Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その28)

防護標章(12号)、商標権消滅後の登録禁止(13号)、種苗法の登録名称(14号)

 

  • 防護標章(12号):本号の規定に該当する商標は、登録防護標章と同一のもの(相似形を含む。)に限られる。
  • 商標権消滅後の登録禁止(13号)の廃止(削除):廃止により、登録異議取消決定、登録無効審決確定、放棄の設定登録後に、すぐに登録査定ができる。
  • 種苗法の登録名称(14号):品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であって、その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用するもの。種苗法により保護を受けた者は、商標法によって保護する必要はない。また、種苗法登録名称の保護期間経過後は、多くは普通名称化する。

 

コメント

同一標章に限定されるので、防護標章の保護は、薄いなという感じです。

 

さて、種苗法との関係が良く分からないなと思いました。

確かに、種苗法で保護されているなら、商標法で保護する必要はないのかもしれません。

青本によると、特定人への独占を禁止するためとあります。

 

それは、納得したのですが、種苗法の保護経過後は、多くは普通名称化するのでしょうか?

 

農林〇〇号のような記号的な品種の場合は、そのような運用で良いと思うます。

また、「シャインマスカット」などは、普通名称かなと思います。

しかし、お米の「新之助」「ゆめぴりか」など、ブランド化されています。

これが商標法で保護できないとすると問題があるように思います。

 

ここは、商標と種苗法の品種の重複保護が求められている可能性があるなと思いました。

 

あるいは、この運用が絶対だというのであれば、品種の名前と商品の名前を始めから分けて、品種は、アルファベットの組合せとか、農林〇〇号のようなものにして、はじめからメインの保護は商標でいくことが得策であるように思いました。

 

農業関係者には、選択肢はあるので、どちらを選ぶかということになります。

 

イチゴの「あまおう」と「とちおとめ」の戦略の違いについて説明しているWebサイトのページがありました。

「あまおう」と「とちおとめ」の違い品種・商標登録のブランド戦略

 

「あまおう」は商標で、「とちおとめ」は品種だそうです。「あまおう」の品種名は「福岡S6号」だそうです。

「あまおう」の成功に触発され、栃木県の農業試験場も、新しい品種は品種登録は、「栃木i27号」として、商品名としては「スカイベリー」という商標をつけたとあります。

 

基本的には、商標登録の取得が有利であると、この記事にはあります。

この世界も奥が深そうです。

新・商標法概説(その27)

先願(11号)ー相対的不登録理由

先願主義(8条)、商標登録主義の原則から、先願違反のものは登録されない。商品又は役務の出所混同を防止するためでもある。

旧法は、「最先の商標登録出願人」とせずに、「他人の商標登録出願人」としていたので、後願が先に登録されていたときは先願が拒絶されていた。

現行法は、先願も登録され、後願が無効となり、中用権で調整することとした。

 

混同が生じない限り、同意によるコンセントを認める英国法とは異なる。また、先願登録商標が不使用でも、後願が拒絶されるドイツにおける先登録商標の後出願に対する効果とも異なる。

 

類似の判断にあたっては、

  • 使用される商品・役務の取引実情を把握し、総合的に判断する必要があり
  • 出願人のみならず引用された登録商標権の商標権者から、取引実情についての説明書及び証拠が提出されるのであれば、審査にあたっても有効な資料となる(平成19年改訂の9版の審査基準を引用)

 

コメント

商品や商品・役務の同一や類似の説明が、登録要件の11号ではなく、効果の25条や37条1号の説明のところにあるようです。

最近、11号の類似と37号1号の類似は違う概念だという弁理士も多いのですが、小野先生は、その種の議論は一蹴しているようです。

 

網野先生のような一般的出所混同、具体的出所混同という整理もありません。

効力のところを、少し先読みすると、商標の類似とは「混同のおそれ」をいうと整理しています。混同的類似(類似と混同が一体化している類似概念)というそうです。

小僧寿し事件、レール・デュ・タン事件、ポロ事件で、当時者系、査定系とも最高裁で確定した話とあります。

 

小野先生の立場は必ずしも明確に読みとれないのですが、裁判実務と特許庁の判断の乖離は、将来、最高裁大法廷で、これらの関係を整理すべきとあります。

また、取引の具体的実情によるという最近の最高裁判決と、不正競争防止法旧6条の削除で、訴訟実務では商標法よりも、不正競争防止法に重要性が移るとあります。

 

商標登録制度を、将来の信用の受け皿という制度から、使用実態に合わせたものにするというのか、信用の受け皿を重視して、使用実態を無視したものにするかですが、不競法と商標法の整合性を如何に確保するかという意味で、使用実態を無視とはなかなか言えないのではないでしょうか。

