Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その59)

商標登録無効審判

登録に瑕疵がある場合、このような本来登録されるべきでなかった商標を、排他的独占的な商標権として有効に存続されることは、表示自由使用の利益に反し、公益に合致しない。このような登録商標は、原則として登録無効にすべである。

 

説明内容としては

  • 無効審判事由と登録拒絶事由の差異
  • 後発的無効事由の審理の運用指針(後発的無効事由に該当するに至った日を明らかにする必要がある)
  • 商標登録が普通名称化、慣用商標化した場合(他の適切な無効理由がない限り、登録は存続する。26条1項2項しか方策がない。)
  • 除斥期間
  • けりあい現象
  • 無効の遡及効(後発的無効事由については、その原因が生じたときから。商標法46条の2)

というようなところです。

 

コメント

後発的な無効理由に、普通名称化がないのは論点です。無効審判では、いつから普通名称化しているのかなどという難しい問題が生じます。特に、普通名称化などは、いつから普通名称化したなどと明確に言えるものではありません。

新しい取消審判を創設して、取消後に消滅するとすべきだと思いますが、そうなると新しい制度を作る必要がでてきます。ここはひとつの論点だろうと思います。

Wikipediaによると、普通名称化の取消は、次の国にあるそうです。

米国14条、EU50条、英国46条、ドイツ49条、フランス714条の6

商標の普通名称化 - Wikipedia

 

無効と異議を二本立てで持つ意味ですが、EUTMでは無効請求では相対的拒絶理由も絶対的拒絶理由も双方とも主張できますが、異議申立では原則として相対的拒絶理由の主張しかきません(絶対的拒絶理由の主張ができない)。

 

EUTMは審査主義であるといっても、指定商品の問題と、絶対的拒絶理由しか判断しません。審査官の審査と異議申立をセットで、全体的に審査と見ることが可能です。異議申立は先行権利者による(公衆によるではなく)、審査という考え方です。

 

審査というと民間ではなく役所がする行為のように思いますが、欧州では先行権利者がトリガーを握ります。先行権利者の義務のようでもありますが、自分の権利を守り広げるための権利と見るべきなのだろうと思います(異議申立権のようなものをイメージします)。

 

ここまでさっぱりと異議申立は先行権利者による相対的拒絶理由の判断(よって、異議では相対的拒絶理由しか列挙していない)、無効は行政庁による登録の瑕疵の判断(よって、絶対的拒絶理由も相対的拒絶理由もある)、と割り切ってしまうと、異議申立制度がガゼン生き生きとしてきます。

 

現行の日本の実態を見ていると、異議は無くしてもよいかもしれない程度のものになっています。付与前異議に戻して、異議を活性化するか、異議申立を無くして無効審判に一本化するかですね。

 

しかし、スイスなど、無審査主義国で、異議申立がないのは理解できますが、審査主義国で異議申立がないとするのは、海外の人に驚かれるでしょうね。そう考えると、付与前異議に戻して、活性化を図るのが、一番筋が良いように思います。

 

付与後異議は、相対的拒絶理由を審査しない欧州タイプと整合性がよく、あまり審査主義国向きではありませんでした。

新・商標法概説(その58)

審査主義と無審査主義、登録異議申立制度

 

審査主義と無審査主義については、審査主義が妥当であるとして、各国法の比較をしています。

 

出願公告制度の廃止の理由は、マドプロの条件を満たすのが大変だったことと、早期権利付与の要請があり、特許法に合わせて、付与後異議になり、情報提供が重要になったとあります。

 

付与後異議になった異議申立については、付与前異議の時代からその法的性質については、争いがあったとあります。

  1. 単なる情報提供(立法者意思、特許庁の立場)
  2. 審査官が情報を得て、審査の完全と適正をはかろうとするもの(最高裁
  3. 申立人の利益を擁護するためのもの
  4. 強く公法上の異議申立権(高裁、地裁判例

