Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

AINUの商標出願

中国の個人が出願

2020年6月4日の日経夕刊に、中国広東省深圳市の個人が日本で「AINU」を商標登録出願しているという記事がありました。

中国から「アイヌ」出願 特許庁で審査待ち、批判も :日本経済新聞

北海道新聞にも関連記事がありました。

中国から「AINU」商標出願 アイヌ民族関係者ら困惑:北海道新聞 どうしん電子版

  • 3月28日付の出願
  • 特許庁は「(アイヌ民族のローマ字表記とすれば)民族名だけを商標登録出願するケースは聞いたことがない」
  • 東京の弁理士代理人
  • 代理人は「個人から現地の特許事務所を介して依頼があり、事務手続きを行っている。商標がアイヌ民族を指すのかは分からない」

コメント

さすが北海道新聞弁理士にまでコメントを求めています。

民族名を示すときは、通常はカタカナで「アイヌ」と記載します。「AINU」とあると何かの略号、Abbreviationなのかなと思ってしまうかもしれません。

ただ、「アイヌ」民族のことを英語で書くなら、確かに「AINU」ですね。

 

J-PlatPatで見ると、次の商標のようです。

・出願番号:商願2020-34136

・指定商品:

「携帯電話機用ケース,スマートフォン用保護ケース,タブレット型コンピュータ専用保護ケース,スマートフォン用保護カバー,電池,電源アダプター,データ送信用ケーブル,携帯電話機用カバー,タブレットコンピューター用カバー,マウス(コンピュータ周辺機器),ラップトップ型コンピューター専用バッグ,ノートブック型コンピュータ用カバー,はかり,デジタルフォトフレームスマートフォン用保護フィルム,携帯電話機用の無線ヘッドセット,ノートブック型コンピュータ専用スタンド,タブレット型コンピュータ専用スタンド,携帯電話機専用スタンド」

 

お土産としてのスマホケースを念頭に置いているでしょうか?

 

おそらく、商標法3条1項3号の記述的商標であるという理由や、4条1項7号の公序良俗違反の条項で特許庁は拒絶するのだろうと思います。

 

しかし、3条1項3号(や4条1項16号)の場合は、商品との関係がありますが、国な地域などの地理的名称なら「産地」ですが、民族名については「品質」になるのか良く分かりません。

 

一方、商標審査基準の4条1項7号ですが、通常のこの条項の適用は、非道徳、卑猥、差別的など言葉自体が公序良俗違反の場合の拒絶の根拠とあり、この場合には当てはまりあせん。

一番下にある(5)登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認しえない場合、にでもするのでしょうか?

 

最終的には拒絶にはなるとは思いますが、ローマ字表記の論点と、どのような根拠で拒絶するのかという点は、注意して見ておきたいなと思いました。

 

ちなみに、個人で、日本にまで商標出願するぐらいなので、中国でも多くの出願を出している人なのかと思い、CNIPAの商標局の中国商標網で調べたのですが、ヒットしませんでした。中国で商標出願することもない個人が、日本にまで出願するのか?と思いまいました。良く分かりませんね。

DX(デジタルトランスフォーメーション)

DX改革が明暗を分ける

2020年6月4日の日経の一面TOPに「DX改革 企業明暗ーコロナで鮮明に」という記事がありました。

DX改革、企業明暗 コロナで鮮明に ウォルマートやニトリ、落ち込み補う JCペニーやレナウン、実店舗頼み :日本経済新聞

  • デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業の明暗を分ける
  • 米国企業はDXが進んでいるので、ウォルマートやディズニーは、店舗やテーマパークなどのリアルな落ち込みをネット販売や動画配信で補った
  • コロナでは、Zoomの他、ネット通販、ITは恩恵
  • アマゾン、アルファベット、フェイスブックウォルマート、ターゲット、メキシコ料理のチポトレが好調
  • 日本でもニトリマクドナルドが好調
  • DXの遅れは致命的な経営リスク

とあります。

また、同日の「きょうのことば」では、DXを紹介しています。

DX ビジネス・生活の質、ITで向上: 日本経済新聞

  • スウェーデンウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が、2004年に提唱
  • ITを活用したビジネスモデルの変革や、それに伴う業務、組織、企業文化などの変革も指す

事例としては、

  • 実店舗から、ネット通販へ
  • オフィス業務中心から、テレワークへ
  • ネット通販の販売動向分析
  • データのAI解析
  • ハンコの承認プロセスの廃止

とあります。

 

コメント

先日、BSIのズームのセミナーに参加したのですが、そのとき陶山教授がDXのことを話されていた。恥ずかしながら、この時、はじめてDXという言葉を知りました。Degital Transformationで、なぜだかDXとなるようです。

