小野先生の商標法概説(有斐閣)で確認
大塚教授の2つの論文を読んで、使用主義を「登録要件として使用を要求する考え方」としている点と、3条2項を識別性(識別機能)の獲得ではなく出所表示機能の獲得(識別性が無いものはない)という2点が気になりました。
まず、使用主義と登録主義ですが、小野昌延先生の有斐閣の商標法概説で再確認してみました。(1989年の本で古いです。同じ小野先生の青林書院の新・商標法概説を買わないといけないですね。)
この本によると、
使用主義、登録主義の言葉は、主に2種類の使われ方がされているとあります。
まず、一般的な理解(網野、渋谷、豊崎)は、
- 使用主義を、商標権の成立を使用の事実に基づいて定める場合、すなわち、登録に権利設定の効果が与えられていない場合
- 登録主義を、商標権の成立を登録の事実にかからしめている場合、すなわち、登録に「設権的効果」を与えている制度
とあります。小野先生はこちらの理解がよいとします。
なお、逐条解説と光石先生と豊崎先生の旧版の理解は、
- 使用主義を、登録要件として使用の事実を要求する制度(アメリカ、フィリピン)
- 登録主義を、登録に当たって現実の使用がなくても登録を許す制度(イギリス、ドイツ)
とあります。古い考え方なんだと思います。
そして、使用主義は最先使用者主義(先使用主義)になるとあり、一方、登録主義は先願主義となるとあり、
地域的な効力範囲が限定されがちな使用主義よりも、営業の拡大に適した登録主義が有利で、国際的には先願登録主義をとる方向とあります。
この本では、使用主義、登録主義の定義は、商標権の成立についてのもの(前者)であり、登録手続きについての考え方(後者)でないと整理されています。
ちなみに、英国は、前者では使用主義で、後者では登録主義になるとあります。
コメント
この有斐閣の本が書かれたのが1989年です。その後、商標権英国はCTM(EUTM)に入り、商標権の成立についても、登録主義になっています。
また、アメリカでは、登録制度に基づく商標権とコモンローに基づく商標権は別の権利という説明を聞きますので、アメリカでも登録制度は設権的です。本国登録ベースのときは、5年目~6年目の使用宣誓までは使用がなくても登録取得が可能です。
そもそも、登録=権利があるという意味では、登録制度のないミャンマーのようなところを別にすると、すべての商標登録制度のある国が登録主義ではないかと思います。
登録主義、使用主義という整理を海外であまり聞かないように思いますので、使用を登録の条件としている「先使用主義」と、使用を登録の条件としていない「先願主義」という整理で、十分なように思います。
一般的な先使用主義、先願主義という言葉は大切にして、学説に近いような、登録主義、使用主義という言葉はあまり使わない方が良いように思うのですが、どうでしょうか。