実務上は、情報提供とされ、出願速報(※現在は出願公開)と情報提供が重要とあります。

 

異議には、無効審判同様に審判の規定が準用されているが、必ず行わないといけないのは、登録異議申立書の副本の商標権者への送付のみであり、答弁書や弁駁書の送達や、どこで事件を終結するかは、審判長が決定すれば良いとなっています。

 

異議申立の法的性格は、商標登録に瑕疵がある場合に、特許庁自らその是正を図り、商標権の信頼を高めるためのものであり、無効審判は商標登録の是非をめぐる争いを解決するための制度であり、両者は異なる、とあります。

 

コメント

審査主義と無審査主義については、通常の感覚でいうと、絶対的拒絶理由の審査を指すのではなく、相対的拒絶理由の審査を指すと思います。

現在の欧州はフランスのみでなく、イギリス、ドイツも審査するのは、絶対的拒絶理由だけです。

相対的拒絶理由は審査せず、異議申立において当事者が解決し、当事者が解決できないときだけ異議決定をするという制度です。

この意味では、欧州は無審査主義と整理することも可能です。

 

無審査といっても、一番重要な識別性や独占適応性、公益的不登録理由などは審査されるのですが、上記の審査といえば相対的拒絶理由という面からすると、欧州はまとめて無審査主義とした方が良いように思います。

ただし、欧州の異議申立は、絶対的拒絶理由は異議理由にならず、相対的拒絶理由だけが異議申立理由になっています。

このあたり、欧州は異議と無効の役割を分けています。

 

日本の異議では、識別性なしの異議理由が良くありますが、欧州では認められません。

相対的拒絶理由は、審査官の審査では判断しないが、異議申立のなかで必要に応じて審査官が判断するという、この一式で審査をしているとも言えます。

こうなると、欧州では異議の性格は、情報提供ではなく、上記の3.4.のような申立人の利益の擁護、公法上の異議申立権に近いと思いました。

 

小野先生は、付与後異議になっても、異議申立の法的性格は、変わっていないと整理されていますが、条文上や運用上は、そうであっても、登録後という点で、単なる情報提供というのは無理があるように思います。

付与後異議で先行する欧州タイプに変質していると考えた方が良いように思います。

 

さて、この付与後異議ですが、付与前異議に戻すべきという主張が非常に多くあります。

色んな理由がありますが、異議申立は商標制度の華であり、一番重要なものであるのに対して、付与後になって利用率が低下して、取消決定よりも維持決定も多く、これでは、異議制度を置いておく意味がなく、以前の方が幾分ましだったという感覚です。

付与後異議は、欧州のように、相対的拒絶理由は無審査として、類似や抵触は、当事者に任せるときにはじめて有用であり、これは失敗だったなと思います。

平成8年の法改正のとき、知財協会の商標委員会にもヒアリングがあり、法改正担当者も、無理に特許に合わせなくても良いと言っており、委員長は付与前異議の方がよいのではないかと自問自答されていたのですが、私などは早期権利化のために付与後異議が良いなどと発言したのですが、間違いでした。

今から考えと、浅はかだったなと思います。

新・商標法概説(その57)

出願公開制度

特許庁長官は、商標登録出願があったときは、出願公開をしなければならない(12条の2第1項)。国際登録も、国内登録も同じ。

商標登録出願人は、①商標登録出願をした後に、②当該出願に係る内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、③その警告後商標権の設定の登録前に当該出願にかかる指定商品又は指定役務について当該出願にかかる商標の使用をした者に対し、④当該使用により生じた業務上の損失に相当する額の金銭の支払を請求することができる(13条の2第1項)。この金銭的請求権は、商標権の設定の登録があった後でなければ、行使することができない(13条の2第2項)。

 