 

DXの代表例は、アマゾンのリコメンド機能のことであると説明されていました。また、2018年に経済産業省がDXの推進を提言しており、近年話題の言葉だったようです。

このあたりのことは、次のページにもあります。

【DX入門編①】今更聞けないデジタルトランスフォーメーションの定義とは? : FUJITSU JOURNAL(富士通ジャーナル)

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?言葉の意味を事例を交えてわかりやすく解説 | 株式会社モンスター・ラボ

 

新型コロナで、テレワークが突然普及して、これまで業務を見直す必要があったり、また、DXが進んでいる会社は新型コロナの影響が最小限、あるいは反対にプラスになっているので、がぜん脚光を浴びているようです。

 

商標業界でDXというと、COTOBOXやTORERUのようなAIを使った商標類似判断、出願のサービスがまず思いつきますが、もう一つ、マークアイやブライツコンサルティングのデータベースもあります。

企業でデータベースを入力するのは、時間がなかったり、ミスが発生したり、あまりお薦めできません。

それよりは、特許事務所や専門業者にデータ入力をしてもらう方がベターです。

ただ、特許事務所は、PATDATAなどのデータベースは持っているのですが、顧客にネットで公開できる仕様になっていないのが残念です。

JPDS|特許管理システムPATDATA

 

ID・PWで、顧客も閲覧可能、CSV出力可能になっていれば、顧客側で入力が不要になります。JPDSも、DXの一つとして、対応しくれないものかと思います。

 

日本電産の永守会長のテレワーク観

テレワークは好機

2020年5月22日の朝日新聞日本電産の永守会長兼CEOへのインタビュー記事がありました。

記事は、リスクへの対応や、テレワーク、今後の世界のあり方、とがった人材の育成と、多方面な内容なのですが、一番のポイントはテレワークの見方です。

永守さんは、新型コロナで人々の働き方が変わるとして、テレワークは好機であり、自己管理力を高めて、あしき慣行を変えるものになるとしています。

 

具体的には、

  • テレワークのメリット:若い世代が使いこなしている。大きな会議も時短できた。これからは出社は週一でよく、住まいも都心でなくて良い。広い仕事場が確保できる。海外担当なら時差を生かせる。
  • テレワークによる変革:日本人の指示待ちには合わないと思っていたが、テレワークで上司の顔色を見て仕事をする指示待ちから変われる。日本人は意見を言わない。外国人にディベートで負ける。
  • テレワークと自己管理:これからの人事評価は、Proactive(積極的に自分で仕事を探す)、Professional(専門性を磨く)、Productive(生産性を高められる)。これからは20代の課長もありえ、日本の悪しき横並び主義を変えるきっかけになる。

というような内容です。

 

コメント

対談なので、話の筋や主張がつかみにくいところがあります。

永守会長は、これまではテレワークには反対だったようですが、新型コロナを契機にいち早くテレワーク賛成を表明して、発言しておられます。

その考え方の一環が出ているのではないかと思いました。

 

テレワークの一番重要な点は、指示待ち型ではなくなり、自ら問題点を見つけて、自ら主体的に動き、積極的に発言する、プロアクティブな仕事に変化する契機になるというものです。

そのために、従来以上に個人は自己管理が必要ということのようです。

 

特許事務所なら、事務所で明細書を書くのも、自宅で書くのもあまり変わらないところがあり、通勤時間が削減されるというメリットがあるのかな程度に思っていましたが、

通常の会社の、営業、商品企画、経理、人事など、テレワークでどうなっているのかと思いました。

 

人と会うのが仕事だった人達が、人とできるだけ会わずに仕事をしようとなると、ZOOMとかの活用はあるとしても、単に通勤時間を削減するレベルではない仕事の抜本的な見直しが必要になりそうです。

 

企業には雑用が山のようにあり、その処理は会社に行かないとできないことが多く、それをしていると時間が取られ、本来やるべき中心となる業務をやれるのは、雑用の合間か残業時間という人が多かったのではないかと思います。

 

雑用の整理が必要で、創造的な破壊が必要なところだと思います。

あるいは、今から、一から、業務を作るとして、現在のIT技術を前提に、仕事のやり方を構築するというのが、方法かもしれません。

 

緊急事態宣言も終了して、新しい日常に入っていますが、特許事務所も単に通勤がなくなり時間のメリットがあるというだけではダメなような気がします。

 

ZOOMやSLACKなどのITを使って、仕事を作って行くところからスタートになるように思います。

 

