Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

働いているとは?

働き方改革への、別の視点

2018年1月15日の日経夕刊の「明日への話題」の欄で、カルビーの松本晃会長兼CEOが、働き方改革について、面白い意見を言っておられます。

www.nikkei.com

大略、次のような内容です。

  • 働いているとはどういうことか?
  • まず、誰のために働いているのか?
  • 顧客の問題って何か?消費者は何に困って何を求めているのか?
  • 従業員とその家族は?株主は?
  • では、あなたは、顧客の問題を解決しているか?少なくともその努力をしているか?
  • エスなら働いている
  • ノーなら、忙しくても、残業しても、実際は働いていない
  • 働くということはそんな意味
  • 働き方改革も、働くことの定義をはっきりさせることから始めるべきでは

文章は、日経でご確認ください。

 

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経営学からいうと正に松本さんの仰る通りと思います。

今、議論されている働き方における「働く」というのは労働法由来のもので、安全や健康という面を中心に見ていて、成り立ちが違うので、どちらが正しいということはないのですが、昨今は、「働き方改革」という言葉だけが先行して実体が不明確になっているので、貴重な意見と思いました。

 

国は、人口の減少や、労働力の減少に危機感があり、女性とシニヤが働きやすい世の中をつくりたいと思っています。そのために、保育園をつくり、男性も育児に参加できるようにして、年金を先送りし、人口減、労働力減にストップをかけようとしています。目的は、国力の維持(税収の維持)にあるようなニュアンスがあります。

 

企業は、国家施策に協力すると同時に、働き方改革をチャンスと捉えて、生産性の向上を図ろうとしています。AIを使って、人を減らすなども言われており、合理化に近いニュアンスがあります。

 

労働者は、労働時間が減り、多少なりとも個人の自由時間が増えればと思っています。しかし、残業代が減るのは嫌なので、賃上げ要求となります。昨今は、政府も、デフレ脱却のために、賃金上昇と言っています。政府は、副業をして視野を広げ、賃金を上げることを、推奨していますが、副業をできる人は、意欲のある一部の人に限られそうです。

 

このあたり、三者三様の考え方で、同じ方向を向いているわけではなさそうです。

 

松本さんの意見は、昔から言われている意見であるとは思います。松下幸之助も、企業の利益は社会へのお役立ちの対価と言っていますが、個人と企業で主体が違いますが、ほぼ、言っていることは同じようなものだなと思いました。

 

顧客の問題の解決なり、顧客へのお役立ちなりですが、これが数値化され、この数値に応じて、評価され、給与なりが支払れるなら、言うことはないのですが、現実の世の中では、そこまでの明確なリンクはありません。

 

何を顧客と設定するかが重要ですが、松本さんの視点は、客観的評価でもありますし、働く意義でもあります。

 

サイゼリアが採用しすぎで減益

しかし、別の見方をすれば

 2018年1月11日の日経に、サイゼリヤが2017年9月~11月の決算で減益になり、その理由の一つが人を採用しすぎたというものがありました。

www.nikkei.com

  • 2017年9~11月期の連結決算は、純利益が前年同期比14%減の16億円
  • 客単価の上昇や新規出店の効果で堅調に推移。売上高は379億円と7%増加
  • 円安で食材輸入価格が上昇、アルバイトの過剰採用による労務費増加が利益圧迫
  • 離職率がまだ高く、労務費の管理が今1番の課題
  • また、9月と10月の台風の影響で、来店客数が落ち込んだ
  • 中国を中心のアジア事業は新規出店などで、同事業分野では増収増益を確保
  • 人手不足への警戒感から店舗が通常の1.5~2倍の人員を採用
  • 従業員に向けた退職給付制度といった費用も増加
  • 過去には「将来はメーカー並みの給与や労働条件を保証したい」と発言
  • 1月10日には決算と併せて従業員に対してストックオプション新株予約権)の発行も発表