公開制度は、マドリッドプロトコールへの加盟に関係する。ヨーロッパ各国は、商標寄託制度から出発した使用主義の商標法制度を包含するものであった。国際登録日から、指定国の官庁に直接出願されていた場合と同一の効果が生じ、

拒絶通報期間に拒絶する旨の通報をしない場合には、国際登録日から、その商標がその指定国の官庁に登録されていた場合と同一の効果が生じる(議定書4条(1)(a))。

この条約上の義務の履行のためには、出願公開と金銭的請求権の創設が必要であった。

使用主義の方向にさらに一歩近づいたといえる。

 

また、商標の早期保護のためという理由もある。平成11年(1999年)法改正では、商標・サービスのライフサイクルが短縮し、登録前に顧客吸引力等が発生するケースが増加し、出願段階から一定の保護が必要という議論があった。特に、商標は模倣が容易であり、商標の信用力の毀損に対して、周知性を要求する不正競争防止法よりも迅速な保護が得られる制度の構築の必要性が高いとした。

 

金銭的請求権については、

マドプロ導入時の比較法的検討で、イギリスと中国は、自国における登録後に損害賠償請求のみで、ドイツとフランスは、国際登録日から損害賠償請求+差止請求を認めていた。

差止請求は、登録後の権利行使とすることとの整合性、仮に認めた場合に設定登録されなかったときの法的処理の困難性から、認めなった。

 

損害賠償請求ではなく、金銭的請求としたが、これは商標権は設定登録により初めて発生するという権利という現行法の基本を維持したもの。

金銭的請求権は、商標権の設定登録を停止条件、商標出願の失効を解除条件とする特別法(商標法)のみなし特殊不法行為であり、商標法、特許法民法等の規定が準用される。

 

コメント

特許庁の説明会には参加して聞いてはいたと思いますが、小野先生の本を読んでいて少しづつ記憶が蘇ってきました。

 

出願公開制度が導入され、金銭的請求権が導入されたということですが、出願公開はその前から公開速報で公開されていたので特に違和感はなく、金銭的請求権は特許の補償金請求権があったので、これもそれほど違和感がなかった記憶があります。

 

自国での登録までにの間に、差止を認める無審査のドイツ・フランスと、差止を認めないイギリス・中国という対比ですが、イギリスもこの後に相対的拒絶理由は異議待ち審査に移行した(2007年10月)ので、平成11年法改正(1999年)のときは古いイギリス法を参照しているはずです。

イギリス法は、このあたりはどうなったのでしょうか。イギリスもドイツ、フランスに合わせていてもおかしくないように思います。そもそも、絶対的拒絶理由の審査だけですので、早いですし、相対的拒絶理由の異議がなければ登録自体が早いので、あまり時間的なことは問題にならないのかもしれません。

 

最近、欧州出願するときに、EUTMの他に英国出願をすることが多くなっています。絶対的拒絶理由ですが、EUTMとは違う拒絶がきます。EUTMよりも厳しいかなという感じがします。

 

さて、この金銭的請求権ですが、実施の講師は自国での登録後ということですので、特に遠慮なく使えるように思いますので、係争案件では使っているということになるんでしょうね。

損害賠償請求の規定が多数準用されているので、損害賠償請求としても良かったのですが、そうしなかったのは、現行法の設定登録後に商標権が発生するという体系を維持することが理由でしょうか。

 

 

 

 

新・商標法概説(その56)

先願主義の例外(博覧会出品、出願分割、出願変更、優先権、要旨変更新出願)

 

これらは、先願主義の例外とまとめられています。

  • 博覧会出品物は、商標出願はその出品又は出展の時にしたものとみなされる(9条1項)
  • 分割による新たな商標登録出願は、元の出願時にしたものとみなされる(10条2項)
  • 出願変更したときは、出願日の遡及効があり旧出願は取下げられる(10条2項、11条5項、12条3項、65条3項)
  • 優先権主張を伴う後の出願は、その間に行われたtがの先出願より不利な取扱いは受けない。すなわち、それより前にされた出願よりも優先される(パリ条約4条A、C(1))
  • 補正却下後の新出願は、一定の手続きを踏むと、手続き補正書提出ときに出願したものとみなされる(17条の2第1項、意17条の3)

