Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

台湾の小室哲哉ビル

法的には考えさせられることが多い

Friday Digitalで、台湾で小室哲哉さんの名前など日本人の有名人の氏名を使った建物名称があるという記事がありました。

「小室哲哉マンション」…!?台湾で日本人名ビルが乱立の謎 | FRIDAYデジタル (kodansha.co.jp)

日本の著名人や歴史上の人物は、台湾でも有名。「表参道」「新宿」など地名もマンション名として使われているとあります。

 

コメント

この話は、捉え方が少し複雑です。

 

●まず、単なる名称の拝借の話があります。日本でも欧米の有名な地名を冠したビル、お店の店名など五万とあります。基本的には模倣は次の創造のために必要なものであり、模倣自体が悪いのではありません。

不正競争防止法や商標法に反して初めて、権利侵害の話になります。

 

●また、マンション名、住宅街の名称、ビル名は、商標法が予定する商品やサービスではありません。

ラーメン店、マッサージ店、カフェが、他人に対する便益の提供で、商標法が予定するサービスであるのに対して、「不動産」の名称は不正競争防止法は問題になりえますが、商標法上の商品やサービスではなく、商標登録の対象ではありません。

間接的に商標権侵害ということはありえても、直接的な商標権侵害にはなりません。

 

商標法は、歴史的に、産業革命や交通革命が起こり、国内市場が一市場になったことにより、商品の転々流通というものがおこり、それに対応するために、地域的な不法行為不正競争防止法での対応ではなく、全国的な商標登録制度を設けたという歴史があります。

 

不動産は、土地及びその定着物ですので、そもそもが住所と不可分であり、転々流通しませんので、商標法とはなじみません。

 

そのため、サービスマークが導入された現在においても、一番近い第36類でも、建物の管理、建物の貸与などは、サービスですが、「建物」自体は、商品でも、サービスでもありません。

 

基本は、建物の名称は、自由に名づけることができます。

しかし、有名なものを借用すると、不正競争になることはあります。

森ビル以外が、「虎ノ門ヒルズ」でないビルに、勝手に「虎ノ門ヒルズ」と命名するなどがあると、不正競争になることがあり、これは差し止めの対象になります。

 

また、この偽の「虎ノ門ヒルズ」が、建物の管理や、建物の貸与をしたときに、パンフレット、納品書、請求書に、「虎ノ門ヒルズ」と記載したとすると、間接的ではありますが、商標権侵害になると思います。

商標法による間接的な保護です。 

 

●もう一つ、商標法の話題ですが、今、日本の商標法が厳しすぎると話題になっている、氏名の問題があります。

商標法4条1項8号では、他人の氏名と同一の場合は、商標登録のためには、他人の了承が必要になります。その氏名が、自分の氏名であっても、すべての他人の了承が必要である点で、無理なことを要求するルールであると話題になっています。

 

人格権保護の規定であり、生存中の人にしか適用がないとされています。現在生存中の人物としては、小室哲哉さん、久石譲さんですね。織田信長徳川家康夏目漱石は、故人ですので、同意は不要です。

桜木花道は、スラムダンクの主人公です。いわばミッキーマウスのような空想上の人物名称です。4条1項8号の問題ではありませんが、出所混同の問題は生じますので、他の条項で拒絶になる可能性はあります。

 

氏名と不登録理由の台湾商標法を見ていると、次の拒絶理由の条項がありました。

第30条

13.他人の肖像又は著名な氏名、芸名、ペンネーム、屋号があるもの。但し、
その同意を得て登録出願した場合は、その限りでない。

 20180628_2139171811_20180628-新商標法(2016年12月15日施行)-j.pdf (chizai.tw)

 

「著名な」に限定している点で、承諾書が必要範囲が制限されており、すでに問題はクリアーしています。

人格権保護と簡単に片付けたした、日本法の説明が間違いなのですが、台湾はさすがです。