Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その27)

先願(11号)ー相対的不登録理由

先願主義(8条)、商標登録主義の原則から、先願違反のものは登録されない。商品又は役務の出所混同を防止するためでもある。

旧法は、「最先の商標登録出願人」とせずに、「他人の商標登録出願人」としていたので、後願が先に登録されていたときは先願が拒絶されていた。

現行法は、先願も登録され、後願が無効となり、中用権で調整することとした。

 

混同が生じない限り、同意によるコンセントを認める英国法とは異なる。また、先願登録商標が不使用でも、後願が拒絶されるドイツにおける先登録商標の後出願に対する効果とも異なる。

 

類似の判断にあたっては、

  • 使用される商品・役務の取引実情を把握し、総合的に判断する必要があり
  • 出願人のみならず引用された登録商標権の商標権者から、取引実情についての説明書及び証拠が提出されるのであれば、審査にあたっても有効な資料となる(平成19年改訂の9版の審査基準を引用)

 

コメント

商品や商品・役務の同一や類似の説明が、登録要件の11号ではなく、効果の25条や37条1号の説明のところにあるようです。

最近、11号の類似と37号1号の類似は違う概念だという弁理士も多いのですが、小野先生は、その種の議論は一蹴しているようです。

 

網野先生のような一般的出所混同、具体的出所混同という整理もありません。

効力のところを、少し先読みすると、商標の類似とは「混同のおそれ」をいうと整理しています。混同的類似(類似と混同が一体化している類似概念)というそうです。

小僧寿し事件、レール・デュ・タン事件、ポロ事件で、当時者系、査定系とも最高裁で確定した話とあります。

 

小野先生の立場は必ずしも明確に読みとれないのですが、裁判実務と特許庁の判断の乖離は、将来、最高裁大法廷で、これらの関係を整理すべきとあります。

また、取引の具体的実情によるという最近の最高裁判決と、不正競争防止法旧6条の削除で、訴訟実務では商標法よりも、不正競争防止法に重要性が移るとあります。

 

商標登録制度を、将来の信用の受け皿という制度から、使用実態に合わせたものにするというのか、信用の受け皿を重視して、使用実態を無視したものにするかですが、不競法と商標法の整合性を如何に確保するかという意味で、使用実態を無視とはなかなか言えないのではないでしょうか。

 

15号は、著名商標の保護のためのもので、広義の混同やダイリューションを導くためのもので、具体的混同まで11号で見ているようです。弁理士達の説明とだいぶ違うようです。

 

このあたりは、各項目でまた振り返りますが、一点、気になったのが、引用されている審査基準が第9版という点です。引用商標の権利者の取引事情の説明書ですが、同意書一歩手前の記載があります。

同一又は極類似商標以外は、取引事情の参酌をするとあります。手元の最近の審査基準では、ここを商品・役務の類似だけに抑え込んでいます。

平成8年の法改正では、同意書の萌芽があったものを、どこかのタイミングで消し去ったようです。

 

小野先生は、同意書については、良いも悪いも明言していません。登録主義や審査主義を根本から覆すものという考えもありますが、登録主義国の中国や台湾で同意書が認められ、審査主義国のアメリカや旧英国法で同意書が認められることから、原理的に登録主義や審査主義と整合性はあるように思います。

 

特許庁は表向きは、同意書制度は審査基準の改正で行うものではなく、法改正事項という説明方法のようです。そこは分からなくもありませんが、法律上認められたものではないが、同意書は尊重されるという国も多いようです。特許庁は後退しているような気がします。

同意書の替わりに、アサインバックがあるといいますが、これでは日本が特殊な国になり過ぎます。世界の異端児にならないような法改正、法運用することが望ましいと思います。