Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

パテントの商標特集

工藤先生の判例解説(2)を読んで

昨日に引き続き、パテント誌の2019年4月号に掲載されている、工藤先生の判例解説を読んでます。

国際自由学園事件です。

 

商標法4条1項8号は、他人の著名な略称を含む商標は不登録事由になるというもので、人格権保護の規定とされていますが、この判例は、

  • 指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とするのは妥当ではなく
  • その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否か

を基準として判断されるべき、というものです。

 

工業所有権法逐条解説には、「氏名は、戸籍簿、商号は法人登記簿等で確定できるが、略称については恣意的なものであるため、著名性を要する」ものとされている。

 

4条1項8号でいう「著名」について、工藤先生は、

  • 常に全国的な周知は不要(人格権の保護だから)
  • 著名商標(4条1項10号、64条〉の著名とは違う、としています。

 

本判決は、「略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断するすべき」として、周知・著名を要求していないのは妥当とあります。

では、4条1項8号の著名の認定基準は?というと、

差戻し審の知財高裁判決では、指定商品や役務と関係なしに、著名を認定しているが、マスコミ関連資料で、ある程度知られていることを立証できる範囲をのものをいうことであろうとしています。

 

コメント

神戸の学校法人が出願した「国際自由学園」という商標が、第41類で登録になり、これに対して、東京の「学校法人自由学園」が無効審判を請求したが認められず、そして、その審決取消訴訟も認められず、最高裁に上告されたのが、このケースです。

 

審決や高裁判断では、自由学園の著名性について、マスコミを通じて、教育関係者や知識人に著名というところまでは認定できるが、需要者である学生への著名度は、東京の当該地域に留まるとして、著名とはいえないとしました。

 

最高裁判決は、この点、指定商品・役務の需要者を基準とするのではないとしています。

 

ただ、工藤先生の論考の最後の方ですが、高裁差戻判決を受けて、「マスコミ関連資料で、ある程度知られていることを立証できる範囲のものということであろう。」と、まとめの文章『「一般社会において、氏名や名称と同様のものとして特定できる程度の認知度」と解した場合は適用範囲が広すぎることになろうか』というところが、少し分かり難いように思いました。

 

おそらくですが、商品や役務の需要者に限定せず、一般社会において氏名や名称と同等のものとして特定できる程度の認知度にした場合は(、4条1項8号の規定ぶりは、「含む」ですので)、この規定が適用される場合が広くなりすぎるので、マスコミ等である程度知られていることを条件としないといけないという趣旨なのかと思いました。

 

4条1項8号の著名な氏名又は名称は、企業や弁理士の立場では、あまり悩まないものかもしれないのですが、審査官の立場に立つと厄介なものなのではないかと思いました。

氏名、名称ならともかく、略称は、色々あります。マクドナルドをマックという人も、マクドという人もいます。

松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)は、社名の略称を「松下電器」としてもいましたが、新聞マスコミでは、「松下」と記載され(字数が減るメリットがあります)、また、マスコミは「松下電産」という表現もしました。

このあたり、審査で拒絶しようとすると、審査官はチェックが必要になりますが、大変そうです。

 

あまり略称の著名の基準を下げると、審査が大変になるが、需要者までを見ると、また審査が大変になるので、中庸レベルで判断しましょうという趣旨でしょうか?

今は、インターネットで、ある程度の実際の使用状況の感触を調べることもできますが、インターネットがないときは、大変だったろうなと思います。

結局は、権利者からの異議をまって審査するしかない範囲かもしれません。

 

そもそも、「自由学園」という名称は、識別力という意味で弱い名称です。「自由」「学園」が二つセットになった「自由学園」となり、初めて識別力がでます。特許庁や元の高裁の判断も分からないではありません。

 

ネットで見ると、全く別の「自由の森学園」中学校高等学校というものがありました。星野源さんの出身校のようです。J-Plat Patで同一検索をしましたが、商標出願はされていないようです。

商標権よりも、私立学校法で(名称を含めて)認可されるのだと思いますので、そちらが優先です。

その認可された名称を素直に使う(「学校法人」という言葉を含めて使う)ことで、問題が回避される面もあります。

もちろん、不正競争防止法で、訴えることは可能です。そして、それをしないということは、認めたということになります。