Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標登録表示Ⓡ再考(3)

ⓇとTMと虚偽表示

先日、ⓇやTMを検討する必要があり、近くにある資料を見直していました。以前書いた、商標登録表示Ⓡ再考の、続きとなります。特に、注解商標法を再読しました。 

新・注解 商標法〈下巻〉第36条~第85条 事項索引・判例索引

新・注解 商標法〈下巻〉第36条~第85条 事項索引・判例索引

 

 

73条(商標登録表示)、74条(虚偽表示)のところです。

日本の商標法(というか、ほとんど全世界中の商標法)で、商標登録表示Ⓡは、励行することが推奨されています。

理由もほとんど同じです。権利があることを明示して、侵害者に警告を与え、侵害行為を思い留まらせるということです。

 

ただ、例えば日本では、商標登録第〇〇〇号と記載しないといけないとなっています。海外でもRegistered Trademarkとか、その各国語の表示が各国毎に決めらています。

 

アメリカを中心に、発達したⓇ表示は、日本では正式な商標登録表示ではありません。(規則を変えて、米、中、その他の国のように、Ⓡを正式な商標登録表示にすべきという論点は残っています。)

 

では、日本で、登録がないにも拘わらず、Ⓡを表示した場合に、これが虚偽表示になるかどうかですが、従来の説明では、Ⓡを商標登録表示から外したのは、海外(主にアメリカ)から、日本では商標登録が取れていない商品が入ってきた場合にそれを虚偽表示にしないために、Ⓡを商標登録表示から除外したと説明があり、これがⓇを商標登録表示としなかった立法理由とあります。

虚偽表示にはしたくなかったようです。

 

しかし、注解商標法の説明では、74条の虚偽表示の説明のなかでですが、主に、平成4年のKRISPIES事件(民事事件)の傍論を引用して、現在の日本社会ではⓇはすでに商標登録を取れているものとして理解されており、商標登録がない場合にⓇを付けるのは、虚偽表示ではないかという記載がありました。

(この点は、良く見ると、以前の注解商標法からそのように記載していました。)

 

Ⓡを商標登録表示から外したのは、(海外からのⓇのある流入商品を)虚偽表示にしないためであり、一方、Ⓡを付けると虚偽表示なるという判例(民事ですし、傍論なので、先例的価値はなさそうですが)があるというのは、明らかに矛盾しています

 

もちろん、虚偽表示が、虚偽表示の罪に、必ずなる訳ではありません。刑事ですので、故意が必要ですし、違法性阻却自由が沢山ありそうです。

そもそも、間違ったⓇが理由で、虚偽表示の罪になったとは、日本で聞いたことがありません。

 

ちなみに、注解商標法では、以前の版も、最新版も、刑事での適用は罪刑法定主義の関係で疑問なしとしない。今後の検討がまたれるとしているだけで、明確な答えがありません。

 

Ⓡのような多くの商標使用者に多大な影響を与える論点を、放置しているのは、商標立法者の怠慢と云われてもしかたないなと思います。

 

方法としては、1)昔とどうように、Ⓡはゴミみたいなもので無視するとするか、2)Ⓡを正式な商標登録表示とするかです。

 

おそらく流れは、後者の正式な商標登録表示とする方だと思います。そうなると、正式なものですので、間違ってⓇを表示してしまうと、明確に、虚偽表示にはなります。

次は虚偽表示の罪になるかどうか(警察・検察があまり沢山ある微罪を追求できるのか?特に、海外からの個人輸入品やそのネット販売をどうするのか?)などの論点になります。

 

●次に、まった違う話題ですが、最近、時々見る「TM」の扱いです。

日本では、アメリカ的に理解して、TMは出願中のもの(コモンロー上の商標権の主張)と理解している人が多いのですが、海外、特に欧州ではTMとⓇを区別していない感じです。

 

ルクセンブルクが本社のDennemeyerのWebサイトに説明があります。

Dennemeyer

https://www.dennemeyer.com/de/insights/overview/news/the-trademark-symbols-r-and-tm-why-when-and-how-to-use-them/

これによると、ドイツでは、Ⓡはではなく、TMも「商標登録」を取得したあとでないと、つけてはいけないという判例があるとしています

商標登録を取得している点について、紛らわしいのは、ⓇもTMも同じという考え方です。そうかもしれません。

 

また、アメリカのTitan Blogにも、国際的なMarkingでは、TMでも商標登録が必要な国がある(例、フランス)という記載があります。

U.S. and International Trademark Marking: Use TM, SM, ®…or None of the Above? - Trademark Titan™ Blog

 

こうなると、出願中だからTMでとか、事実上の使用だからTMでいう、逃げはできません。正確に実際に必要な商品について、必要な商標をとらないとⓇもTMもつけられないとなります。

 

ⓇやTMと虚偽表示の関係は、いままでは各国ともそれほどシビアに運用していなかったのですが、今後、シビアな国が出てくるような気配もあります。

 

そうなると、方向性は、2つで、1)ⓇもTMもつけない。あるいは、2)徹底的に、商品単位での権利取得に拘って、商標登録の取得に励む(類似群コードに守られてきた、日本企業の不得意なところです)。

 

①については、日本でⓇを正式な商標登録表示として採用するのは大変よいこととしても、さらに、②については、Ⓡを外す方向ではなく、全世界で徹底的に商品単位で権利を取ることをするのが、一番筋が良いように思いますが、どうでしょうか?

 

企業の商標担当者としては、②については、いっそ表示しないと選択したくなりますが、そらは、逃げでもあります。

Ⓡを表示しないと、アメリカ、フィリピン、スイスなどの国で、損害倍書を得られない可能性がある等もあり、悩ましいところです。

商標権の棚卸を徹底して行い、敢えて困難な②の道を取るのが、強い商標管理につながるように思います。

 

AppleNIKE等に触発されたのか、一部の著名商標は、Ⓡを敢えて外しています。(米国判例で著名商標は、Ⓡがなくても、損害賠償を認められることがあるようです

著名商標なら、それもひとつの方法です。

これは、今始まった話ではないですが、大きな商標管理上の論点です。

 

nishiny.hatenablog.com

 

 

nishiny.hatenablog.com

 

 

nishiny.hatenablog.com