fichte)
- 類似と創作の関係
- 著作物は思想ではないが、思想の創作性ある具体的表現
- 内容及び形式の覚知基準(わん・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件)
- 本質的特徴の感得(マッドアマノ事件)
- 創作的表現の共通性基準(日照権事件、アメリカの判例、Abstraction Test=濾過テスト)
- 江差追分事件(濾過テスト)
- そして、最近の、創作的表現の共通性+本質的特徴の感得、が必要という説(高部判事の説のようですが、このあたりは、十分理解できていません)
- 判例(釣りげータウン事件、会社案内パンフレット事件、判例百選事件)
- 著作権は、保護が弱いと、創作意欲の低下(インセンティブの側面)。一方、保護が強すぎると創作の過度の萎縮(阻害)。このバランス
こんな感じです。田村先生は、あまり広く著作権侵害を認めない感じに聞こえました。
清水先生の話は、
- 著作権全般についての話
- 立体的デザインの保護
- 応用美術の保護(TRIPP TRAPP事件)
というような内容です。特に、TRIPP TRAPPに至る背景を、受講者が理解できるようにするために準備された講義でした。
判例の紹介をしながら、背景、解釈、考え方の移り変わりを説明するという内容でした。時に、メモをしたのは、次の点です。
- 特許の事件に比べて、著作権侵害事件の数は限られており、なかなか経験を積むのが難しい
- 最高裁判例で著作権を扱ったものは26件。特に重要なものは10件
- 判例の基準は分かりやすいものが好まれる
- 判例の文言が、そのあと、別の意図で活用されることがある
- 意匠はお金がかかる。そのため、活用されていないのでは?
- マグライト事件の前後で、立体商標は、使用による顕著性で認められるようなった。角瓶も今出し直せば。。。
- TRIPP TRAPP事件(棚で左右を支えるタイプの椅子の事件)は、意匠に行くべきという有力説もあるが、先生は著作権法を重複適用しても良いという考え方
- 著作権の保護が広すぎるなら、立法的に解決すべき
- 応用美術の件は、欧州司法裁判所で、法務官が見解書。裁判でどうなる
勉強を始めたころ、意匠と応用美術の分岐点は、量産性(意匠の工業上利用性)で、50個以上は意匠という古い英国判例があるというような話を何かの本で読んで頭に入ってのですが、もはやそんな話は関係ないようです。
ただ、意匠出願が低調であり、著作権で保護できるとなると益々そうなるという意見には、著作権の保護には、依拠性が必要(この立証は難しい)ので、意匠にはメリットがあると説明してはどうか?というアドバイスでした。
初日は、講義の終わったあと、懇親会もあり、充実した内容でした。
著作権がテーマということもあるのか、参加者は、弁護士が多く、次に弁理士、次に企業、最後に学者や裁判官という感じです。
地域の弁護士の知財勉強グループから、毎年、サマーセミナーに3名人を派遣しているという話を聞き、弁理士も、弁理士会の関係する委員会などから、毎年、数名人を送ることを検討しても良いのではないかという気がしました。