Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

TikTokの米国事業のマイクロソフトへの売却

トランプ大統領の「国に売却益納付」発言

2020年8月8日の日経に、トランプ大統領が主張しているTikTokの米国事業のマイクロソフトの譲渡に関する、事業売却益を米国に納付すべきという主張ですが、法的根拠は乏しく、過剰介入ではないかとあります。

  • トランプ大統領は米連邦政府に売却益を支払うよう要求
  • 対米外国投資委員会は、米利用者の個人情報が中国当局に流出するリスクを理由に、米事業の切り離しを勧告
  • 期限は9月15日。マイクロソフトが買収に名乗り
  • 2017年にバイトダンスは、米「ミュージカリー」を10億ドルで買収。現在の価値300億ドル
  • トランプ大統領は、巨額の資金が中国側に渡ることを嫌う
  • トランプ大統領の主張は、「ティックトックは米国で成功を収めており、大家である米国は『テナント料』をもうら権利がある」というもの。(日経は「仲介料」と表現)
  • この「仲介料」には法的根拠がない
  • 国際緊急経済権限法には、テロを想定したものだけ。法令違反の罰金、税金でも無理がある
  • 資源分野のM&Aでは資源採掘のロイヤルティを国に支払うケースがある
  • 過剰介入は、癒着や腐敗などのリスクあり

という内容です。

 

コメント

45日以内に米国事業を売却しないと、大統領令によって、米国企業はバイトダンスと取引ができなくなり、米国でアップルやグーグルを通じてのアプリの提供が止まるとあります。

個人情報の保護のためとはいえ、これだけでも相当に厳しいことを要求しているなと思うのですが、更に売却益まで国庫に納付せよというのは、言い過ぎな感じがします。

 

10億ドルが買った会社が300億に成長したからといって、それはティックトックの企業努力によるものと考えるが普通です。

 

トランプ大統領は「テナント料」と表現していますが、どういう立論なのでしょうか。

 

トランプ大統領が云いたいのは、米ティックトックの売却益は、マイクロソフトという米国のお金であり、米国の資産の国外流出は阻止しないといけないということだと思います。

 

大家は店子が成功したら、次回の賃貸契約更改時に、テナント料を値上げすることはあるかもしれませんが、今回は、契約期間中に強制的に退去させられるようなものですから、普通なら店子はお金をもらうことはあっても、お金を取られることはないように思います。

 

一つあるとすると、トランプ大統領の交渉戦術です。そもそも個人情報の保護のための米国事業の譲渡という構成自体が、多いに反論の余地があるように思いますが、その反論を封じるために、矢継ぎ早に追加の議論を吹っかけて、そちらの検討もさせ、疲弊させ、結局、トランプ大統領の目的である米ティックトックの売却を前に進める手段とするという考えです。

 

もう一つは、巨額の資金が中国に渡るという世論が出てくるのを事前に摘んでおくために、この議論を主張し、政府の高官や法律専門家に、それは無理であると説明させ、この批判を封じるというものです。

 

何れにせよ、トランプ大統領と交渉するのは、大変そうです。昔、半導体などの日米通商交渉が盛んにあったときも、どんどん新しい議論を吹っかけられたのだろうと思いますが、これがアメリカ流の交渉なんだなと思いました。

しかし、トランプ大統領も手強いですね。日本の交渉担当など、一捻りでギブアップに追い込まれそうです。