工藤先生の判例解説(9)
不使用取消審判の使用証拠の提出が、審判段階で出来なかった場合でも、高裁での審決取消訴訟において可能とするものです。すなわち、使用事実の立証は事実審である高裁の口頭弁論終結時までできるというものです(シェトワ事件)。
最高裁の理由は、商標権者による使用証拠の提出は、職権に証拠調べの負担を軽減するためのものであり、審判において使用の事実の証明があることをもって、取消を免れるための要件としたものではなく、民事訴訟法の原則に従うものとしたとされています。
審決取消訴訟の審理範囲については、メリヤス編機事件という最高裁の大法廷の判決があり、高裁での審理範囲や新たな使用証拠の提出が制限されていますが、この制限は、不使用取消審判における使用の事実の立証については、射程外となっているそうです。
そして、現在は、本判例にしたがって、他の判決でも安定した運用がされているとあります。
コメント
何らかの理由で、不使用取消審判で使用証拠が提出できなかった場合で、なんとか審決取消訴訟はすることができ、審決取消訴訟の場で初めて使用証拠を提出することは、ありえるように思います。
特に、海外の権利者などとやり取りをする場合、連絡が伝言ゲームになりますし、海外の権利者としては、本国から離れた日本での使用証拠の収集は、それはそれで困難なこともあるので、審判中にしかるべき使用証拠が出せないこともありえます。
よって、事実審である、知財高裁の口頭審理の終結までは、使用証拠提出可能という権利者を保護するためには、必要なのかなと思います。
ほとんど不使用取消審判では、使用証拠が提出されない場合は、自動的に不使用取消になりますが、審判官が、職権証拠調べで使用証拠を発見して、商標登録を維持してくれることもあるのでしょうか?
特許法152条の職権進行主義や、153条の職権探知主義からすると、やっても良いように思います。
インターネット情報を使用証拠にしても良さそうです。いつからいつまで使用していたのか明確でない点はありますが、現実の商取引の使用証拠の多くが、インターネット上にある時代です。AMAZONとRakutenで売っているのかどうかぐらいは、審判官も職権審査で、見ないといけないのかもしれません。
反対に、そうは言っても、答弁せずで、権利維持の意思がない場合に、そこまでする必要はないようにも思います。実際は、審決取消訴訟に行くまでは、当事者の使用証拠提出で判断するという運用で、今は、十分という気はします。
本判決に戻りますが、審決取消訴訟は、審決の違法性を判断するものとすると、使用証拠の提出がない場合に、不使用であるとして、取消した審決に、違法性はありません。
違法ではない審決を取消すというのは、少し、理解が難しいところです。
侵害訴訟で特許無効が認められ、それが特許法103条の3の条文になったり、審決自体には違法性がないのに、審決が取り消されたりするということは、審判と訴訟が融合してきているということであり、これは大きな流れなんだろうと思います。
昭和34法が前提にしていた状況が、大きく変わっているようです。
特許のメリヤス編み機事件とその後の考え方の変遷については、下記が詳しく解説されていました。
特許無効審判の審決取消訴訟において、審判と異なる主引例に基づく進歩性判断をした知財高裁判決について – イノベンティア
(この事務所の判例解説、詳しいですね。)
●脱線しますが、日本では、権利取得時や更新時に使用証拠の提出や宣誓が条件ではなく、権利行使時も不使用でも差止請求可能(損害がない場合は、損害賠償はできないとしても)という考え方が根強く、唯一、不使用取消審判が「使用」を求めています。
この法制は、既存の大企業有利に設計されているとも言え、これから商標を使用したいスタートアップなどの使用希望者を有利に扱うには、不使用取消を活性化させ、中国のように、不使用商標を、どんどん、取消すしかありません。
CCPITのWebサイトで、2017年の中国の商標出願件数は、574.8万件とあり、不使用取消請求は、5.7万とあります(取消は、2.85万件)。
https://www.ccpit-patent.com.cn/node/5585
中国は多区分制ではありますが、事実上は単区分出願なので、約日本の10倍の出願規模で、人口比例していると思っています(日本の大体10倍)。
この点、不使用取消を比較すると、日本は、年間1000件程度ですので、中国人は、5~6倍アグレッシブです。
その意味で、不使用取消審判は、もっと活性化させる必要があります。
今の日本の法制は、不使用取消審判の一本足打法です。
不使用取消審判件数が、今の倍にでもなるようにすれば、日本の商標やブランド状況が良くなるように思います。
不使用取消審判の活性化は、特許庁の施策として、掲げるべき大きなテーマだと思います。
知財実務は、経験値の問題なので、沢山やればやるほど、得意にはなると思います。
許諾被許諾は、あれはライセンスの皮をかぶった、裏の同意書です。アサインバックは外国人には理解不能な制度です。
それよりは、不使用取消で、自分の権利にする方が有効です。特に、マドプロの時代はそうです。
●知財の世界に舞い戻って2年、その間、外国商標(内外)の仕事をやっています。
日本の判例や審決例の勉強のまえに、海外の基礎的は法制(更新・宣誓の期限や必要書類です)や、海外代理人の英語(だいぶ慣れてきましたが、はじめは、同じことを説明するのに、国によって違う英単語を使うので、面食らいました)との格闘があり、なかなか日本の判例や審決例を勉強するところまで行きついていません。
工藤先生の最高裁のまとめを読むことは、勉強になりました。
短いので、理解するためには、別の文書を見ないと分かりにくいときもありますが、知財の分野はネットでの判例解説も多いので、何とか必要な情報にはたどり着けるのかなぁという感じです。