論点的なものは、

  • 査定系の審決取消訴訟継続中に分割出願した時に、分割のできる時期と補正のできる時期のズレ(商標法条約の関係で、分割は審決取消訴訟継続中も可能だが、一方の補正は審査審判再審継続中のみのまま)から、2つの高裁判例が割れていたが、最判平成17件7月14日の「eAccess事件」で決着がつき、審決取消訴訟継続中の補正は遡及効がないとしたものでしょうか。
  • この場合、分割による新規出願はできているので、出願人に不利はないという判断があるそうです。

コメント

●まず、博覧会出品です。

あまり考えたことは無かったのですが、博覧会出品の保護は、ある意味、先使用主義的です。

出品後6ヶ月という限定はありますが、使用はしているが、出願はどの国にも、一切していません。もし、これを意匠のようにマーケティングリサーチまで認めるとすると、相当、面白くなるのではないかと思います。6ヶ月限定の使用主義の採用です。

マーケティングリサーチですが、意匠で認めて、商標で認めないというのはどういうことでしょうか?意匠図形を書くのは大変で、商標見本を作成するのは、簡単という判断でしょうか?

ここは、深堀すると、大きなテーマになるかもしれません。

 

●分割は、マークの分割はできないとサラリと記載がありますが、もう少し、柔軟にできても良いように思います。

 

●分割出願ですが、大阪の元弁理士の対応の法改正については、この本には記載がありません。彼の行為は、許されないのでしょうが、現行法の欠点をさらけ出す効果はあります。

 

中国との比較をしてみたいと思います。

日本では、分割出願は新出願と捉え、ただ、分割時に旧出願を補正して問題のない部分だけにして、問題のある部分を新出願として、結論として、問題のない部分を早期に権利化するというものです。

一方、中国では、反対に、問題のあるものを旧出願に置いておき、問題のないものを新出願として、新出願に元の出願番号にプラスして「A」の番号をつけて(中国は出願番号と登録番号が同じ=EUTMと同じ方法)、分割した新出願をサッサと登録してしまうという運用です。

日中の運用が、まったく違うので面食らう点ですが、中国の場合は、問題のないものは即登録になり、問題のある部分はそのまま即拒絶になり、審判を請求しないと拒絶確定です。

審査段階で実質的な意見書の提出をするのではなく、そのような不服は審判で初めて聞くということで、不服申立の機会は少ないのですが、スピードアップが図れます。

日中とも問題のない部分が即登録になるのは同じですが、問題のある部分が日本では新出願なのに対して、その問題のある部分が中国では旧出願として残ります。

日本の場合は、分割出願は新出願ですので、方式から始まって、別の審査官が審査することも多いと思います。

一方、中国は、即拒絶で、審判です。この点、スピードアップが図れているように思います。

 

中国で多区分出願をすると、一部に問題の商品があると、全体が拒絶され、分割出願をしないといけないのですが、例えば、3区分の1区分に問題がある場合、当該問題のある1区分の一部のために、3区分の分割新出願をしないといけなくなり、無駄があるので、はじめから1区分ごとに出願した方がよいと代理人がいいます。

商標によっては、いつも拒絶を受けるとは限らないので、将来の便宜のために多区分出願をしても良いのですが、一区分ごとの出願を良いとする傾向にあるようです。

 

さて、小野先生が紹介している、最高裁判例ですが、中国的に処理すると、問題のあるものが残り、問題のないものが分割出願で新出願です。審決取消訴訟で行った、新出願はその後速やかに登録になるとして、問題になっている部分は、旧出願にありますですので、これが審理されないことは無いと思います。