まずは、従来型の仕事の効率化ですが、新規の仕事を作れないものかと思います。

 

 

茨城空港の英文名称

Tokyo Ibaraki International Airport

2020年5月29日の朝日新聞に、茨城空港の新愛称案として、「Tokyo Ibaraki International Airport」が選ばれ、知事に答申され正式決定される見通しという記事がありました。

  • 同空港の正式名称は「百里飛行場
  • 国内向けには「茨城空港」のまま
  • 開港10周年
  • 訪日外国人客への知名度向上のために愛称変更を検討
  • 海外セールに「東京」は必要

とあります。

 

コメント

空港は、正式名称とは別に愛称を持つようです。

J-Plat Patで見ましたがが、「空港」というもの自体の役務は発見できませんでした。空港のマネジメントとか空港の工事などの役務はあるのですが、空港自体は役務ではないということでしょうか。

あるいは、空港は本来、公的なものだからでしょうか。

 

さて、茨城県なのに「Tokyo」が冠されるようです。

東京駅まで、バスで1時間30分~40分程度のようです。

東京駅と成田空港は、62分~65分とあります。

茨城空港の方が多少は遠いようですが、何とか成田とそれほど変わらないと言えるかもしれません。

 

成田空港ですが、新東京国際空港(New Tokyo International Airport)と言っていたはずと思って調べると、2004年に新東京国際空港という名称を止めて、正式名称は「成田国際空港」となっているようです。成田国際空港の英文名称は、Narita Internnational Airportです。

 

成田もTokyoと言っているなら、茨城もTokyoと名乗っても良いかなと思ったのですが、成田がNaritaと言っているなら、茨城空港は茨城国際空港の方が良いのではないでしょうか。

 

その他の案については、産経ニュースに記載がありました。

空港の愛称をめぐっては以前から県議会を中心に「東京」を使った名称を付けるよう求める意見があり「東京北空港」「水戸黄門空港」などの案も出ていた。

とあります。

茨城空港、海外向け愛称に「Tokyo」 - 産経ニュース

 

東京北は別として、「水戸黄門空港」は「高知竜馬空港」や、「出雲縁結び空港」に近いものです。

産経ニュースには、

現状でも空港利用者数は着実に増加しており、昨年は過去最高の80万人を突破。うち約8割を国内線利用者数が占めている事実もあり、有識者らは国内では名称が定着していると考え、一層の浸透には「茨城空港」の愛称を踏襲する必要があると判断した。

ともあり、英文名称だけがTokyoを付けた理由が記載されています。

 

スローガンでも、ネーミングでも、社名でも、日本語名称と英文名称が不一致なものが時々出てきます。何某かの理由はあるのですが、あまり好ましいものではありません。その名称が、皆に受け入れられる、本物の名称にならないように思います。

日本語でも英語でも同じ。これが、ネーミングの目指すべきだと思います。

 

ちなみに、ネットでは今回の「Tokyo Ibaraki International Airport」という案は、県民として恥ずかしいとか、相当、突っ込みが入っているようです。

 

※ 最終的に、英文は「Ibaraki International Airport」に落ち着いたようです。

茨城空港愛称決定、有識者案の「Tokyo」はボツに(産経新聞) - Yahoo!ニュース

 

有識者会議の提言の「Tokyo」を付ける案について、知事は海外では有効としながらも、県民からの反対を押し切ってまで「Tokyo」を付ける必要はないとしたようです。

 

日本語と英語の齟齬を無くすために、国内の名称にも、「国際」の語を付けても良いのになとは思いました。

電子契約の効力

電子署名者の違い

2020年5月30日の日経に、電子契約の効力についての記事がありました。本人が電子署名することを前提にした電子署名法があるが、現在主流の電子契約サービスは第三者による電子署名である。海外では第三者による電子署名でも有効な契約と判例で認められているが、日本では認められておらず、立法的解決が必要であるという記事です。

電子契約の効力 法的リスクも: 日本経済新聞

  • 電子署名法は、電子文書への電子署名に手書きの署名や押印と同等の効力を持たせる
  • 同法3条に電子文書に本人だけが行える電子署名がなされていれば、文書は本物として成立すると規定
  • 現在主流のクラウド型は、当事者同士が電子署名せず、契約書をネット上で双方が確認し、立ち会った弁護士がその名義で、契約書が甲と乙によるものであることを確認したと電子署名するもの
  • 契約当事者双方は電子証明書などの取得が不要
  • 契約の形式は本来自由であり、立会人型でも成立
  • また、英米では、立会人型の電子契約が普及し、判例で有効性確認
  • しかし、法務省クラウド型は電子署名法3条の推定効はないという見解
  • 日本組織内弁護士協会は、クラウド上の電子署名の有効性を認めて欲しいと訴え