 

15号は、著名商標の保護のためのもので、広義の混同やダイリューションを導くためのもので、具体的混同まで11号で見ているようです。弁理士達の説明とだいぶ違うようです。

 

このあたりは、各項目でまた振り返りますが、一点、気になったのが、引用されている審査基準が第9版という点です。引用商標の権利者の取引事情の説明書ですが、同意書一歩手前の記載があります。

同一又は極類似商標以外は、取引事情の参酌をするとあります。手元の最近の審査基準では、ここを商品・役務の類似だけに抑え込んでいます。

平成8年の法改正では、同意書の萌芽があったものを、どこかのタイミングで消し去ったようです。

 

小野先生は、同意書については、良いも悪いも明言していません。登録主義や審査主義を根本から覆すものという考えもありますが、登録主義国の中国や台湾で同意書が認められ、審査主義国のアメリカや旧英国法で同意書が認められることから、原理的に登録主義や審査主義と整合性はあるように思います。

 

特許庁は表向きは、同意書制度は審査基準の改正で行うものではなく、法改正事項という説明方法のようです。そこは分からなくもありませんが、法律上認められたものではないが、同意書は尊重されるという国も多いようです。特許庁は後退しているような気がします。

同意書の替わりに、アサインバックがあるといいますが、これでは日本が特殊な国になり過ぎます。世界の異端児にならないような法改正、法運用することが望ましいと思います。

 

 

新・商標法概説(その26)

周知商標(10号)

周知商標:

需要者の間に広く認識されている商標

 

規定の趣旨:

周知商標という既存商標の使用状態の私益保護説と、出所混同防止のための公益的な規定という説があり、現在は私益保護説が有力。

しかし、立法理由はむしろ公益説を中心とする折衷説。私益保護と同時に、消費者保護のため混同防止も考慮されていると解するのが妥当ではないか。

 

周知の状態は、善意で招来されたことが必要。不正競争目的によって、周知の状態が招来された場合は保護に値しないと解する。

 

意義:

登録商標で登録を排除する効果まで認めるものであり、全国の主要商圏で相当程度周知か、狭くとも隣県数件の相当範囲での周知が必要。

  • 防護の「広く認識されている」=著名
  • 先使用権(32条)の「広く認識されている」=10号よりも緩やかに(理由:商標の先使用状態の利益保護のため)

商標、商品・役務は、類似まで:商品・役務の類似範囲を超えたものは、15号か不正競争防止法3条1項(差止請求)へ。

 

コメント

立法者が出所混同防止を、公益的理由と捉えていたという点が面白いところでしょうか。現在は、出所混同防止は私益的なものということがほとんどだろうと思います。

 

10条が11条(先願)よりも、先に来ているのは、どういうことなのかなと思ってしまいます。

昭和34年当時は、高度経済成長の前期であり、今よりも商標登録の敷居は高かったと思いますし、江戸時代から続くような老舗が商標登録を取得せずに、商品を販売していることも多かったように思います。

そう考えると、未登録周知商標は、今よりは多く、その保護は切実な問題だったのではないかと思います。

 

その後、商標登録は比較的身近なものになっています。今となっては、商標登録を取得して事業を行うことが原則ということはいえるかなと思います。

 

さて、本書ではよくパリ条約が説明されているのですが、周知商標の保護(6条の2)について言及がなかったなと思いました。

 

英語では周知商標と著名商標の区別がないようです。通常、Well-known trademarkは周知商標で、著名商標はFamous trademarkと訳しますが、英語のWell-knownは、日本でいう周知商標だけではなく、著名商標も入っています。

 

日本の著名商標は、防護標章の影響もあり、周知商標の有名なもので、商品・役務の類似の範囲を超えて出所混同を生じる範囲を、著名と区別しています。

しかし、海外では、出所混同の生じるおそれがある範囲が類似の範囲となることが多いので、日本的な意味での類似の整理は意味を持ちません。

 

日本の著名商標の保護も、いつまで存続するのかなという思いはあります。防護標章登録制度は、著名商標の類似商標の登録はできません。

 

著名商標の保護を一から考えると、防護標章登録制度に頼るのではなく、類似概念自体を、一般的出所混同から具体的出所混同に変更すべきとなるのですが、そうなると、4条1項15号の11号への吸収合併や、特許庁の運用の大幅な変更が必要なので、手を付けられないというが現状だと思います。

 

国際的に、過去の制度である、防護標章登録制度を維持しないといけないところが、日本の商標制度の欠点であり、ここを解決しないと日本法は凄いでしょと、海外に胸を張って言えない状態になっています。