この平成17年(2005年)の判決は、日本的な立法ミスなのか、当初から最高裁のようなことを想定していたのか不明です。

 

全体に分割については、中国は発想の転換をしているように思えます。そのため、相当に審査のスピードアップを図っているように思います。

 

中国は分割が数が多いのですが、欧州や米国の分割はあまり経験がないのですが、どうなんでしょうか。

新・商標法概説(その55)

先願主義

我が国は登録主義を採用し、商標権者の商標使用の法的安定を確保している。

2以上の商標出願があるとき、最先の出願人に登録をするのが、先願主義であり、我が国は「先願登録主義」をとっている。

ここで、単一の商標だけしか登録されないことが不正競争防止、品質保証の観点で重要であり、4条1項11号がある。

 

明治21年の商標条例は、先願主義であるが、これは未使用商標権者同士は先願主義であり、先使用があれば、それが優先された(先使用登録主義)。

 

使用主義制度では、先に出願したものよりも、先に使用をした者に商標登録を受けさせるが、この先使用の決定が困難である。先願主義は争いが生じにくく、法的安定性が高い。

半面、法的安定は具体的妥当性に欠けるときがあり、そのため、(未登録)周知商標の保護がある。

 

単なる悪意の出願人は、単純にこれを排除できないが、「害意」のある商標出願人の排除が課題であり、欧米諸国にくらべて、この点、法政策的・解釈的に遅れているという批判がある。

 

先願違反は、4条1項11号があるので拒絶理由ではないが、無効理由である。

また、先願の確定を待たずに、拒絶理由を出せるようになっている(15条の3)。

 

同日出願のくじは、商標特有のもので、技術の利用自由という側面がなく、同時登録を避けると次の出願人が登録を取得してしまい不合理だからである。

 

コメント

明治21年の商標条例が使用主義的な発想だったことが分かります。今話題ミャンマーのこれまでの制度がそうでしたが、そもそも登録制度のない商標法は非常に少ないものです。

 

アメリカの使用意思に基づく出願では、登録の条件として使用宣誓(使用実績)の確認がありますが、審査自体は既に先願主義的です。ほぼ、先願先登録が後願を排除しています。先使用が事案を決することはあまりありません。

 

それはさておき、気になったのが、現在、世界の主流になりつつある欧州の登録制度との関係です。

EUTMでは、相対的拒絶理由は、当事者の異議待ち審査です。当事者が異議をしなければ、同一・類似の商標が併存登録されます。

EUIPOから同一や極類似については、権利者に異議の督促のような通知が来ますが、権利者が不使用なら費用をかけて異議をするまでもないので、その場合、重複登録が生じます。

重複登録が生じた場合、第三者との関係では、権利者が当該商標を使用していることが前提にはなりますが、双方権利行使が可能です。

 

重複登録を是とするか、重複登録は絶対にNGとするか、二者択一ですが、欧州は是としており、日本やアメリカ(昔のイギリス)は非としています。

 

一物一権主義を貫き、綺麗な状態を目指すか、まあまあで良いとするかの分かれ目です。

 

EUTMには、欧州統合の影響があります。技術標準の話ですが、例えば、ヘルメットに関して、各国で標準があったようですが、その仕様自体を標準化することは、各国の既存の標準との利害が対立して、統一が難しかったようです。しかし、仕様標準ではなく、求めるべき性能という標準を作り、仕様は色々あっても良いとすると、従来の各国毎の標準をひっくり返すことなく、整合性がとれるようになったようです。そして、性能標準を満たしたものは、相互認証により、欧州域内を自由に流通できるようになります。 

nishiny.hatenablog.com

 

この考え方の延長に、EUTMの当事者が問題ないとしている商標は併存しても問題ないという思想を感じます。

欧州の国は、アメリカの州のようなものですので、州登録が沢山あるようなものであり、その上に自由流通を目指した、制度をつくるならこうせざるを得なかったのはわかります。