というような内容です。

 

コメント

クラウド型電子契約は、4月に1月~3月の累計件数を上回るなど、最近急成長している事業分野です。TM CMも良く見ます。

 

記事には、弁護士ドットコムのクラウドサインが代表例として挙がっています。まあ、ここまで普及してしまえば、クラウド型でも、契約の有効性を否定するのは難しそうですが、多少はもめる可能性はあるということでしょうか。

 

クラウドサインのWebサイトを見ましたが、電子契約で80%のシェアがあるとあります。

テレワーク特設サイト|電子契約クラウドサイン

立会人型か本人の電子署名型かは、Webサイトの記載からだけでは、良く分かりません。クラウドサインによる契約締結の法的な問題点については、次のように説明しています。

日本の法律では基本的に契約方式は自由であり(契約方式自由の原則)、当サービスで契約を結ぶことに問題はありません。また電子署名の付与、合意締結証明書の発行により証拠力を担保しています。

 

弁護士ドットコムは弁護士が運用しているので、弁護士による電子署名ということが可能ですが、他のサービスでは、どうなのでしょうか?

GMO電子契約AgreeのWebサイトを見ていると、複数のサービスを提供しているようです。

GMO電子印鑑Agree|電子契約の電子署名・サイン

印影を使用するタイプ(電子印影)、メールで認証するタイプと手書きサインを追加するもの(電子サイン)、電子署名するタイプ(電子署名)と、3種類に分けてサービスを提供しているようです。

「(電子)サイン」と「(電子)署名」、違うんですね。

 

電子署名のものですが、本人が電子署名を届けておくとありますので、立会人型ではなく、本人の電子署名型だとは思いますが、双方の会社が電子署名を届けておかないとできないですよね。

そこはどうなっているのでしょうか?

 

社長名での押印といっても、実際に押印するのは、文書課の方だったりすると思いますし、意思決定も担当役員とかだと思います。出願委任状への押印レベルなら課長レベルにエンパワメントされていると思います。

 

電子契約の内容を承認したと連絡するのも、最終的には法務や知財の課長や担当レベルと思いますが、そのエンパワメントも内部的には明確にしておかないといけないですね。

電子契約をするなら、同時に内部の仕組みを決めないといけないように思いました。

 

Shopify(ショッピファイ)

アマゾンキラー、楽天と提携

2020年5月29日の朝日新聞に、アマゾンキラーと云われるカナダ発の通販サイトのShopify(ショッピファイ)が伸びており、また、4月に楽天と提携したという記事がありました。

 

  • 手軽にECサイトを自ら作れるサイト
  • 定額課金で契約すれば、独自のECサイトを簡単に作れる
  • 在庫、配送管理、決済はショッピファイのシステムを使える
  • コロナ問題以降、レストラン等に利用拡大
  • 4月は前年度比50%増加
  • 楽天とは、楽天市場にそれぞれが小さな店を出すもので、哲学が共通
  • ショッピファイを通じて、楽天市場に出店できる

というような内容です。

 

コメント

Shopifyはグローバル企業である点と、定額の費用が特徴のようです。

 

まず、日経にShopifyの記事がありました。

アマゾンキラー、ショピファイ 世界で100万社超導入 (写真=ロイター) :日本経済新聞

 

ゴーゴーカレーが使っているようです。

ゴーゴーカレーの次なる挑戦とは | マーチャントストーリー - ゴーゴーカレー — サクセスストーリー

 

ビデオで解説がありました。

とあります。ゴーゴーカレーは、世界に広げる計画のようであり、日本からの越境ECを考えているようです。そのために、Shopifyが適していると判断したようです。

 

国内のShopifyを使っている企業のまとめサイトがありました。

【事例】国内のShopify事例集めました! – 株式会社フルバランス

 

ゴーゴーカレーの他、案外、老舗なども使っているようです。紹介されていたものは、ドメインネームは独自ドメインです。

 

国内には、よく似たECサイト作成サービスとして、BASEというものもあるようですが、BASEはサイト作成は無料で、商品が売れたときに、課金されるシステムのようです。

 

ECサイトを作る場合、商標問題が発生します。販売する個々の商品の名称の商標登録も必要ですし、Webサイトの名称の商標登録も必要です。

少なくとも、商品なら該当する商品区分で商標登録を取っておくべきですし、できれば商品販売役務で押さえておいた方が良いとされています。

 