コメント

今、人手不足が深刻です。東京の街中の居酒屋などの外食の店では、外国人が非常に多くなっています。パートやアルバイトの賃上げが必要になり、その結果、外食も値上げが多くなっています。

人の確保が難しい中で、サイゼリヤは採用しすぎというのは、非常に珍しい話だと思いました。

最近は、コンビニ、牛丼店、居酒屋などで、深夜のアルバイトが採用できずに、24時間営業はできないとか、新規出店計画が減るとかの話を聞きますので、それに比べると、天地の差があります。

 

店舗は、忙しそうなので、楽な仕事ではないと思いますし、アルバイト代も高くないと思いますが、アルバイト応募者に人気があるのだと思いました。

採用に費用をかけ過ぎたとありましたが、どんな方法を取ったのでしょうか?

 

サイゼリヤが、この過剰採用のアルバイトを教育して、戦力化できれば、近くに店舗を新規出店可能となります。本当に、労務管理がなっていなかっただけかと勘ぐってしまいます。

 

サイゼリヤには、もう一つ面白い記事がありました。中国に進出したファミレスが皆苦戦する中で、サイゼリヤだけは好調を維持しているというものです。イタリアンに特化していることが 理由のようです。

diamond.jp

実際のメニューは、日本とは違うようです。どこまでローカライズするか、どこまで本国のものと同じものを出すのかは、難しい話といいますが、看板や店舗のデザインは当然一貫性がありますし、メニューも許容範囲なのではないでしょうか。

rocketnews24.com

今回のアルバイトの雇用過剰をどう考えるかはありますが、この会社は、相当上手く経営している会社なのだと、改めて思いました。 

 

 

 

聞いてきました(伊藤元重先生の講演会)

世界の景気の話

2018年1月21日にホテルニューオータニで開かれた、東京大学名誉教授で、学習院大学国際社会学部教授の伊藤元重先生の話を聞いていました。

「2018年の世界経済の動向」というテーマです。

 

世界的に景気は良いが、全世界同じく、株は高いが賃金や成長率が低い状態で同じということです。珍しいことのようです。

2000年のITバブル崩壊、2001年の9.11のテロで悪くなった世界経済が、ゴールドマンサックスのオディール氏のBRICsという言葉の発明で一旦良くなるのですが、2007年のサブプライムローン問題、2008年のリーマンショックで崩壊するという歴史の話があり、今は、どのあたりかというような話でした。

 

欧米ともリーマンショックの危機が本格的に回復してきた時期という認識です。トランプ政権は評価できない政策ばかりですが、景気が良いので助かっています。2008年のアイスランドの3大銀行の崩壊とギリシャ危機は、ユーロの根本的な弱さを露呈しました。

中国は、胡錦涛政権の温家宝が40兆元の投資をして、新幹線・道路・原発・住宅・鉄鋼と開発し、瞬間的に12%成長し、危機対応としては社会主義が有効であることを示しますが、2014年、2015年に不動産価格の暴騰・暴落でチャイナショックを起こします。その後、ニューノーマルとなり、6~7%成長で、最近は安定しているようです。中国には、不良債権問題があるようですが、経済成長や資産などもなり、中国政府がグリップしているようですので、当面は心配ないようです。

 

BRICsは、もはや死語で、今高い成長率を示しているのは中進国で、フィリピン、ベトナムインドネシア、インドということです。これらの国は、自力で成長しています。特に、フィリピンは、麻薬撲滅戦争をしており、犯罪者を5000人を射殺し(撃ってきたから応戦する)、12万人が投降し、人権問題ありと言われながらも、レイプ・自動車強盗・拳銃強盗が軒並み50%ほど減り、大統領は支持率80%という状態です。

欧米企業や日本企業の一部はフィリピンに投資しています。中国の華南地区に比べて、5分の1から10分の1の人件費、ASEANで唯一英語が話せる、人口が1億人(増えています)の若い人の国、ということでメリットがあるようです。タイは高齢化国ということでした。

 

石油相場は、27ドルあたりまで落ちていたのが、最近は60ドル70ドルで安定しています。

 

