Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その31)

著名商標(19号)-相対的不登録理由

「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国においける需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用するもの(前各号に掲げるものを除く。)」

 

この規定については、平成8年改正法の答申に基づき説明して、その批判が展開されています。

 

趣旨:従来、日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的でなされた出願に対しては、商標法4条1項7号(公序良俗違反)及び同15号(出所の混同)の規定に該当するとの解釈で運用。しかし、解釈に頼るのではなく不登録理由として19号を新設。

 

要件:

・国内外で広く認識されている・・・答申は、10号の存在を理由に、この規定は日本及び外国の著名商標保護と説明。

これに対し、小野先生は、周知と著名の区別ができていない。また、主観的な要件を入れたために、規定が、主観的な不正競争目的をもった外国登録商標の登録制限規定になっていると批判。

・類似まで保護・・・答申が、類似の意味について外国商標の保護が厚くなりすぎないように、容易に想起できる程度の範囲にとどまると記載。

これに対しては、前半は良いが、後半の「容易に想起できる程度の範囲」は混同の範囲(※=類似の範囲)よりも広いと批判。

・不正の目的をもって使用・・・答申は、不正の利益を得ようとする目的のみならず、他人に損害を加える目的を含めた「公正な取引秩序に違反し信義則に違反する目的」とし、具体的には、先取り的出願、参入防止目的、代理的契約強要目的、希釈化・名声毀損目的を挙げている。

これに対して、「悪意の出願」の悪意や不正競争目的の立証は容易でないので、「他人の名声の不当利用」の方が立証が容易であり、不正競争防止法にこの「他人の名声の不当利用」を入れるべきという主張が展開されている。

 

コメント

不正競争防止法に、「他人の名声の不当利用」を入れることで、それが19号の解釈指針になるという意味でしょうか?

途中から、商標法の話から、不正競争防止の改正に移ってしまい、他人の名声は商標に限らず、会社や個人の名前であったり、出所地や産地の名声であったり、品種名や一般名称の名声であったりするので、これは不正競争の問題であるとしています。

 

全体に、19号の解説は、批判的です。

 

中国の人と話をしていると、この19号を相当評価しています。外国における周知商標は保護対象外という国がほとんどの中で、主観的な「不正の目的」という難しい概念はありますが、外国周知を保護するのは、珍しいようです。

 

最近は、「悪意の出願」をより正面から排除するのが流れですんで、周知と悪意を組み合わせる必要もないのかもしれません。

 

小野先生は、この規定は本来は外国「著名」商標の保護のための規定であるのに、外国「周知」商標の保護をしていることに批判をしています。

だた、この点は、海外では「Well-know trademark」の概念はあるが、それは「Famous trademark」を含む広い概念で、そもそも著名商標と周知商標が別という話ではないようです。

 

この点は、小野先生よりも、答申に軍配があがるように思います。

そもそも、類似というものは、画一的なものではなく著名度により、類似範囲は伸びちじみするという発想もあります。

 

平成8年当時は外国の著名商標の保護に視点がありましたが、「悪意の商標」の保護と考えると、この規定はありなんだろうと思います。

 

海外では基本的に商標の類似とは出所混同の範囲であり、また、日本の裁判所の混同的類似(類似と混同が一体化している類似概念)なら、周知商標と著名商標を区別する実益はありません。

 

ただ、日本の商標法は、裁判所のいう混同的類似(網野先生のいう具体的混同に近いですね)なのか、網野先生のいう一般的出所混同(特許庁や、商標業界の運用)か、明確でないところがあります。

 

ここは、抜本的な欧州や米国にならった商標法の法改正があるか、商標法の矛盾を裁判所が指摘するまで続くのではないかと思います。

あまり幸せな状況とはいえそうにありません。

 

また、各国からも消えた、防護標章登録制度が廃止できなかったのは、平成8年法改正の問題点ですが、その理由は日本の商標制度は著名商標の保護に欠けるという批判があったためですが、防護の存在は、類似を画一的なものと扱う考えが根底にあります。

 

真に著名商標の保護をするには、19号のように「悪意の出願」の保護ではなく、11号と15号の一体運用というか、類似を裁判所のいう混同的類似するしかありませんが、業界の反対がどこまで続くかです。

 

企業は、同意書を認めて欲しいと思っているので、主に特許庁の問題です。同一、極類似だけを11号で拒絶し(※現状の特許庁の運用はそれに近い?)、異議申立を全面に出すのが解決策と思うのですが、どうでしょうか。