Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

中国の偽ワクチン

最高人民検察院最高検)の発表

2021年2月16日の朝日新聞に、中国での偽ワクチンの摘発の話が掲載されていました。

内容は、

  • 新華社通信の報道
  • 新型コロナウイルスのワクチンの偽物
  • 最高人民検察院最高検)が発表
  • 中国各地で21件を立件。70人の逮捕者
  • 一部は香港経由で海外にも
  • この偽物のワクチンは、ラベルは別のグループが偽造して作った
  • 中身は生理用食塩水やミネラルウォーター
  • この偽造グループは、5.8万本を製造、販売して、約2億9000万円の利益
  • 中国では、昨年6月から医療従事者に緊急接種

とあります。

 

コメント

やっぱり出てきたかという感じです。2億9000万円で5.8万本ということは、一本あたり5000円です。そんなものかなという金額です。このぐらいの金額なら売れると思います。

また、中国でワクチンが承認されたのは2020年12月からとありますが、医療従事者に先行して接種していたようですので、横流し品があってもおかしくないと、購買者が考える土壌があったことになります。

 

それはさておき、本件は刑事事件です。このワクチンを打っても健康被害はなさそうですが、どのような法律違反になるのでしょうか。

 

記事で紹介されていた一部が香港で販売されたものは、ラベルが偽造されたものですので、ラベルには製薬メーカーの商標権があれば、商標権侵害になりそうです。

 

昔、中国への商標出願が盛んになったころには、中国で商標権侵害をすると刑罰が恐ろしい。医薬品やお酒などは、商標権侵害で死刑になることがあると誠しやかに噂されていたのですが、おそらくそれは、偽医薬品で健康被害があったり、偽酒がメリルアルコールであったなどですが、これは商標権侵害というよりは、別の犯罪になるようなものです。

 

ただ、中国の商標法を見ていても、刑事罰の条文はありません。

調べていると、商標法に刑事罰があるのではなく、刑法に商標権侵害の罪がありました。

20210301_jp.pdf (jetro.go.jp)

十七、刑法第二百十三条を次のように改正した。
登録商標権者の許諾を得ずに、同一種類の商品、役務にその登録商標と同一の商標を使用し、情状が重大な場合には、3 年以下の有期懲役に処し、罰金を併科又は単科する。情状が極めて重大な場合には、3 年以上 10 年以下の有期懲役に処し、罰金を併科する。」

十八、刑法第二百十四条を次のように改正した。
登録商標を詐称した商品であることを明らかに知りながら販売し、違法所得額が比較的大きい又はその他重大な情状がある場合には、3 年以下の有期懲役に処し、罰金を併科又は単科する。違法所得額が巨大である又はその他極めて重大な情状がある場合は、3 年以上 10年以下の有期懲役に処し、罰金を併科する。」

十九、刑法第二百十五条を次のように改正した。
「他人の登録商標の標識を偽造し、無断で製造或いは偽造し、又は無断で製造された登録商標の標識を販売した場合であって、情状が重大なときは、3 年以下の有期懲役に処し、罰金を併科又は単科する。情状が極めて重大な場合は、3 年以上 10 年以下の有期懲役に処し、罰金を併科する。」

 刑罰が取り立てて重い訳ではなさそうです。

 

商標権侵害の罪ですが、「情状が重大な場合には」「情状が極めて重大な場合には」という要件が付加されており、単に商標権侵害をしただけでは刑事罰の対象ではないことになっています。

 

条文上は日本法の方がより厳しい表現です。

第七十八条 商標権又は専用使用権を侵害した者(第三十七条又は第六十七条の規定により商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

特許の非親告罪化もそうですが、(実際は発動はまれですが)日本は刑事罰の規定に頼り過ぎです。 国民に対する威嚇効果が高く、経済活動を萎縮させるので、経済立法としてはそれほど望ましいものではありません。

米国などでも、最近までは、特許権侵害は民事的救済だけで、刑事罰がなかったと思います。

一番の問題は、刑事罰に頼ると、民事が強くならないことです。日本の立法者は考え直す必要があるように思います。

 

刑法の執行をする警察としても、中国のように刑法に商標権侵害がある方が、分かりやすいように思います。個別の法律で刑事罰規定があると、警察の人は、それを全部理解する必要があり、実際、困難です。

 

省庁縦割りの弊害ではないでしょうか。