新・商標法概説(その25)

肖像・氏名等(8号)と博覧会の賞(9号)

肖像・氏名等は、相対的不登録理由であり、一方、博覧会の賞は、絶対的不登録理由です。

 

肖像・氏名等

  • 趣旨:他人の人格権を保護するため(混同防止ではない)
  • 肖像、氏名には、著名なものという制限はない。

(理由)人格権の保護規定だから。しかし、ある程度ありふれたものでないことを要する。(※)

  • 一方、雅号、芸名、筆名若しくはこれらの略称については著名なものに限定されている

(理由)これらは届出の方法もなく、自由に名付けでき、認識が困難である。また、すべてを保護するのは保護が過重になりすぎるため。

  • 著名とは、特定分野に属する人に知られているのでは足りず、世間一般に広く知られていることを要する(CECIL McBE事件、力王事件)。
  • 他人の承諾を示すには、承諾書が必要
  • しかし、他人の承諾を得ても、その他人の業務にかかる商品と混同を生ずる虞がある場合には、登録出願を拒絶される(15号)

博覧会の賞

  • 趣旨:博覧会の賞の権利を守り、品質の誤認混同を防止することを目的とする。また、博覧会の賞は多数の者に与えられるものであり、これを1人に登録を許せば、他人が使用することができなくなるから。

 

コメント

面白いと思ったのは、赤の部分ですが、ありふれたものは、3条1項で識別性がないということでしょうか?

3条1項4号は「氏」についての条文ですので、「山田太郎」「鈴木一郎」がありふれているとして、それは、この8号の対象ではないとすると、3条1項6号で拒絶されるという理解なのでしょうか?

(「山田太郎」「鈴木一郎」の場合、多くの同姓同名の人がいるとすると、そのすべてから許可を得ることは難しいように思いますので、実際は3条1項6号で拒絶しても、4条1項8号で全ての当事者から承諾書を必要としても、結果は同じかもしれません。)

また、有名な氏名、芸名なら審査官も分かるでしょうが、有名でないものは、審査で発見は困難です。そうなると、この条項自体、そもそも、異議申立や無効審判に期待している条文なのかもしれません。

 

もう一つ、面白いと思ったのは、青の部分です。他人の承諾を得ても、出所混同を生じると拒絶されるというのは、そうかもしれません。

アパレルなど、デザイナーの個人の氏名を商標とすることが多いですが、氏名を会社に商標登録してもらうことがあります。そのとき、アパレルのデザイナー本人は承諾していても、仮に出所混同を生じるなら、15号に該当して拒絶されるとすると、少し厄介な気もします。

このあたり、出所混同の問題は、所詮は相対的不登録理由なのですから、当時者に任せるという判断が必要なのかもしれません。

 

中国で、「悪意の出願」と思われるものがあり、それに対して異議申立をするときに、該当する類似群に商標権がない場合があります。

周知商標の立証はなかなか困難であり、実務では、商号権や著作権を活用することが多いようです。

ABC株式会社から、株式会社を除いた部分の「ABC」で、他人に異議申立をして、登録を無効にするというものです。

これは、日本でも十分使える論理だと思いますが、日本では商号権違反という話をあまり聞きません。商号権と商標権の抵触する場合についての検討が遅れているのかもしれません。ここは、中国法の研究が必要なところと思います。

 

博覧会の賞ですが、本では絶対的不登録理由=公益保護、というスタンスです。パリ条約11条の博覧会出品の仮保護の規定は、商標法9条の出願時の特例で規定があるので、この条文は純粋に博覧会の賞の権威の保護規定のようです。

新・商標法概説(その24)

4条1項7号(と19号)

 

7号(公序良俗違反商標)は、次の例があります。

  • 征露丸
  • 「特許理工学博士」など、多くの博士号入り文字商標
  • 「特許管理士」
  • 「出版大学」

 

本号については、今、世界的に問題になっている「悪意の商標」が関係します。

「悪意の出願」:健全な法感情に照らし他人が優先的な使用権限を有すると認められる商標を先回りして登録出願した商標」(渋谷教授)

 

これまで、外国周知標章の日本での冒認登録の未然防止のため、7号が積極的に運用されていたが、その点は、平成8年法改正で、19号を作ったので一応解消された。

7号については、「商標の構成に着目した公序良俗違反」型と「主体に着目した公序良俗違反」型があるが、後者は私的領域の問題であるとして、原則として7号の問題ではないとする判例がある(モズライト事件、CONMAR事件)。

 

