Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

Brexitと商標

フランス人による研修会

2017年9月13日18:00-21:10に弁理士会館(商工会館)で開催された、「Brexit の展望と影響」という研修会に参加しました。サブタイトルは「欧州商標・意匠・地理的表示の保護・活用・権利行使についてのBrexitによる影響とその対策」でした。合計3時間の長丁場の研修会です。講師は、フランス人の大学の先生3名、フランス弁理士会の会長の、合計4名です。男性2名、女性2名で、皆さんフランス人っていう感じでした。

 

EUの中心は、フランスとドイツですので、フランス人講師の研修会ということも理解できます。また、ナポレオン3世の時代から、フランスは工業所有権法の先進国です。

実際の所は、当日、メインのスピーカーの弁理士会の会長がCabinet PlasseraudのGuylene Kieselさんという女性で、その通訳を同事務所で勤務しているの高橋洋江さん(日本の弁理士)がされていたので、その関係だったのかと思いました。最近、日本の弁理士で海外で仕事をする人が増えていますね。

日本顧客サービスグル-プ | Cabinet plasseraud

 

Brexitの英国の国民投票は、2016年6月23日でした。そして、英国がリスボン条約50条の離脱の通知をしたのは、2017年3月29日ということです。この日から、2年以内(2019年3月28日)までに、離脱の条件を詰める必要があるようです。

 

Brexitには、Hard-BrexitとSoft-Brexitがあるようで、当初英国はHardを志向していましたが、今はSoftに変っているようです。一方、EU各国は、悪しき前例を残さないため、あくまでHard-Brexitを求めるようです。

 

欧州の知財制度で、特許は欧州特許条約があり、ミュンヘンに欧州特許庁がありますが、特許はEUの制度はないので、英国がEUを離脱しても、欧州特許はそのままです。

 

一方、商標・意匠の欧州連合知的財産庁(旧名称:欧州共同体商標意匠庁)はスペインのアリカンテにありますが、こちらはEUの制度であり、英国のEU離脱はEUTMからの離脱となります。

 

●もともと、EUが目指したものは、域内の商品・サービスの移動の自由というものでしたが、国内特許の束の欧州特許と違い、欧州商標・意匠は欧州全体で一つの権利であり、域内の商品・サービスの移動の自由を直接、制度的に担保するものでもあります(欧州商標には、指定国的な考え方がありません、ある意味進んだ制度です)。

 

①現在、170万件ある欧州商標権は今は英国で有効なのですが、Brexit後、それがどのように扱われるか、

②また、日本法人などは今はEUTMを中心に出願していますが、今直ぐに、昔のように英国の出願をすべきかなどが、議論されています。

 

①については、今のEUTMで登録されているものが、そのまま権利が英国で認められるのか、あるいは、何等かの手続きをしたものだけが、英国に残るのか、英国は審査をするのか?などが議論です。

②については、①に関係するのですが、たぶん移行措置があり、EUTMの権利は英国で何らかの形で有効になるが、手続きなど不明な点もあるので、重要なものは、今からEUTMと英国は2重に出しておきましょうという議論となります。マドプロを使って、EUTMと英国と双方指定しておくのが実務的な提案でした。

 

英国の弁理士会のまとめた7つの可能性と、2017年9月6日にEUが出したポジションペーパーの紹介がありました。

Position paper transmitted to EU27 on Intellectual property rights (including geographical indications) | European Commission

 

Brexitになると、英国の事務所でEUTMを出願していた場合、どうするかという問題があります。EUTMの前身のCTMのとき、スペインを使うという話もありましたが、やっぱり英国の弁護士や弁理士の分析はしっかりしており、理解しやすいので、英国を使っていることが多いと思います。おる程度の大きさの英国の事務所がドイツのミュンヘンにブランチがある場合は、そこ経由が可能なようです。 このあたりも興味のあるところです。

 

●2017年9月23日の各誌には、英国のメイ首相が、更に2年間の移行期間を求めるという話がありました。

 研修会でも、講師の先生から、これからしばらく議論が続くので、どうなるかはわからないという話でしたが、本当にそうですね。

www.asahi.com

 

 

●その他、研修会では、

契約実務的には、EUTMをライセンスしている場合、英国が入るのか入らないのか、明確化する見直しが必要なようですし、これからのライセンス契約には、必ずBrexit条項を入れて、どのように扱うか明確にしておべきという話でした。

 

また、国際私法的な議論ですが、裁判所漁りのフォーラムショッピングや、域内消尽とかの議論も紹介がありました。

 

最後に、今話題の地理的表示(GI)ですが、英国では法律がなく、EU指令がダイレクトに適用されていたようです。これが、どうなるのかも論点のようでした。

 

法律用語にも通じたよくわかる通訳の方がいたので助かったのですが、内容が盛り沢山な研修会でした。

 

●もともと、英国商標法は、The British Commonwealth of Nations(英連邦)内で商標の親のような存在でした。前提となる法律も英法でコモンローですし、商品分類も独自のイギリス分類を共通に採用していましたし、商標法も使用主義をベースにした似通ったものでした。英国登録は英連邦諸国では尊重されるものでしたし、商標の世界では特別の存在でした。

 

EMTM(昔の共同体商標)に入るために、現在の英国商標法は英国独自色が薄れてしまっています。現在の英国商標法の中には、既にEU指令が入り込んでいるので、昔に戻ることはないと思いますが、英国法が今後、10年、20年たって、どのように変化していくのか、楽しみではあります。