全体的に、2018年は、良い時期なのですが、良い時期にはリスクを見ておくという話がありました。

 

リスクは、①金利(上昇すると不動産価格と株価が低下する)、②トランプ大統領と欧州のBRIEXIT、③地政学リスク(北朝鮮と中東)です。

トランプ政権はNAFTAでカナダ、メキシコ、中国と経済戦争状態で、優秀な技術者がカナダに逃げているようです。メルケル首相も連立が難しくなっています。

 

日本ですが、アベノミクスについて日本では評判が低いのですが、海外では評判が高いということです。

日本で評価が低いのは、①デフレ脱却、②経済成長、という当初の目標が達成できていないからですが、これは他の先進国と同じ状態です。

逆に評価が高いのは、①株価が、8800円から2万4千円、②GDPが回復。GDPは、1997年の532兆円で、リーマンショック東日本大震災で、2012年には500兆円も切ったのが、元に戻った、③雇用も、有効求人倍率が1.56~1.57という数字となり、これは1970年代に戻った数字、④企業の収益の貯蓄剰余金は、毎年25兆円以上で、この10年で日本企業は250兆円貯めた計算となっています。(アメリカはGDPの0.9%、ドイツは2.5%、日本は5.1%)

 

今後の日本は、企業が、賃上げ、投資、配当を行うかにかかっており、アマゾン(配当をせず、投資し続けている)を例に挙げて、電気自動車、フィンテック、小売業など、国際社会の動きが変わる中で、投資をすることができるかにあるとしています。

 

2020年の東京オリンピックのあと、少しは景気が悪くなっても、長期的には良いという展望と感じました。

 

伊藤先生の講演の後、三井住友信託銀行の投資顧問業務部長さんのがあったのですが、こちらも面白い話がありました。

記憶に残ったは、①今のドル円レートは、アメリカの金利が動くと(日本の金利が動かないので)円レートが変化する、②女性・シニア層のパートタイムを中心に雇用環境が良い、③日本株と為替の連動が切れてきた、④株価は日本は割安だが、アメリカは割安ではない、⑤中国で「煤改電・煤改気」という暖房を石炭から電気・ガスにシフトする動きがある、⑥中国にはコマツのKOMTRAXという指標ち注目、⑦恐怖指数(VIX)が下がっているので要注意、という点です。

 

景気予測は、あくまでも参考までです。

 

コメント

伊藤先生のお話は、新聞とかで見たこと、聞いたことがある話ばかりなのですが、まとめて聞くと非常によく理解できました。良い頭の整理になりました。

目新しい情報としては、フィリピン、GDPの回復、企業の貯蓄剰余金の高さでしょうか。

企業が、お金を貯めこむだけではなく、この良い時期に、 どれだけ事業に投資できるかですね。

 

外交関係のインテリジェンスでも、基本は、その国の公表された情報、新聞情報から構成されているといいますので、知っている話をいかに整理して理解しているかが、重要なのだと思います。

現場とのコミュニケーション

不正防止に関連して

2018年1月15日の日経の「経営の視点」(塩田宏之編集員)で、最近話題の隠蔽等の不正防止にとって、社員との意思疎通が重要というコラムがありました。

www.nikkei.com

最近の自動車メーカーや、鉄鋼メーカーの品質関係の不祥事の原因を、経営者と現場の意思疎通(コミュニケーション)不足と考えて、反対に意思疎通がうまく行っている事例を複数紹介するというものです。

紹介されたのは、京セラの稲盛和夫名誉会長、クボタの木股昌俊社長、積水ハウスの和田勇会長の3名です。

 

まず、稲盛さんは、日航の会長だったとき、伊丹空港で、カウンター勤務の女子社員の2000円のコストダウンの成果発表を大いにほめて、それがメールで社内に拡散し、社員の士気を高めたという話です。

 

