Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

GI制度(地理的表示保護制度)

地域団体商標とGI制度

最近、地理的表示保護制度(GI制度)の記事を良く見かけるようになりました。2017年7月12日の朝日新聞には、日本とEUとのEPAの大枠合意を受け、地理的表示保護制度の対象品目のリストの発表を始めたとあります。digital.asahi.com

記事によると、EU側は、チーズの「カマンベール・ド・ノルマンディ」「ゴルゴンゾーラ」など計210品目、その中には「ボルドー」「アイリッシュウイスキー」のような酒が139品目含まる見通しということです。日本は、「神戸ビーフ」「夕張メロン」「日本酒」など計39品目とのことです。

利害関係者や専門家の意見を聞いた上で、当局が認めて、2019年EPAが発効後に、保護されるようです。

「パルメジャーノ・レッジャーノ」はイタリアのチーズですが、その英語名の「パルメザンチーズ」は、日本では粉チーズの名称として浸透しているので、今後も使用が認められる可能性があるとあります。

 

コメント

地理的表示の保護は、特許、商標、商号、著作権といった他の知的財産権に比べて、あまりなじみがないのですが、伝統的に欧州では重視されてきているようです。

一方、アメリカやアメリカ大陸諸国では重視されていないようです。

Wilipediaには、「これは、バドワイザーブドヴァルの裁判に代表されるように、アメリカ大陸では欧州の地名に由来する商品が多く製造・販売されているためである。」という説明がありました。

地理的表示 - Wikipedia

 

商標制度と比べると理解しやすいと思います。商標は、どの国に登録制度がありますが、地理的表示の登録制度は、欧州中心です。ただ、日本は、2014年に「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」(地理的表示法)を制定し、登録を始めたようです。

日本の法律では、地理的表示の登録をすると、違反に対しては、行政が取締にあたり、公表や罰金刑があり、一定の保護があるようです。登録料も一度納付すればよく、更新は不要なようです。ただし、民事上の救済はないようです。ここが、商標制度との最大の差でしょうか?

 

本来、国際的な保護は、原産地名称の保護及び国際登録に関するリスボン協定によるようですが、日本はリスボン協定に入っていません(リスボン協定は、国際事務局に登録をする制度のようです)。

そのため、日本の農林水産物、酒などを保護しようとすると、個別交渉になるようです。

最低限の保護は、不正競争防止法民法で可能と思いますので、2014年まで登録制度がなくてもなんとかなった分野なのだと思います。

 

気になるは、2005年に導入された、商標の「地域団体商標」の保護との関係ですが、ここは、重複している部分があるようです。保護を受けたい団体が、行政中心の保護を求めるか、商標権を取得して自ら権利行使に乗り出すかの判断が求められるようです。

また、地域団体商標の方が、対象品目が広く、農林水産物や酒だけではなく、「美濃焼」「玉造温泉」といったものも保護しているという差もあります。

 

商標制度に慣れている方には、農林水産省の「地理的表示Q&A」の説明が、わかりやすいように思います。

http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/faq/pdf/doc17.pdf

 

少し難しいのですが、EUの駐日代表部の、EU MAGというサイトに詳しい説明がありました。

eumag.jp

 

冒頭のWikipediaにあった、バドワイザーの件からすると、この件でのアメリカとEUの溝は、なかなか深いですね。

日本としては、将来的には、農林水産品の輸出というのもありますが、品目数も少ないですし、欧州中心のGI制度に乗っかる必要性はあまりなかったのだと思います。ただ、欧州とのEPAを促進するためには、日本もGI制度を持ち、地理的表示の保護を開始するこが必要だったのだと思います。