これが、ゴーゴーカレーのように越境ECとなると更に海外での商標登録が必要です。

 

おそらく、ネットやITを駆使した特許事務所が受け皿になっているのだと思いますが、スタートアップのECサイトオーナー向けに、商標調査・出願の支援をすることは社会的には必要なことなんだろうなと思いました。

 

 

3条2項の機能論

識別性(distictiveness)と識別する(distinguish)

2020年5月号の大塚教授の論文の続きです。

商標が特徴があって識別力を有すると登録されるが、特別の特徴がなく識別力がないときは登録されない(3条1項)。しかし、識別力がない商標であっても使用され、業務上の信用がある程度を超えるときは商標登録を受けることができる(3条2項)。3条2項は出所表示機能を審査するものとしています。

そして、識別力を有しない容器(商標/標章のこと)が、識別力を有する器に変化する訳ではなく、使用によって変化するのは、あくまで容器に蓄積された業務上の信用であるとします。

脚注では、商標法3条2項は「使用による識別力の獲得」の規定と説明されることが多いが、識別力は当該商標固有の能力であって、獲得されるという性質のものではないと説明されています。

 

コメント

工業所有権法逐条解説では3条2項を、「いわゆる使用による特別顕著性の発生」の規定であるとしています。特別顕著性とは、自他商品・役務識別力というというのが青本の説明方法ですので、使用することで識別力が発生する=獲得するというのが、通説的な理解です。

我々は、商標法3条1項1~5号は識別性(識別力)は、類型的に商標登録の適格性がない(識別性のないもの)のものを列挙しただけで、その総括規定が6号で、そして、経験的に例外があることが認められており、その例外が3条2項なんだという説明に慣れてしまっています。

 

米国では、Distinctivenessの説明で、通常はDistinctiveであるとして拒絶される商標でも、Secondary meaningが発生しているときは登録されるとあります。

この状況は、当該商品の普通名称では起こらず、記述的商標などでは発生するという説明はあります(West Nutshell Series Intellectual Property 2nd Ed. -Patent, Trademarks, and Copyright)。

この説明は良く聞きますので、理解しやすいものです。

通名称や慣用商標の場合、Secondary Meaningが発生すると、もはや普通名称や慣用商標ではないと考えるべきということは言えます。

 

手元のCTM以降の英国商標法の本によると、識別性は絶対的拒絶理由(Absolude grounds for resusal)ですが、Acuired Distinctivenessと説明があります。

 

欧米は、青本的な理解のようです。

 

さて、日本の商標法の条文の文言を見てみると、3条2項は「(使用をされた結果)需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」については、商標登録を受けることができるとします。

この点、3条1項の総括規定である3条1項6号には「(前各号に掲げるもののほか、)需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」は商標登録を受けることができないとあります。

「できる」と「できない」という反対の文言が使われていますが、その他の言葉は全く同じです。

大塚教授の指摘を敷衍すると、3条1項自体が、自他商品識別機能ではなく、出所表示機能を問題にしているように読めます。

 

侵害論では、商標機能を使った議論が相当されていると思いますが、登録要件論で機能論を入れるところまでは至っていない感じです。大塚教授の指摘は面白いのですが、もし、商標の機能論で商標法の登録要件論を解釈しようとするのは冒険だなと思いました。

 

●ここからは余談ですが、

英語の辞書を見ていると、

出所混同や類似の説明で、良く使うdistingusihは、「見分ける」「区別する」「識別する」ですが、「区別する」と訳すのではなく「識別する」と訳している商標専門家が多いと思います。

一方、distinctivenessは、「特殊性」「特徴」という意味です(英英辞書には、「特徴、性質、外観であって、差異及び容易に認識されるもの、を持っていること」とあります)。

 

問題は、日本語の「識別」は、先天的登録性のことを示しているのか、混同のことを示しているのか、分かり難いので、本当は訳を変えるべきであるように思います。

先天的登録性のときは、distinctivenessは、正直に「特別顕著性」と訳し、出所混同のdisitinguishは、従来の識別性と紛らわしくないようにするために、「識別」ではなく「区別」という言葉で訳す方が間違いが少なく、一般の人には伝わりやすいように思います。

折角、「特別顕著性」ではわかりにくいので、「識別性」としたのですが、誤解の元になっているように思います。

 

そう考えると、

  • inherent registrability(先天的登録性)/distinctive(識別性)は、絶対的拒絶理由であり、
  • The third party's rightとのconflict(抵触) ≒similar(類似) ≒confusion(混同)≒ distinguish(区別する)は、相対的拒絶理由と、

欧州風に整理するべき時期に来ているように思います。