木股さんの話は、工場の課長時代に、事故やケガの多さで悩んでいたのが、社員の誕生日に一人一人に「ケガするなよ」という声掛けで、ピタッととまったという話です。今は、社長から部長以上に手書きメッセージカードを届けているようで、部長は全社員に社長の写真とコメントの入ったカードに、自分のメッセージを書き社員に送っているとあります。

 

和田さんは、社内の若手リーダーを集めて、塾を開催し、直接経営ビジョンや体験談を語り、社員が乾燥や意見を述べているようです。

 

コラムは、目標には経営を発展させる面があるが、反対に無理な目標の押し付けへの反発などにも言及しています。

そして、コンサルティング会社の社長の、経営者の指示に現場が反発するのはまだ健全な状態とのコメントの紹介があり、

最後に、筆者は、面従腹背が不正や隠蔽のもとになるというまとめがあります。

 

具体例が面白いので、是非、コラムをご覧ください。

 

コメント

詳しくは分かりませんが、稲盛さんの人心掌握術は見事だと思いました。クボタも、最近のTVCMなど非常に良いなとは思っていたのですが、木股社長はコミュニケーションを理解されている方なのだと思いました。

 

このコラムの言わんとしている点は、経営戦略やブランド戦略でいうところの、インナーコミュニケーションの重要性です。

インナーコミュニケーションは、経営戦略の一部分で語られることも多いですが、どういう自分達=企業=ブランドになりたいかを、語りあったりするのは、ブランド戦略でもあります。

経営者が現場との意思疎通を心がけ、現場を理解しながら、企業としての方向性を提示するというのは、経営者に求められることだと思います。

ある意味、ピーター・ドラッカーが本来目指した目標管理です(変形してしまった成果主義やコミットメントだけの経営とは違います)。

 

良い会社は、どの会社もコラムのような事例を行っている、あるいは、持っていると思います。社内の良い事例を集めて、社員が知り得る状態にすることは、重要な活動だと思います。最近ですから、メールやSNSでも良いですが、一般的には、社内報のようなものがこの役割を持っています。

 

また、経営者が変わるとスタイルが変わるので、手法が変わります。それを、経営企画がスタッフとして社長をサポートするのか、人事や総務か、ブランドや広報や宣伝か、色々ありえます。

 

ともあれ、社長の考えが一番重要です。

大きな会社では、社長も忙しく、スタッフ部門の担当者が社長に変わって戦略を考えるということになりがちなのですが、この記事を読んでいると、スタッフ部門は黒子に徹して社長の良い面を引き出すことが重要なような気がしました。

GAPとイオン

真逆の記事がとなりに

2018年1月13日の朝日新聞で、GAPの記事とイオンのトップバリューの記事が隣にあったのですが、内容的には真逆の内容でした。

まずは、GAPです。digital.asahi.com

GAPは、価格戦略を見直して、大幅に値下げするセールの回数を減らして、定価に近い価格で販売を増やすとあります。

 

全品半額などの大規模セールを頻繁に行って集客することが常態化していたようですが、夏冬の定期セールを除き回数を削減するとあります。

基本的には、商品の魅力を伝える戦略で、デジタルサイネージの導入や期間限定ストアの開設を進めるようです。また、会員サービスを充実させ、会員は常時5%引きから、月初の1週間は1割日にして、顧客のつなぎとめを図るとあります。

 

 

一方、隣にあったイオンの記事は、次のものです。

www.asahi.com

イオンは、プライベートブランド(PB)商品のトップバリューで、食品や日用品100商品を平均で10%程度値下げするとあります。今回の値下げで、2016年11月から4回目の値下げとなるようです。

消費者の節約志向は依然根強く、物流の態勢を効率化したり商品調達を見直したりして、値下げの原資を確保したとあります。

イオン、ダイエーマックスバリュなど全国約2800店舗が対象とあります。

 

コメント

非常に対象的な内容の記事が、隣にあったので、目につきました。

通常、ブランドを作る(守る)ためには、安易な値下げは禁物と言われています。思うように売れないので、お買い得感を出すために、値下げをするのですが、はじめは良くても、徐々にブランド価値が低下していき、ブランド棄損を自ら招くことになるためです。

