大変勉強になりました
2020年1月号の知財管理に、弁理士の大野義也先生が「商標不使用取消請求の答弁書資料の総括ーASEAN及びBRICS-」という論説を発表されています。
不使用取消請求を受けた時にどのような資料を提出すれば、使用があったと認定されて、不使用取消を回避できるかということを、ASEAN10ヵ国とBRICS5ヵ国に調査をしたというものです。
「アンケート内容」と「その結果」と「結果の総括」となっています。
<アンケート内容>
次の書類が使用証拠となるかどうか?
- 製品パンフレット又はウェブサイトの写し
- 通関書類の写しと製品パンフレット
- 発注・納品に関する一連の電子メールの写し
- レシート(売上表)と製品写真
- 現地販売店の写真(商品の陳列状態が分かるもの)
- 完成品に組み込まれた状態の製品(部品)の写真と完成品の販売資料
- 展示会の写真と(展示会の)ガイドラインの写し
- 販売認可申請の写し(販売がペンディングである理由の証明)
- 現地新聞紙面における所有権宣言の写し
- 現地販売店・現地需要者の陳述書
4.と5.は、不使用取消が請求される前の、証明が必要な期間中のものを事前に仕込んでおくことが前提のようです。
その他、
- 1セットで良いか、複数年が必要か?
- 商品単価や購入者名のマスキングは可能か?
なども質問されています。
<結果と結果の総括>
個々の国の細かい説明は論考をみていただくとして、総括としては、どの国でも通用するのは、
- 3.「発注・納品の電子メール写し」、4.「レシートと製品写真」、5.「現地販売店の写真」は、全ての国で証拠資料と認められる可能性が高い
- 2.の「通関書類の写しと製品パンフレット」は、大半の国では使用証拠になるのですが、インドネシアやブラジルでは、該当地の領域内に実際に入ったことを示すために輸入関係書類が必要であったりするようです。
また、追加質問については、
コメント
論考を読む前は、国内と違って海外のカタログは期限がなかったり、英語のグローバル版しかないことも多いので、当然、インボイス、船荷証券(B/L)の2が最も重要と思っていました。
しかし、そうとばかりは言えないようです。より現地での使用を証明できる証拠が望ましいようです。
また、実務上一番重要な中国では、「販売契約書」と「発票」のセットが良いそうです。ここにも、日本からの輸出が確認できるインボイスよりも、現地使用が確認できる書類が重視されていると見ることができます。
さて、企業で商標実務をしていたのはだいぶ前なのですが、その時の記憶では、日本の不使用取消は(日付の入った)カタログがあれば十分だと思っていました。どちらかというと、商標の同一性の方に問題があるケースが多かったように思います。
当時でも、外国商標権利は、国内権利よりもだいぶ沢山保有していたのですが、ほとんど不使用取消を受けたことがありませんでした。偶にあっても、もし権利が無くなっても商売には問題のない防衛目的の分類程度でした。これも再出願すると簡単に登録になったりして、不使用でもめたケースがほとんどありませんでした。
中南米のアンデス条約加盟国など、まだ、更新に使用証拠が必要な国も多少あり、その使用証拠を集めるのに苦労した程度です。
しかし、特許事務所に入ってみると、中国を中心に日常的に不使用取消が頻発しています。特許事務所の提示できる選択肢として、交渉よりも不使用取消が優先される面があるのだと思いますが、それを差っ引いても、大変な状態になっているなという気がします。
英国は別として、欧州の大陸諸国では昔は重複権利なんか当たり前でしたが、今はEUTMが機能しており、異議と不使用取消は二本柱になっています。
世界的に商標法条約で、更新時の使用証拠の要求がNGになったため、不使用取消は商標の保護の根拠である使用を確認する手段として、一本足打法になっていますので、非常に重要です。
そういう意味で、大野先生の論説は有益な情報だと思いました。特に、4.5.のような現地での使用が分かる証拠を事前に集めておくという提案は納得できます。
特許でいう発明ノートに変わるものが、商標の使用証拠ですので、これをどうして確保するかについては、もっとプロアクティブになるべきです。
専門家である弁理士側からも企業に発言をする必要があり、このようなアンケート調査は意味があるなと思いました。
ちなみに、どの代理人を使っておられるかも、参考になりました。