しかし、ユベントス事件では7号の適用を否定するものの、ターザン事件では7号の適用を肯定するなど、方向性は収束していない。

 

(19号(著名商標の保護):相対的不登録理由)内容:周知+不正の目的

趣旨:従来7号で対応してきた外国で周知・著名な商標の保護を、独立の不登録事由としたもの。

 

コメント

7号の審査基準には、小野先生の本にあった「〇〇大学」「〇〇士」の他に、周知・著名な歴史上の人物名、国旗(外国のものを含む)の尊厳を損なう図形の他、新しい商標との関係で、救急車サイレン音、国歌(外国のものを含む)なども入っています。

 

歴史上の人物についての議論があったように思ったので、商標審査便覧を見ていたのですので、Juventusの事件についての説明が本書の説明とは違った説明で出ています。

http://www.lexia-ip.jp/Papers/yamada/paper_yamada_koujyo.pdf

 

この判例、裁判所のWebサイトでは公表されていません。判例時報を見ないといけないようです。裁判所のWebサイトに掲載されていないということは、先例的意味は少ないということなのでしょうか。

 

別の知財管理誌に出ていた山田威一郎弁護士のJuventus事件の解説は、本書と同じです。そうなると、商標審査便覧の方が、判決の結論とは違った、一般論だけを引いてきているということのようです。

http://www.lexia-ip.jp/Papers/yamada/paper_yamada_koujyo.pdf

 

さて、

19号はまた後で見るとして、7号はそのタイトルの公序良俗違反というものを扱った条項ですので、絶対的不登録理由です。しかし、そこから枝分かれした形で、平成8年に導入された19号(著名商標の保護)は、相対的不登録理由とされています。

 

これは、どうしかことかと思ってしまいます。7号は、総括条項で、絶対的不登録理由や相対的不登録理由という区別を超えて、他に行き場のないものを、ここで拾って解決する機能があったということでしょうか。

 

総括規定というなら、4条1項の最後になっても良さそうですが、7号という中途半端に場所にあったのかは、気になります。

あまり大々的に示して反感を買うのをおそれたためでしょうか。

 

 

 

新・商標法概説(その23)

4条1項1号から6号

絶対的不登録理由の1号から6号の箇所を、順番に読んでみます。

  • 国旗等(1号)
  • 同盟国紋章等(2号)
  • 国連標章等(3号)
  • 赤十字標章等(4号)
  • 監督証明用印章(5号)
  • 公共機関標章(6号)


1号~6号までは、似た規定です。

 

すこし注目したのは、6号の「ISO-Mount-Extender」事件(知的高判平成21年5月28日)です。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/651/037651_hanrei.pdf

「ISO」という国際的な公益団体の著名な名称と類似として拒絶されていますが、ISOを含んだ商標など、世界には沢山あるという主張が認められなかったようです。

 

コメント

1号から6号までですが、商標審査基準が改正され、事例にビジュアルが入ったところです。

その2号~5号までですが、通商産業省告示昭和●●年第●●号とありますが、審査基準にある表示を検索しても出てきません。どこで調べることができるのでしょうか。

 

 

通常、商標の使用開始は、特許庁の審査完了を待てませんので、民間の弁理士の商標調査が重要になります(※)。そのとき、上記の通商産業省告示が整理された状態で提示されていないとすると、明確な商標調査ができません。

現在のように、識別性と類否を中心に審査するのなら、これらの規定があまり出る幕はないのかもしれませんし、紋章や記章は、複雑なものが多いので、抵触することが少ないのかもしれませんが、気になりました。

 

1号の国旗は良いとして、2号~5号の紋章、記章、国際機関の名称(WHO、WIPO、UNESCO)など、通産省告示を番号で検索したり、色々やってみましたが、どこにあるのか分かりませんでした。経験と勘と感覚で判断するしかないのでしょうか。審査官は資料としても持っていると思うので、ちょっと情報公開が少ないかなと思いました。

IOCJOCJETROなどは、6号だそうです。

 

さて、ISO関係の判例ですが、こちらは、通商産業省告示とは特に関係ありません。

著名なものという点ですが、どこで線引きするのかという点が論点なんでしょうが、ISOは著名でしょう。

 

そして、本判例ですが、ISOは著名なのですが、論点は同一又は類似です。

ISOを含んだ商標を、Global Brand Databaseで見ましたが、日本でもISOを含む商標が何件かは登録になっているようなので、なぜこの件は拒絶になるのか考えました。ハイフンであるか、半角スペースでるかなどの微妙な違いが、結論の違いになっているんだろうと思いました。

 