ブランドの話では、安売りセールを止めて成功したという話が良く聞きます。当然、安売りセールを止めても売りを上げるためには、商品や広告の魅力をあげていく必要があり、根本的にリブランドが必要になります。先日、ブライツコンサルティングのセミナーで、女性下着のVictoria's Secretのリブランドをされた池田さんの話を聞きましたが、同じ方向の話です。

 

一方、イオンのトップバリューの話は、真逆の話で、価格を下げるを強調しているように見えます。商品は同じと思いますので、合理化で得た原資を値下げに使っているので、消費者としてはありがたい話ではあります。

しかし、トップバリューという商品ブランドの価値は上がりません。安物とまではいかなくても、それに近いイメージになりがちであり、結局、GSMのイオンの価値にまで影響します。

一般的には、セブンプレミアム(特に、金の〇〇)や無印良品のように、PBでも商品価値を高めて価格を上げた商品がブランド価値を上げます。

 

しかし、イオンは、トップバリュー課題を十分理解して、商品を4割削減したりしています。

www.nikkei.com

everyday low priceであり、安売りセールではありませんし、トップバリューの値下げが、上手く行けば、イオンと消費者の双方がWin-Winになるはずです。(その分、製造業者には負担がかかるのだと思いますが。)

トップバリューについては、ビックデータを使っているとか、色々と面白い話があるようです。

 

以前、インドで、タタ自動車がナノという低価格車を開発して、結局売れなかったという話があります。インドではスズキのアルトが人気でしたが、それでも価格が高すぎるので、より低価格のナノを開発したのですが、貧相な装備もあり、事業として失敗に終わったものです。

ナノの話を聞いたときに、一応満足できる品質であれば、低価格商品を出すことも、一つのブランド戦略ではないかと思ったのですが、先輩からその方向はブランドの否定につながると聞き、その当時はそうかなぁと思ったのですが、現実は、まさに先輩のいうような結果になりました。

インドの消費者にしたら、折角、それなりの金額を出して車を買うのに、あまりに貧相な装備の車では車を買う意味がないということだったのだと思います。

 

トップバリューが人気とは聞きません。自動車と食品・日用品は違う面もあるとは思いますが、トップバリューの広報発信は、商品の品質がアップしたときとか、品質管理が厳しいことを発信することに限定してはどうかと思います(実態が必要ですが)。

トップバリューの値下げは、積極的に広報発信すべき内容ではないように思います。値下げは、粛々と行い、気がつけば、安くなっていた程度で良いのではないでしょうか。

知財立国は成ったか

日経の現状は60点という記事www.nikkei.com

2018年1月15日の日経に、知財立国は成ったか(上)、現状60点、電機救えず、秘匿と生産委託不徹底という記事がありました。

渋谷編集委員の記事で、荒井寿光氏やキャノンの長沢健一常務のコメントもあり、読まれた方も多いと思います。

詳細は、記事を見ていただくとして、まとめると、次のようになります。

 

まず、お二人が、知財高裁の創出や、約40本の知財立法など、知財立国のインフラは整った。この意味で、60点の合格最低点と評価されています。

しかし、企業、特に電機が件数競争に陥り、工場の生産ノウハウなどを特許出願してしまい、そのノウハウを韓国、中国の会社に取り込まれ、競争力を無くした。また、欧米のIT企業のオープン&クローズ戦略に負けてしまった。

巻き返しのためには、本業に貢献しない特許部門は不要と認識し、特許部門は事業を支える部門、事業の支援組織になるべき。また、従来のような特許の取得と活用だけではなく、ソフトウェアや著作権、営業秘密、ビッグデータなどの権利を確保する契約までを含めた力量が必要という内容でした。

 

ちなみに、荒井さんと長沢さんの対談記事は、こちらです。ヴィヴィッドで面白い対談です。

www.nikkei.com

 

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2005年2月から2017年2月までは、知財の外にいました。