 

この視点で見ると、小野先生が良いと主張される単一商標の原則、一物一権主義が、少し色あせて見えます。

 

小野先生は、サービスマーク登録制度導入前のサービスマークや商号など、不正競争防止法という混沌とした世界で生きてこられたので、一物一権主義の商標登録制度が理想的に見えていたのかもしれません。

 

 

 

 

新・商標法概説(その54)

一商標一出願の原則、一出願多区分制、指定商品(役務)の指定、商品(役務)の一部放棄

 

重要な点は、

平成3年の法改正で国際分類が採用され、それまで認めらてきた、「その他本類に属する商品」というような「全類指定」や包括概念が認められなくなり、省令別表の中概念、小概念での指定となった点と、

平成8年の法改正で、旧分類を書き換えることになり、全て国際分類となった点です。

 

特に、包括概念による指定商品指定は、

  • 国際的には例外
  • 不合理な縄張りとして多くの弊害
  • 社会の商標制度に対する批判も、包括概念を認める実務からくる場合が多かった
  • 全類指定しておいて、実際に使用するのは一つの商品など
  • 不必要に第三者の商標出願を妨げる
  • 使用許諾制度があるため、商標権者に許諾料を請求される
  • 平成3年には、「その他本類に属する商品(役務)」という記載方法を許さないとした

とあります。

 

他に、重要と思ったのは、

  • 無効審判や取消審判は、指定商品・役務ごとに請求できる
  • 指定商品(役務)の取下げができる期間について、高裁レベルで2つの考え(いつでもできると、補正可能期間に限る)があり、最高裁が指定商品の一部放棄は手続き補正書の提出期間後はできないとした

という点でしょうか。

 

コメント

国際分類採用時に議論されていることが、今も、議論になっています。

最近の商標の類似は、判例を見て判断している審査官、審判官が多く、審査基準では類似になるものが、非類似と判断されることが多く、実務の予測可能性を害するという意見があります。

ただ、この議論には、商標審査基準の通りに運用すると、採用できる商標がすくなくなり、商標の類似範囲を細かく設定することで、使用できる商標を確保しなければならないという考えがあるのではないかと言われています。

 

標章(マーク)の類似を狭くする方法以外で、商標採択の余地を広げるもう一つの方法が、商品(役務)の類似範囲を細かくしたり、商品(役務)の指定方法を変えるべきではないかという意見です。

 

現在、商品(役務)の類似範囲は、類似群コードの短冊の概念ですので、昭和の時代と同じです。

類似群コードを採用する中国などに比べても、一つの類似群が大きすぎるので、これを分割しても良いと思います。

 

もう一つが、「電気通信機械器具」「電子応用機械器具」など、大概念表示が認めらているのを、中国、台湾、韓国のように、この主の包括表示を認めず、小概念の「テレビ」「ラジオ」しか認めないとする考えです。

 

商標の類似を細かく見るというのが、行きつくところまで行ったので、次は商品(役務)を細かくするしかないという考えです。

 

元々、ハウスマークとペットネームがあり、ハウスマークは広い商品(役務)で権利が必要ですが、ペットネームは狭い商品(役務)で十分であり、この調整という面もあります。

 

平成3年の約30年前の議論が、同じことを議論していたことに驚きますが、そのとき、類似群コードをなくしたり(あるところまで議論がありました)、全類指定だけではなく上位概念指定もなくしたり(中国、台湾、韓国は無くしました)しておけばよかったのですが、今も当時も、既得権益のある人が反対をするという構図だと思います。

 

小野先生の議論にはないのですが、商品(役務)の小概念での把握は、商品(役務)の重要性を、嫌でもクローズアップさせます。従来、商標のみに限定されていた実務が、やっと商品(役務)に同じ比重で重要性を置くことになります。

商標専門家は、標章(マーク)の類似とともに、商品(役務)についての専門家になるということを意味します。

 

