日本酒の高額転売と品質管理
現状では規制困難
2021年5月22日の日経に、生産量が限られる日本酒の高額転売が相次ぎ、蔵元が頭を悩ませているという記事がありました。
日本酒の高額転売、悩む蔵元 流通過程で品質低下も: 日本経済新聞 (nikkei.com)
- N0.6(新政酒造)の火入れをしない生酒は、生産量が限られ、入手困難
- 約90の特約店にのみに販売
- Xーtypeの定価は3,056円
- スーパーや量販店への流出あり
- ネットでは1万3,000円前後の値
- 他に、高木酒造の「十四代」、旭酒造の「獺祭」も同様の問題
- 酒類販売の許可があれば、転売に違法性がない
- 個人間取引も継続性がない限り違法ではない
- 不正転売禁止法のある興行チケットとの違い
- しかし、販売方法や温度管理に問題
- 企業イメージにもマイナス
とあります。
コメント
特約店とは、取引契約などで品質管理の義務を課すことができますが、その先の販売店や個人となると契約で義務を課すことは困難です。
このNo.6のX-typeは、アマゾンでは19,800円で販売していました。価格.comの最安値が、13,800円です。
しかし、本来の特約店では、3,056円のはずです。
日本酒の有名店のサイトでチェックすると、3,000円(税込み)とあります。
ネットで売っているものは、暴利をむさぼっているようです。
商標ライセンス契約では、品質管理を課すことは可能です。ただ、契約の及ばない範囲になると、契約による統制では無理があります。
品質管理を徹底していない業者には、商標権侵害で裁判をすることも可能だろうと思いますが、消尽説が制約要因です。
消尽説、用尽説は、特許で出てきた理論で、一旦、権利者本人が製品を製造して、市場においた製品については、特許権侵害を問われないというものです。
実施行為独立の原則もあるので、本来は、無許可の販売者、特許製品の使用者(実施者)に対しても、特許権を主張できるのですが、自ら特許製品を販売した場合は、権利者はすでに、利益を受けているので、販売者や使用者(実施者)に対して権利侵害追及うできないという考えです。
しかし、このNo.6の事例では、ブランドイメージの低下などで、商標権者が困っています。
商標では、消尽説は、欧州域内消尽(域外非消尽)などで語られることがあり、商標でも当たり前に使われますが、域内消尽の話と、今回の話を混同していはならないと思います。
No.6の販売においては、特約店は、店内でPOPを掲出したり、Webサイトで定価販売したりしています。これは、温度管理や鮮度管理の取引契約に裏打ちされたものです。
一方、アマゾンや価格.comの販売店は、独自にWebサイトを作成して、No.6の写真を掲載して、No.6の商標をWebサイトに掲載しています。これは、権利者の許可を取ったものではありません。おそらく、アメリカ人なら、商標権侵害で訴訟をします。取引契約の手当てと、パッケージやラベルへの転売禁止の文言があれば、日本でも勝てるのではないでしょうか。
また、裁判までしなくても、警告書を出すべきです。アメリカ人ならやります。
高額で販売しているにも関わらず、温度管理をしていませんので、社会的にも認める必要はほとんどありません。
商標では消尽説、用尽説は、適用されないという話を聞くことがあり、まさにこの事例のためのものだろうと思いました。