Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その48)

詰め替え問題

並行輸入に随伴しがちということで、詰め替え問題がここで説明されています。

判例としては、

  1. ハイミー事件(最高裁判決)
  2. ヴァンホーテン事件
  3. STP事件
  4. マグアンプ事件
  5. バイアグラ事件

を紹介しています。

この中で、ヴァンホーテン事件は、「包装し直すことによって品質が変化することがあり・・・他の物を混入すること容易であるから」と詰め替えによる品質変化の点を指摘しているとありますが、

判例は、この品質変化の論点よりも、

真正商品の無断の小分け、詰め替え、再包装は、商標を使用できる(付することができる)者は、商標権者のみであるという理由で商標権侵害が成立するとあります。

 

また、リソグラフのインクボトル事件では、使用済みの原告商標が表示されているイングボトルに自ら製造するインクを充填して販売した行為が商標権侵害になるとあります。

 

コメント

小分けなどの詰め替えが、侵害になると理解はしていましたが、品質が変化するためと思っていました。

判例は、その前の段階というか、商標を付することができるのは、商標権者だけであるという点で、考えているようです。

 

それはそれで理解できますが、例えば、ハイミーを小分けしたとして、小分けしたもの(袋)に、ハイミーと記載せずに、例えば、店頭POPや価格表(プライスカード)のようなものにのみ、ハイミーと記載した場合は、どうなるのかなと思います。

 

例えば、八百屋さんのようなところで、買い物をするときを想像してもらって、店主がハイミーを販売していて、POPにハイミーと(手書きなどで)記載するのは、小分けはしていないのですが、このPOPの作成行為は、ハイミーを販売するためのものであり、商標権者の利益にもつながるものであり、特に問題ないとされています。

 

小分けだけして、POPや価格表にだけハイミーと記載したときも、おそらく、結論としては判例と同様に、商標権侵害と構成すべきだろうと思いますが、そのときは、品質の論点に頼らないといけないのかもしれません。

 

以前の会社で働き始めたとき、家電量販店の上新電機(当時は量販店のTOPでした)が、店頭プライスカードにメーカーのブランドロゴを印刷するソフトを開発するということがありました。

これに対して、上司がカンカンになって怒っていました。言葉としての商標を、商品を言及するのに必要な範囲で使用する(普通書体で「パナソニック」と記載する)のは問題ないが、ブランドロゴを簡単に再生するなど、言語同断という主張です。

 

判例の詰め替え問題で出てくる商標は、ロゴは色々あるのでしょうが、このロゴと非ロゴ(普通書体)という議論は、重要なように思います。

 

日本の量販店のチラシにメーカーロゴがでますが、あれは日本の風習(商習慣)であり、上に紹介した上新電機のプライスカードプリントソフトに近いものがあります。

海外では、チラシにメーカーロゴは出しませんし、プライスカードにもメーカーロゴは記載せず、すべて大文字でブランドを記載しているのが普通です。

 

ロゴには著作権的な要素もあり、商標権者の承認なく、ロゴを使うとダメ(もしかすると、訴えられる)という感覚があるようです。

 

日本の家電のチラシは、模倣品もなく、系列店ではなく量販店でも真正品が必ず手に入った、これまでの日本だけの商習慣です。日本でもネットでは模倣品が急増していますが、もし、量販店でも模倣品が出るようなことになれば、チラシに自由にロゴを入れるような商習慣も吹っ飛ぶのではないかと思っています。