書き換えは良くやったなと思いますし、今の類似商品役務審査基準は、だんだん具体的な商品(役務)を中心としたものになっているので、次は、類似群の分割と、上位概念の廃止でしょうね。

 

一見、上位概念の廃止は簡単そうですが、書き換えをやる必要があるので、これも大変です。

類似群コードの廃止や再分割と、上位概念の廃止は、セットで検討が必要になりそうです。

 

新・商標法概説(その53)

業務記載の廃止、標準文字、国語主義

 

業務記載については、商標法条約により、手続きの簡素化の観点から廃止された。

ただし、願書に記載を要求しないだけであり、審査はあり、例えば銀行のように法的な業務制限のある企業が、明白に行うことができない商品・役務について商標出願をした場合は、「自己の業務に係る商品(又は役務)について使用しないとして、登録を受けることができない。

 

なお、サービスマーク登録制度導入時に問題になったことだが、子会社の業務は「自己の業務」と見る(商標審査基準)。

 

標準文字は、出願人が商標の態様について特別に権利要求しないときに、願書に標準文字と記載して、商標を願書中にワープロ等で直接記載できることとした制度。

イギリス、米国等の多くの国で採用されているもので、特許庁の事務所のため、出願人の負担軽減のために導入された。

標準文字の文字数は30文字以内とされている(※ 知りませんでした)。

また、マドプロ出願の「standard characcters」である旨の宣言は、商標法第5条3項の標準文字としては取り扱わない(※ 知りませんでした)。

標準文字では、図形、縦書き、二段書き、大小の級数の書体、色彩、花文字などはNG。

この標準文字の効力の範囲が、通常の登録商標に比べて広くなる又は狭くなるということはない。

 

商標法条約では、原則として各種の説明書を禁止しているが、3条2項の説明書、事業計画書、指定商品に関する説明書などがある。

 

最後に、国語主義。願書などはすべての書類は日本語で作成しなければならない。外国人の委任状、優先権証明書、外国登録商標証明書などは日本語の翻訳文が必要。

 

コメント

商標法条約は、いろんなことを決めた条約で、このあたりにも影響が出ているようです。

 

会社に入ったころは、願書は紙の書面で作成していたのですが、商標見本は必ず作っていましたし、業務記載もしていました。

商標見本は、会社に出入りの名刺屋さんにお願いして、ワンセット20枚で800円とかだったと思います。

指定商品も、第11類の短冊表現すべてのゴム印があり、それをポンと押し、

業務記載も、決めているゴム印があり、それをボンと押し、

委任状は、社長特許印というものがあり、それをポンと押し、

10分で願書ができました。

4時半ぐらいまでなら、事務の人に出してもらえましたし、急ぎのときは、6時ぐらいまで待ってくれたような気がします。

昔は、いまよりも牧歌的です。

 

マークの類似判断以外は、あまり検討していなかったなと思います。

 

それから考えると、この30年で商品が非常に難しくなったのではないでしょうか。今の類似商品役務審査基準を見ても、電話帳のような分厚いものになっています。

また、複数の類似群に該当する商品が増えており、各区分の後ろの方にありますが、これは蟻の一穴になり、数十年経つと、類似群コードが崩壊する可能性があるのではと思ったりします。

 

標準文字は味気ない面があります。30年前は、商標公報の回覧があり、印象に残っている会社があります。お菓子の会社で、手書きの出願でした。

当時もコピー機はあったので、手書きでもコピーで同じものを作成することは可能でしたし、プリントゴッコという裏の手段もあったのですが、非常に印象に残っています。

各社、フォントが違いましたので、フォントを見ただけで、自社の出願かどうか分かったりもしました。

 

国語主義については、特許出願などが英語できる(翻訳文は必要)と聞いているのですが、商標出願はできないのでしょうか?

特許と差を設ける必要性はあまりないように思いますが、どうなんでしょうか?