現在は、特許事務所の外国商標担当という職ではありますが、久ぶりに知財の世界に戻ってきて、その地位が低下していることは実感しています。

 

日本の特許業界は落ち込んでいますが、中国は大盛況ですし、韓国も悪くないようです。欧米は以前とそう変わらない感じです。どうも日本だけが一人負けしています。日本の一人負けの原因の一つが、電機にあるのは確かだと思います。

 

他の原因は、弁理士を増やし過ぎたことに目が行きがちですが、弁理士の訴訟代理権付与に失敗したことと、弁理士が明細書に固執していることの二つだと思います。

 

IT企業のオープン&クローズ戦略が例示されていますが、要は事業の理解力と契約力です。大半は企業の仕事ではあるのですが、弁理士制度は現実には大きく企業の知財組織風土に影響します。

 

英国の特許弁理士、商標弁理士は、訴訟代理が可能で、日本もこれを目指したはずですが、どこかでボタンの掛け違いがあり、失敗しました。

 

もう一つの方法は、弁理士を廃止して、米国のように弁護士に一元化する方法もありますが、今更これは無理があります。

 

何れにしても、弁理士が契約や交渉出来ないことには話が進みません。弁護士の話を聞くと、内容証明弁理士は送れないということがあります。弁理士法改正前にはグレーでしたが、案外自由でした。

 

特許部門や特許事務所に弁護士を入れて、著作権の契約などをやってもらうよりは、技術動向や事業を理解している弁理士がそれをすべきです。反対に弁理士が、明細書を書く仕事だけに凝り固まっていては、ダメなように思います。

 

この記事を読んで思ったのですが、弁理士は、やはり、訴訟、判定、異議、審判、鑑定、仲裁、調停、交渉の代理を重視すべきと思います。特に、交渉が重要なように思います。

 

明細書が好きだという人もいるので、一概に、否定はしないのですが、何のために、法律の試験を受けたのかを再度、考えるべきでしょう。社会的に必要とされているのは、明細書作成だけではないと思います。

 

また、付記代理人の制度を再構築すべき時期と思います。(この名称もどうかと思います)

 

もう一つ、特許事務所で働いて感じたことは、まだ、「特許」という言葉をまだ事務所名称に使っていることです。今の時代、企業に特許部はありません。皆、知的財産(権)部です。

 

たぶん、特許庁の名称が変わらないので、こんなことになっているのですが、これは問題です。特許庁を、消費者庁のように文部科学省法務省との共同の役所にして、(できれば地方に移転して)、知的財産権庁とすべきです。そして、特許事務所は、知財事務所となるべきです。未だに、PatentやTrademarkと言っていること自体が、既に古い感じがします。

 

知財高裁は、目黒に移転して、今度はビジネスコートという記事もありましたが、知的財産権庁と一緒のビルに入った方が良いのではないでしょうか。

 

荒井さんは知財高裁ができたことをほめていますが、問題はその判断内容です。日本の国力や日本企業の強化に役立ったのか、その見極めを、経済学者や経営学者にしてもらう必要があります。

 

特許庁は、コツコツと良くやっているように思いますが、全体をコーディネートすることが期待されており、その意味では、十分にコーディネートできていないのではないでしょうか。

 

電機が世界で一人負けしたことが、特許村が困窮している直接の原因ではあるのですが、電機だけではなく、各所に原因が点在しているように思います。

 

カトリーヌ・ドヌーブ 寄稿と謝罪

口説く自由

2018年1月11日の朝日新聞カトリーヌ・ドヌーブさん他約100名が、ル・モンドへ、「口説く自由」はあるという寄稿をしたことが話題になっています。

www.asahi.com

  • 米国の大物プロデューサーへの告発をきっかけに世界に広がった性被害やセククハラの告発について、カトリーヌ・ドヌーブさん他が「口説く自由はある」と異論
  • ル・モンドに約100人の連名で寄稿
  • 性暴力は犯罪
  • だが、しつこく、不器用でも口説くのは罪ではない
  • 仕事上の会食中にひざに触れる、キスを求める、性的な話をするといった行為だけで男性が罰せられ、職を失っている
  • 弁解の機会もないまま性暴力を働いたのと同様に扱われていると強調
  • 女性を常に犠牲者として守ろうとするのは、女性のためにならない
  • 寄稿に対し、「性暴力の被害者をおとしめている」といった批判が出ている