※ 脱線しますが、登録主義法制の考え方として、審査がサーチをして、審査をパスした商標だけを使いなさいという考え方があります。弁理士の商標調査は、完全ではありません。審査官の審査をパスしない商標は、使用してはいけないという考え方です。

審査をパスしていない商標を使用するなんて、信じられないという審査官経験者もいます。

 昔、商標の仕事を始めたころ、商標の審査は2年以上はかかっていました。当然ですが、製薬会社や自動車会社を除き、通常の企業がそんなに待つことはできません。

企業の商品発売のライフサイクルを考えると、待てるのは3ヶ月ぐらい、長くて半年です。

このことから、登録主義が成立するのは、3ヶ月~半年ぐらいで審査が完了することが必要と言われます。少し前は、4ヶ月ぐらいで、登録主義のメリットが出始めましたが、今のように14ヶ月となると、もう登録主義のメリットはありません。無審査にすべきという主張が出てきてもおかしくありません。

 

新・商標法概説(その22)

消極的要件

絶対的不登録要件と相対的不登録要件

 

本書では、3条を積極的要件として、4条を消極的要件としています。そして、4条の消極的要件を更に、

  • 絶対的不登録理由:4条1項1号~7号、9号、16号
  • 相対的不登録理由:4条1項8号、10号~15号、17号~19号

に分けています。

相対的不登録理由については、私益手不登録理由であり、無効審判の除斥期間がるとします(47条)。

 

絶対的不登録理由は、

  1. 国旗等(1号)
  2. 同盟国紋章等(2号)
  3. 国連標章等(3号)
  4. 赤十字標章等(4号)
  5. 監督証明用印章(5号)
  6. 公共機関標章(6号)
  7. 公序良俗違反(7号)
  8. 博覧会の賞(9号)
  9. 品質誤認的商標(16条)

相対的不登録理由は、

  1. 肖像・氏名等(8号)
  2. 周知商標(10号)
  3. 先願(11号)
  4. 防護標章(12号)
  5. 商標権消滅後の登録禁止(13号)-廃止(削除)
  6. 種苗法の名称登録(14号)
  7. 混同的商標(15号)
  8. ぶろう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する商標(17号)
  9. 立体の機能的商標(18号)
  10. 著名商標(19号)

とあります。

 

コメント

一ヵ所、本の誤植を見つけました。2号が相対的不登録理由と記載しているところがありました。

 

さて、47条で除斥期間があるのが、私益的不登録理由と言われていますが、19号がありません。「周知商標+不正の目的あり」なので、公益的不登録理由といっても良いということだろうと思います。

 

網野先生は、3条を一般的登録要件、4条を具体的登録要件(登録阻却要件)と分けていました。

絶対的不登録理由と相対的不登録理由のように、絶対的、相対的という分け方は、欧州のEUTM(CTM)以降だろうと思いますが、今や完全にこの分け方が世界の商標業界では一般的です。

そうなると、3条と4条の絶対的拒絶理由を絶対的拒絶理由として、4条の私益的拒絶理由を相対的拒絶理由と分けるのが、自然です。

次ぎに、抜本的な法改正をするなら、ここに手を入れないといけないだろうと思います。

 

現行の4条を見ると、10号の前後で、絶対的(公益)と相対的(私益)に線が引かれているようですが、相対的(私益)の8号が前にあったり、絶対的(公益)な16号が後ろにあったりして、統制が取れていません。

もともと、16号が最後の条文だったので、非常に重要な条項なんだろうと思いますが、そもそも、3条よりの話ですよね。

是非、読みやすくしてもらえればと思います。

 

日本の無効審判の除斥期間は、私益の相対的拒絶理由にのみ設定されていますが、欧州の異議申立は、公益の絶対的拒絶理由については異議をすることが出来ず、異議できるのは私益の相対的拒絶理由だけです。

 

異議申立は、抵触性の審査が無審査なので、審査の補完という面が強く、絶対的理由の方は、審査官が厳しく判断するという構成です。

欧州の考え方はありだろうと思いますが、権利者には、使用義務があるだけではなく、類似商標の監督義務まであることになります。

 

また、アメリカは使用主義ということもあり、大変の手間のかかる商標制度です。(原理的には優れたものがあります)

 

強い商標(ブランド)を作るには、商標管理にもある程度のコストをかける方が良いと思います。

商標管理の強い会社は、商標(ブランド)の力が強いように思います。

 

合理的で、運用の楽な商標制度は、良い面もありますが、原理から離れ過ぎると、強い商標(ブランド)はできないように思います。

日本も、昭和34年型のキャッチアップ型の商標制度から、先進国としての商標制度に脱皮しないといけない時期であるように思います。