反響が大きかったのか、既に、一部謝罪がされているようです。

www.asahi.com

  • 忌まわしい行為の被害者が、傷つけられたと感じたのなら、おわびする
  • リベラシオンに書簡で謝罪
  • 当然ながら、寄稿はセクハラをよしとするものではない
  • 寄稿には必ずしも正しくない部分があった
  • ネット上の告発が人を裁き、刑の宣告となるような風潮を好まない
  • おしりに触れただけで俳優が映画から姿を消したり、企業幹部が辞任に追い込まれたりしていると指摘
  • ネットも通じた告発がもたらす影響には懸念を示した

とあります。

 

コメント

挨拶で抱擁したりする文化の国とそうでない国があるので、その文化の差も考えて、記事を読みました。

 

カトリーヌ・ドヌーブさんは、もてる人なので、このようなことを言うのかなとも思いましたが、単純な話ではないようです。

 

この話を読んで、フランス人は面白いなと思いました。

アメリカ人は、例えば、たばこが健康被害があるとなると極端にたばこを嫌うようになります。70年代は飛行機で吸っていたのに、80年代はビルの外で吸うようになるというのは、極端から極端にシフトしすぎに思います。まるで禁酒法のようです。

 

この点、フランス人は、アメリカほど禁煙運動が盛んではないと聞きます。批判精神が旺盛なためでしょうか。これはこれで健全なのだと思います。

 

また、カトリーヌ・ドヌーブさんの謝罪もすばらしく、すぐに火消しをしているので、問題が大きくならないと思われます。この素早い謝罪は、危機管理やブランドの名声の管理でも非常に重要な点です。

 

有名人なので、どうしても名前が出てしまいますが、カトリーヌ・ドヌーブさんは、ル・モンドへの寄稿にサインはしたようですが、メインのライターではなさそうです。

 

さて、BBCの日本語サイトを見ていると、ル・モンドに寄稿した人達の考え方が少し出ていました。

www.bbc.com

朝日新聞が触れていない部分としては、次のような記載がありました。

  • 昨年から次々と表面化する性的スキャンダルは、新たな「ピューリタニズム(清教徒的な過剰な潔癖主義)」の波が起きていると警告
  • 作家や学識者、表現芸術の関係者など著名なフランス人女性100人
  • 男性が紳士的にふるまうのは、決して男尊女卑な攻撃ではない
  • ひっきりなしに続く糾弾の波は、収拾がつかなくなっている
  • このせいで、まるで女性が無力で、慢性的な被害者であるかのような雰囲気、女性をそのように見る風潮が生まれている
  • このフェミニズムの動きに、女性としての自分を見いだせない
  • 権力乱用を非難する以上に、男性や性的なものを憎悪する動きになってしまっている
  • 女性たちは、ハリウッドを中心とした動きに距離を置いた

ピューリタニズムが、キーワードと思いました。英米が極端に振れる時がある原因なのだと思います。

 

www.bbc.com

また、BBCの謝罪の方の記事には、次の説明がありました。

  • ドヌーブ氏らの書簡に対する反発は、フランスでは大きな話題にはなっていない
  • 性的暴力の常習者を名指しすることの是非について、フランスでは数カ月前から賛否両論
  • 特に、世代間の不一致がある
  • 性暴力被害に名乗りを上げたり、被害者に連帯するなどの運動について、年長者の世代は1960年代にやっと獲得した性の解放の成果を台無しにするものだと懸念
  • 若い世代は、性的暴力への戦いは女性の権利を求める戦いの同一線上にある、最新の局面だと位置付けている

このあたりになると、よく理解できていません。なにやら、難しい議論があるようです。